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仕事バカと旦那バカ  作者: 雪見桜
後日談
7/15

仕事と私・前編


仕事命の旦那様を持つと苦労する。

これ、結婚生活で一番に学んだこと。



『仕事と私、どっちが大事なのよっ!』


『君の方が大事に決まってるだろ』



旦那様は、今日も変わらず美人さん達に愛をささやく。

テレビの向こうで、嘘をつく。


相変わらずの仕事バカっぷりを見せる旦那様は、相変わらず恋愛作品にひっぱりだこだ。

外見の良い奏太さんと、スタイルの良い美女の並びは本当絵になる。

たとえ私達の想いが通じ合ったとしても、どうしようもない事実だ。

そう、彼が頻繁に色んな人とお仕事で愛を囁き合っていたって、仕方ない話で。

どうしたって嫉妬してしまう気持ちはあるし、どうしたって諸手を挙げて歓迎とも言えないけれど、それでもある程度は割り切っているつもりだ。


けれど、たまに色々考え込んでしまうのも事実で。



「“君の方が大事に決まってるだろ”か」



奏太さんの言葉を反復して、口から漏れたのは長いため息。



「言われてみたーい」


絶対に有り得ないと分かっているのに、そう呟いてしまうのは仕方ない。

仕事と恋愛、それを比べさせようなんて気はさらさらない。

私は仕事に熱中する彼を好きになったのだから。

でもやっぱり何だか悔しい。


「私ばっかり好きみたい…。レポート進まない…」



どんなに濃厚なラブシーンがあろうと、彼の出る作品はすかさずチェックしてしまう私。

たとえ他の人に愛を囁いていたって、何だかんだで見惚れてしまう私。

学校にいても、家にいても、レポートしてても、頭の中は奏太さんでいっぱい。


好いてくれてる。

それはちゃんと分かってる。

でもきっと仕事になると、奏太さんの頭の中から私の存在は追い出されてしまうんだろうな。

そう思うと、何だかちょっぴり寂しくて。

でもそんな仕事バカな奏太さんが好きなんだから、本当にどうしようもない。

私の悩みは贅沢すぎる悩みだ。



「…レポート、やろう」



テレビに映る“プロ”の奏太さんを無理やり視界から追い出す。

色ボケした頭を必死に払って、私はパソコンに向かった。


ない頭を振り絞って完成したレポートは、そこそこの出来になった。

上書き保存のマークをクリックして、やっと一息つく。



「お疲れ様、サヤ」


「え…うわぁ!?」



いつの間にか音もなく現れていた存在に、思わず掠れるくらい大きな声があがる。



「そ、奏太さん…!?」


「うん、ただいま」


「おかえりなさい。じゃなくて、いつからそこに…」


「いつだろ?」



のんびり答えながら私の頭をゆるゆる撫でる奏太さん。

…癒される。こんな些細なことで疲れすらぶっ飛ぶ自分は重症だ。

私は目をゆっくり閉じた。



「…可愛い子」


「え…!?」


「あれ、サヤ照れてる?」


「そ、奏太さんがいきなり変なこと言うから!」




いまだに奏太さんの甘い言葉には慣れない。

テレビでもっともっと甘い台詞を言うのに、慣れない。

耳にするたび、私の顔は真っ赤になって。

対して、奏太さんは満足そうに笑っていて。



「……悔しい」


思わず本音がこぼれた。

いつでも奏太さんの一挙一動に反応してしまう。

奏太さんバカで、奏太さんが当たり前のように中心にいる生活。

…私も一度で良いから振り回してみたい。

思えば始まりはそんな些細な悪戯心。



「奏太さん」


「うん?」


「“仕事と私、どっちが大事”?」



さっき見たドラマの台詞の真似をして質問してみる。

ほんのちょっと困らせてみたいなんて思った私のほんの軽い冗談。

…の、つもりだった。



「……」


「そ、奏太さん…?」


「…………」



冗談でも、言うことは気を付けなきゃいけないらしい。

本気で考えこんだ奏太さんを見て反省した。



「で、そのまま海外ロケに行ってしまったと」


「……はい」


「アホか」


しゅんとする私に容赦なく言葉を落とす親友。

学食の隅っこで美月ちゃんによる説教タイムがスタートしていた。



「恋人が最もしちゃいけない質問だよね、それ」


「だってほんの軽い冗談のつもりで」


「あんたの旦那、冗談通じるタイプか?」


「…ごめんなさい」


「いや、私に謝られても困るんだけど」




私は、あの後のことを思い出す。



『うん、考えてみる、うん…』


『え、あ、ちが、冗談で』


『うん、ごめんね。うん』



怒られはしなかったけど、彼の余計な悩みをひとつ生んでしまった。

淡々と返事をした奏太さんを思い返して罪悪感が募る。


「美月ちゃん、私もう冗談でも余計なこと言わない」



強く決意して、美月ちゃんに表明する。

ふうっと息を吐いて頷く美月ちゃん。

その時ふと彼女の顔を支える手が光った。

正確には、薬指が。



「美月ちゃん、それ」


「え?ああ、真山がくれたの」


「わぁ、恋人だ」


「なに言ってんの、あんた」



本人の美月ちゃんはクールで、言えば部外者の私がひとり興奮する。

ずいぶん変な構図。

でも、クールだけど、もらった指輪をしっかりはめて隠しもしない所に愛を感じる。



「いいなあ」



美月ちゃんと真山さんのカップルは、いつも落ち着いているけど強い繋がりを感じるから憧れだった。



「ん?沙耶香だってもらってるじゃん、しかも結婚指輪。」


「違うの、指輪じゃなくて2人が本当にがっちり恋人で羨ましいの」


「がっちり恋人って」


フッと吹き出す美月ちゃん。

でもその後、少し長く息を吐き出した。



「そうでもないよ。私もいっぱいいっぱい」


「え?」


「だって真山は童顔だけど7つも上で、何だかんだ言ってやっぱり大人だもん」



ぽつぽつと美月ちゃんが本音をもらす。

何だか珍しい光景だった。



「やっぱりさ、長く生きてるぶん社会人なぶん真山は何て言うかこう厚いんだよ、考え方とか」


「美月ちゃんだってしっかりしてるのに」


「歳の割にはそうかもしれない。でもアイツに比べたら私なんてペラペラよ」



切なそうに美月ちゃんは笑った。

あんなに仲良くて完璧に見える恋人にだって悩みはつきもの。

美月ちゃんの顔を見て、それを知る。



「…私みたいなガキ、真山はよく飽きないなあ」


「そんな、飽きないよ。真山さんは美月ちゃんと一緒にいると幸せそうだよ」


「……ありがと」



意外な一面を見た気がする。

何だか少し衝撃的で。

でも、同じなのだと思った。



「難しいね、恋愛って」


「本当にね」


「でもさ、美月ちゃんのはめてる指輪ってすごく美月ちゃんに似合ってると思う」


「…あんただって風見ソウのこと考えてる時は可愛いよ」



少し頬を染めてプイッとそっぽを向く美月ちゃんはやっぱり可愛い。

難しいことだらけで迷うことも山ほどあるけれど、それでもやっぱり幸せなんだと私達は実感していた。





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