忍び寄る脅威2
「わかった。今から出発するのか?」
「いいや、出発は明日になる」
薬の空輸を頼まれたので、直ぐに出発するのかと思ったが、どうやら違うらしい。
急がなければならないものだと思っていたので、何故だろうかと思っていると、フリーダは夕方になり茜色になった太陽を見つめていた。
「もうすぐ日も暮れる。君の速度が速いのは知っているが、日暮れまでにはカレオラには到着できないだろう。それに君はカレオラまでの道を知らないはずだ。案内を1人付けるが、暗くなってしまっては地上の様子もわからなくなってカレオラにたどり着けない。
そのため今日は準備に努め、明日日の出と共に出発してもらう。案内役も今日中に決めておく。
君には空輸用の籠を準備したので、それを持って飛べるかどうかを確認しておいてほしい。もうすぐ職人ギルドが籠を持ってギルドへやって来るはずだが、ドラゴン用の籠など初めてだから実物で調整したいと言っていた。
その後にカレオラまでの道程と、枯木病についての細かい説明をするから、何かあった時のために覚えていてほしい」
そこまで説明してもらったところで、冒険者ギルドに籠が到着した。俺用ということで馬鹿でかいサイズだ。
「ちょうど籠も着いたな。私にも色々と打ち合わせが有るので、さっき説明した通り籠の調整を頼む。私も調整が終わった頃には戻ってくるつもりだ」
そう言ってフリーダは冒険者ギルドの中に入っていった。さて、俺も俺の仕事をしますかね。
俺用に持って持ってこられた籠は、籠と言っても背中に背負うような形ではなく、腹の下に吊り下げるようになっていた。わかりやすく言うと、熱気球の気球の代わりを俺がする形となる。
当初は翼の根本にロープをかけるようになっていたが、飛んでいるうちにずれてしまう事がわかり、胴体に巻き付けるようになった。
また、飛んでいる間に薬の入れ物が割れてしまうのではないかと心配していたが、隙間にスライム系の魔物の素材を詰め込むことで解決した。
日が沈み暗くなるまでの僅かな時間に、これだけの事が出来たのは、職人達が俺の事をあまり怖がらなかったのが大きい。俺自身、話が出来るか心配していたのだが、職人達が言うには、仕事柄恐ろしい見た目をしている人間からも依頼をされた事が有り、人を見た目だけで判断しなくなったそうだ。
種族から違うのだがな、とも思ったが、自分の仕事が役に立たないと言われる方が恐ろしい、と言って笑っていたので非常に助かった。職人魂に感謝、なのだが、こういう人達が増えてくれれば、俺ももっと暮らしやすくなるに違いない。
籠の確認が終わった頃、フリーダが戻ってきてギルドへ連れて行かれた。そこで案内役としてマーカスが連れてこられていた。『恵みの大森林』から戻ってきて以来だから約1週間ぶりだ。
「よっ、久しぶりだな」
「案内役だが、マーカスに頼んでいる。先日一緒に帰ってきたから、知らない人間よりも適役だろう。彼はカレオラへも何度も行っているから道もよく知っている。後で他に必要な物がないか、2人で話し合っておいてくれ。
カレオラへの道だが、フィーゲルからは南西の方角になる。地上を進む場合は山岳地帯を迂回して行くのだが、君なら飛んでショートカット出来るだろう。山を越えると大きな湖が見えてくるはずだ。カレオラは湖の向こう岸にある。馬なら4日かかるが、君なら1日かからずに到着するだろう。
次に枯木病についてだが、先程も説明した通り枯木のように痩せ細って死んでしまう病気だ。食事がとれなくなって痩せてしまうが、薬を飲めば直ぐに治る病気でもある。治った後に大量の食事を必要とするので、食料確保も出来れば手伝ってやってほしい。
説明は以上になる。聞きたい事が他に無ければ明日の出発に備えてほしい」
俺の方からは特に聞きたい事も無かったので、マーカスに視線をやったのだが、マーカスも特に無いようで首を横に振っていた。フリーダはその姿を確認すると、またギルドの奥に戻っていった。
他に必要な物についてマーカスと話し合わなければ。
「マーカス、必要な物って何かあるのか?」
「そうだな、普通は旅の支度をする必要があるが、今回は不要だろう。多少の食料を持っていくだけでいいんじゃないか?」
「そうか。……そうだ、お前は冬の服装をしていた方がいいぞ」
「何でだ?もうすぐ夏になるぞ」
「山の上は気温が下がる。山越えをするならなおさら寒くなるだろう。それに今回はかなりスピードを出すだろうから、出来るだけ厚着をしていくべきだろう」
「そういうものか」
「それとむしろこっちの方が問題だと思うんだが、俺が直接カレオラに向かっていったら攻撃されるんじゃないのか?」
「それはあるかもしれないな。街の近くまで行ったら、俺が先に街まで歩いて行って説明をしよう。説明した後のろしを上げるから、それが見えたら飛んできてくれ」
「わかった……それともう1点聞きたいんだが……お前はドラゴン至上主義者じゃないよな?」
「ドラゴン?何だそれは?」
「いや、違うならいいんだ。こっちの話だから気にしないでくれ」
心当たりが無さそうなその様子に俺は胸を撫で下ろす。何気に一番の心配事だったからな。
マーカスとの打ち合わせを終え、俺は家に戻ってきた。心配事は有るが、一刻も早く薬を届けなければならない。俺が早く着けばそれだけ多くの命を救えるだろう。
明日のために、俺はいつもより早めに眠りについた。
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