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冒険者生活9

 クリスティーナに治療(キュア)を教えてもらっている最中、またマイラが暴れだすのではないかと心配だったのだが、相変わらずフリーダと話し込んでいて大人しくしている。


「じゃ…、……す…ばア……さん…結婚………が出……んで……?」

「…え、それ………。…が…任を…………め…せる……」


 所々聞き取れる会話を漏れ聞くと、なぜか背筋が寒くなるのだが、風邪でも引いたのだろうか?

 今教わっている治療(キュア)は状態異常だけでなく、風邪などの病気にも多少効果が有るそうなので、ひどくなるようなら自分にもかけておこう。



 自分で言うのも何だが、治療(キュア)を教えてもらうとあっさりと理解する事が出来た。


「凄いわね。私が教えた中でも最も早いと思うわ」


 俺の習得スピードにクリスティーナも驚いている。恐らく聖龍の聖魔法への適正は人間と比べてもかなり高いのだろう。

 後はマイラに治療(キュア)を実際にかけて治すだけの状態になったので、しばらく大人しくしていたマイラの方を見やると、何やら紙のような物をフリーダに渡しているところだった。


「お願いします」

「任せておいて」


 状況はよくわからないのだが、とにかく問題が起きていないようなのでよかった。


「マイラ、今から」

「アークさんっ、これでずっと一緒にいられますからね」

「うん?」


 今から治療(キュア)をかける事を伝えようとしたら、マイラに言葉を遮られてしまった。やけにテンションが高いように思えるのだが何があったのだろうか?

 疑問は残るがまずはマイラを治さなければならない。


「マイラ、今から治療(キュア)をかけるから、じっとしていてもらえないか」

治療(キュア)ですか?私はおかしなところなんてありませんよ。アークさんのお願いならいくらでも聞きますけど。あっ、そうだ、治療(キュア)をかけ終えたらキスしてくれるならいいですよ」

「……ああ、わかった」


 マイラ自身には自分がおかしくなっている自覚が無いらしい。多分治療(キュア)をかけたらこの約束は嘘になってしまうが、まあ仕方がないだろう。


「ではいくぞ、治療(キュア)


 俺が治療(キュア)を発動すると、優しい光がマイラを包み込む。そしてその光が治まったのか時、マイラの瞳にはいつもの知性有る輝きが戻っていた。

 よかった、無事に治療出来たようだ。


「あれ?私、いったい何を?」

「大丈夫か、マイラ?どこまで覚えている?」

「覚えて?えっ!?ちょっと待って」


 マイラは今までの恥態を思い出したのか、顔を真っ赤にしてしゃがみこんでしまった。可哀想に、毒に侵されていた間の記憶も全て残っているようだ。


「いや。違うんです。あれは私じゃないんです」

「わかっている。毒のせいなんだろう。わかっているから落ち着け」


 俺の声に反応してこちらを向いたマイラだったが、突如としてその動きを止めた。視線は俺ではなく、違う所を向いている。視線を追ってみると、フリーダを見ているようだ。


「ギ、ギルドマスター、それは……」

「ああ、これ?誰かさんから必ず承認させるように念押しされてしまったからね~。大丈夫だよ、心配しなくてもちゃんと提出するから」


 ヒラヒラと振っているのは、先程マイラから受け取った紙のようだ。にこやかに笑っているように見えて黒い笑みに見えるのは俺の気のせいだろうか?


「大丈夫、大丈夫。ちゃんと処理しておくから」


 そう言って言葉を続けるフリーダは実に楽しそうだ。しかもジリジリと出口に近付いている。

 対照的にマイラは血の気が引いたような真っ青な顔色をしている。


「じょ、冗談ですよね。そ、それを返してください!」

「あれだけ熱心に頼まれたからね。じゃあアーク君、マイラも元に戻ったようだし、私もギルドに戻るよ」

「待ちなさい。その紙を渡しなさい」

「待てと言われて待つような人はいないよ。それじゃあね」

「待てって言っているでしょう!」


 マイラの言葉に取り合わず、出口に向かって走り出すフリーダ。そんなフリーダを、ついには敬語を使う事も止めたマイラが追いかけていく。

 正気を失っている間に、そんなまずいものでも書いたのだろうか?フリーダもからかっているだけだとは思うが、あまり遺恨を残さないようにしてほしいものだ。


「あらあら、すっかり元気になったようね。アークさん、私も戻りますね。マイラさんが元に戻ってよかったですね」

「クリスティーナ、今回は助かった。治療(キュア)も教えてくれてありがとう。お礼をしたいが何がいいだろうか?」

「お礼ですか?そうですね、でしたらお金をいただけるのが一番助かります」


 今回はクリスティーナのお陰で助かったので、お礼を申し出たら随分と俗な要求をされた。お金にがめついようには見えないのだが、何かお金を必要としているのだろうか。


「フフっ、驚かれたようですね。実は私、孤児院の院長をしておりまして、恥ずかしながら経営状態がよくないんですの。私自身は老い先短い身ですから、お金はそれほど必要としていないのですが、子供達にはご飯をしっかり食べてもらいたくて」

「ご立派な事だ。俺のお金の管理はマイラに任せているので、マイラと相談させてくれ。俺自身もあまりお金は必要としていないから、必要としている人間が使ってくれれば嬉しい」


 そういう理由であればお礼にお金を持って行く事もやぶさかではない。


「そうだな、いつか子供達をここに連れてくるといい。大抵の事には動じなくなるだろう」

「そうですね。今度連れてきましょう」



誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。

お読みいただきありがとうございます。

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