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小雫夜話  作者: はなび
9/26

9雫目・真空状態のサカナ

一話完結です。


大昔に自作した歌詞が、お話の原型です。


……メルヘンホラー……




目の前で、サカナが泳いでいる。

グルグル円を描きながら、鱗を撒き散らして泳いでいる。ヒラヒラする長い尾鰭が虹色に光っていた。

そのうち、尾に口が追い付いて、徐々にサカナの口を覆っていく。しばらくすると、酸素を求めるように口をパクパクさせていた。

サカナは尾から逃れるために、どんどん速度を上げて泳ぐが、ただ円を描くだけなので、余計に尾が口に絡まって、今にも窒息寸前だった。

次第にサカナを中心に渦が出来て、側で見ていた自分は、上に押し流された。

やがて水面に出ると、遠くまで波がキラキラ立っているのが見えた。よく見ると、波は極小のガラスの粒で出来ている。

遥か先には小さな島影がある。

自分は波に流されて、小さな島の浜辺に追いやられた。

辿り着いた島は緑が濃く、鬱蒼と森が繁っていた。

ガラスの波から這い上がって砂浜を歩くと、どこからともなく竪琴の音が聞こえてくる。耳を澄ますと、森の奥から聞こえるのが分かった。

誰か居るのだろう。

急に人に会いたくなって、自分は音のする方に歩き出した。

低木の茂みに分け入って森の奥に進もうとした時、後ろで何かが光った。振り向くと、先程の砂浜から、自分の足跡がユラリと浮かび上がるのが見える。

一つ、二つ……。

ガラスの波打ち際に近い方から、足跡は次々と浮かび出して、こちらに向かって飛んでくる。平べったい足跡は、縦になると刃物のように鋭くて、それが容赦なく自分に襲いかかってくるように思えた。

大慌てで自分は森の奥に逃げ込んだ。その踵のすぐ側に、足跡がサクサクと突き刺さる。

ようやく逃げ切ると、今度は後ろから、ガサゴソと何かが近づく音が聞こえた。

怖くなって、自分は森の中を駆け出した。同時に、後ろの音も着いて来る。

怖い、怖い、怖い!

早く誰かに助けを求めたい。

あの竪琴の鳴るところまで行けば、きっと助けがある。

夢中で駆けて、森を抜けた。

どうやら緩やかな坂になっていたらしい。開けた場所は崖の上だった。

崖の際には竪琴が置かれている。でも、誰も居ない。

ここに居た人は、どこに行ったのだろう?

自分は竪琴に近付いて拾い上げる。色んな方向から眺めても、これはただの竪琴だった。

竪琴を鳴らせば、ここから帰れるかも知れない。そう思って、竪琴を掻き鳴らしてみた。しばらく無秩序な音を掻き鳴らしていたが、何も変化がなかった。

首を捻って考え込んでいると、森の奥から何かが物凄い勢いで迫って来る。

自分は大慌てで竪琴を放り出し、崖からガラスの波に飛び込んだ。

するりと体をガラスの波に包まれて、最初に居た場所に戻る。

困った。帰れない。

自分は途方に暮れて、グルグルと円を描くように歩き回った。そのうち、何か虹色の膜が顔にへばり付いてきた。

嫌だ、取りたい。

我武者羅に動くが、余計に膜は濃くなり、どんどん息苦しくなっていく。

助けて、誰か!

何度も叫ぶが、膜のせいで声が出ない。何時の間にか、全速力で走っていた。もう窒息寸前だ。

そう思った時、目の端に人影が映った。

ぼんやりと、こちらを眺めるあの顔は…。



これは夢だ。

誰かの夢だ。

もし、その誰かが、不意に目を覚まして、この夢の形を崩したら。



この夢から、誰が助けてくれるの?


ありがとうございました。


サカナのモデルは、ミノカサゴです///

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