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結友は考え出した答えを正直に目の前の人物に向かって言った。
この目の前の人物を完全に信用したわけではない。それでも真夜の言う通り、この人を敵に回しても良いことなどないのは目に見えているし、味方してくれるというなら自分にもできることがしたい。
何より、自分が信じてしまった優希という少女を見捨てるのはほとんど面識がない人物とは言っても心苦しかった。
いや、そんなことよりきっと結友自身が優希という一人の少女を助けたいと思ってしまったのだ。
しかし、目の前の要は苦笑いしながら言う
「とは言ったもののね、素人の君にできることなんてほとんどないようなものなんだよ。」
そんな拍子抜けなことを言われて、結友は先ほどの自分の葛藤は何だったのかとあきれながらも目の前の要の態度に信頼にも似た安心感のようなものを感じていた。
なぜだろう、目の前の要を含めて最近会う人物にはずっと前から知っている間柄のような妙な安心感を感じる。
「それで、俺は何をすればいいんですか?」
先程の問いの中でも聞いたことだがうやむやにされた挙句にできることは「"ほとんど"ない」と言った。
ということは僅かばかりでもやれることはあるということで、結友はそれがどんなことだろうとやり切るつもりでいた。
そうだね、と一つ区切りをつけてから要は結友の質問に答える。
「できれば素人の君たちには裏方に徹してほしいところなんだけど。今回私たち側には動かせる駒、つまりは人員が足りなさ過ぎてるんだよね。」
その話の先は自分で、とでもいうように要はその場で黙り込む。
しかし、結友としてはもう腹は決まっている。優希のためになることなら何でもやると決めたのだ。
「さっきから具体的なことをはぐらかしているようですけど結局何を言いたいんですか?
俺はもう優希のために動くことを決めてしまってますからね。ここから先は何ができるのか俺自身には判断が付きませんしね。俺はあなたの判断に従いますよ。もっとも俺にできることがあればの話ですが。」
具体的なことを言ってくれない要に対して少しばかりの皮肉を込めて、結友は言った。
「できることがあるから言ってるんだよ。結友。」と要が今度は真剣な表情で結友に対して威圧するように答える。それにと、また言葉を繋げる。
「大事なのは何ができるかじゃないよ、何をしたいかどうかだ。そしてやりたいことをやった結果に"何かができた。"が付いてくるんだ。やりたくもないことをやった上での結果なんて嬉しくもないし成長もないよ。」
また語調を変えて要が言う。
「この人は本当は何も考えてないんじゃないだろうか...。」結友はそんなことを思いながら要の冗談なのか真剣なのかよく分からない話を話半分に聞いていた。
「おっと、また話が飛ぶところだったじゃないか。二人ともしっかり話を戻してくれよ。
私はやっぱり基本的には何も考えずに話すタイプなんだからね。」と、出会って間もないのに既に二度話を脱線させている本人が一人で突っ込みを入れる。
「それで、結友にやってほしいことなんだけど...君には私のサポートでもお願いしたい。
まあ言ってしまえば足止めであり、時間稼ぎだよ。今回私たちの動かせるコマが少なかったり、こちらが逃げる側だったりと不利な条件が多いけれどそこまで不平等なわけじゃない。こちらの勝利条件はただ時間を稼げばいいんだからね。」
さっきの説明よりは分かりやすくはなったものの結局何をするのか自体は教えてもらえていない。
「まあ簡単に言ってしまえば時間稼ぎっていうのが私たちのできる数少ない手助けなんだよ。
つまりは優希ちゃんと小夜...今回に限って言えば最悪優希ちゃんだけでも追手から逃がし続けること...私たちにできるのはこれくらいだ。」
ようやく要の説明が内容を含み始めたが、それでもまだ結友には何のための時間稼ぎなのかが分からない。
「時間を稼ぐ...ということは優希と小夜には現状をどうにかするための策があるということですか?」
結友は要の説明から得た少しの情報で自分なりに思考する。
しかし要は「いや、そうじゃないよ」と結友の考えを一切の迷いなく否定した。
そして、「現実問題として現状を変えられる人間はいないんだよ。」と続けた。
当然、結友には理解できなかった。要は「できることはある。」と言った。
しかし、今度は全く逆のことを平然と言ってのけた。混乱する結友に要はさらに続ける
「君は何を相手にしているか分かってないだろ?そもそもその説明の途中だったわけだしね。」
そうだ、さっきの要の説明を結友は最後まで聞いていない。
「そうですよ。自分と真夜姉はそもそもその話を聞かなきゃいけないはずです。」
結友は今更ながらに大きくそれていた話題を思い出して話を戻すよう促す。
「さっきも言ったように優希ちゃんと小夜は本来この世界にいちゃいけない人間だ。理由はわかるね?」
結友は頷く。それについてはおおよその予想はついている...簡単な話だ。
優希や小夜たちの話を聞く限り、優希はこの世界にもともと存在している結友のドッペルゲンガーであり、小夜も真夜のドッペルゲンガーということだった。それが本当なら、本来同じ存在であるはずの結友と優希、真夜と小夜が同じ世界にいていいはずがない。
しかし、優希が追われているという組織に小夜が追われているという話はない。
どころかやり方が違うとはいえ別の世界から来た小夜が現状組織の一員となっている。
結友が頷いたのを見て要が続ける。
「まあ、二人とも別の世界から来ている以上、同じような存在がいるわけでそれが真夜と結友になるわけだ。
そこでなぜ、小夜が今も普通にこの世界で真夜と同じ世界で居続けられるかって話なんだけどね。
小夜からにしろ優希ちゃんからにしろ聞いているとは思うけれど本来ドッペルゲンガーは別の世界で生きていくためにはその世界の自分と同じ存在を消しておく必要があるんだよ。存在が被るからね。」
結友もここまでの話は聞いている。優希を残すだけならば結友がいなくなる...などという選択肢もなくはないが、小夜と真夜、という例外がある以上何かしらの抜け道があるのだろう。
「でも、全く方法がないわけじゃない。別の世界で存在が被ってしまうというのはね、違法入国してるようなものだからなんだよ。つまりは優希を結友とは別の人間として登録さえできれば問題はなくなる。」
要が続けた言葉は結友には思いがけず、「え?」と思わず言葉が漏れた。
「つまり時間稼ぎっていうのはその登録のための時間稼ぎ、ということですか?」
自分でも場違いな単語を使っていると思う。
しかし、要の説明からはそういうふうに受け取れてしまった。
要も自分の使った言葉が場違いだと思ったのか苦笑いしながら答える。
「私も簡単に登録、とは言ったけどね。実際にはそんな簡単な問題じゃないんだよ。なにしろこの世界が生んだわけでもない存在を認めろと、生き物ですらない世界そのものに認めさせなきゃいけないんだからね。」
要が何を言っているのか、正直結友には理解できない、というよりはこの問答では何を言っているのか理解できる方が異常だろう。二人のきりのない会話にしびれを切らした真夜が口を挟む。
「それで、要さんは結局何をしてほしいんですか?
まさか、いつ終わるかもわからない時間稼ぎとやらに延々と付き合わせるつもりじゃないですよね?」
やはり全く進展の見えない会話にイライラしていたのか僅かにとはいえ、珍しく真夜の口調が荒い。
「それを君が言うのは変な気もするけどなあ。」
しかし、それでも要は自分のペースで、自分の言葉で会話を進める。
「まあ、今はその話をしている余裕はないのかな。とりあえずこの時間稼ぎ自体にはそんなに時間はかからないと思うよ。結果的に言ってしまえば私たちの役割は追手から小夜と優希が逃げる時間を作ること、つまり足止めだよ。」
ようやく話題が進んだところで結友は真夜の話で小夜たちは少数派の人間だと言っていた。
同じ組織内でこういう表現はおかしいかもしれないが、察するに小夜と要は少数派のグループに属している仲間ということだろう。
「まあ、実際に私たちがやることは本当にそれだけだよ。
後のことに関しては運次第としか言いようがない。こればっかりは私たちにはどうしようもないからね。」
本当にどうしようもないのだろう。自信満々に話していた。要の瞳が少し曇り、「これが私たちのグループが異端で、少数派な主な要因だよ。」と付け加える。
どういうことだろうか、と結友が考え始める前に「なるほど」、と理解したように真夜が言う。
「どういうこと?」結友は考え始めた思考を止めて真夜に聞いた。
「つまりこういうことだよ。別の世界からきた人がいたら世界はそれに対して異変を起こす。
現在の科学でも謎の多いこの世界でだよ?それで、要さんの言葉を借りるなら"登録"。
それができればいいんだけど、それがどうやったら登録されるか分からない。」
なるほど、ここまで聞けば流石に結友でも察しがついた。真夜は続ける。
「要さん達少数派の意見は別の世界から来た人達も助けたい、でもそれをするためにはされるかもわからない登録がされるまで何が起こってもおかしくない異変を放置しなければいけない。世界規模で異変が、それこそ死者が出るような異変が起きてもおかしくはないんだからそれならこの世界とは無関係な別の世界から来た人の方をこ...処分すればいい。そういうことですよね?」
真夜の見解でほぼ間違いないだろう。言われてみれば確かにそうなのだ。普通に世界規模で物事を見るのであれば少数派の要たちの方が少ないのは当然と言えば当然かもしれない。でも今回に限って言えば処分の対象になっているであろう優希は結友にとっても無関係ではない。
「まあ、概ねというかばっちりその通りだね。申し開きのしようもございませんって感じだ。
ここまで聞いてもらったら分かったと思うけど私たちは世界規模でみれば明らかに悪役の立ち回りだよ。」
それでもやる?と要は断られる気など全く感じていなさそうな顔で聞いた。
真夜は結友に任せる、といったふうに何も言わずに結友の方を見た。
なんでこんな大事なことを自分が考えなければいけないのか。
いや、考える必要などなく答えは決まっている。格好つけるべき相手はいないが精一杯に格好つけて言う。
「何言ってんですか。世界を敵に回して女の子のために、なんて悪役どころか主人公じゃないですか。」
精一杯格好つけた台詞をひっくり返すように要は「勝てばね」と悪戯っぽく笑った。
先程の三人での会議の後なぜだか、要に外へと引っ張り出された結友は夜の街を要と二人で散策していた。
真夜は外に出すべきではない、という要の判断で真夜は真夜の家に置いてきている。
しかし、物騒な話になっているというのに家に一人で残していいのかどうかという不安もある。
そんな結友の心配をよそに本当にただの散歩のように鼻歌を歌いながら夜の街を歩いている。
住宅街といってもここは田舎なので大した街灯もなく、両脇に民家の壁が並んでいて、途切れ途切れに存在している街灯と月明りだけが足元を照らして幻想的な夜の街を演出している。
そんな街並みに時折寒い風が吹き付けて沈みそうになる結友の意識は現実に引き戻される。
結友の斜め前を歩く要は相変わらずよく分からない鼻歌でリズムを刻みながら歩いている。
そこでふと結友は要がこの町の住民ではないことを思いだした。
「そういえば要さん、自分たちはどこを目指して歩いてるんでしょう?」と今更な質問をする。
そんな質問に要は一旦結友の方を振り向くと別に目的地があるわけじゃないよ、と軽く返してまた歩き始めてしまった。
前を歩く要が突然に立ち止まる。そのまま振り返って結友に聞いた。
「結友はさ、なんのために優希を助けたいと思ったんだい?」
なぜ?といわれてもはっきりした理由なんてわからない。
信用していたとはいえ危険を冒してまで助けるような仲ではないし、そもそも仲などという言葉を使うほど関わりがあった相手というわけでもない。
「さあ?俺には自分でも優希を助ける理由が正直分かりません。
もしかしたら、女子を助けるのは男の役目だっていう古い考えの持ち主なだけかもしれないですね。」
実際、結友自身そこまでして優希を助ける理由というのが分からないのが本音だ。
少なくとも後半の台詞のような適当な理由ではないことだけは確かだ...いや、適当な理由すら見つけられないのだからもっとたちが悪い。しかし、自分が優希を助けることに全く抵抗がなく、どんなに危険な目に会うことになったとしても自分は優希のためにできることを止めることはないことは分かっていた。
そんな結友の答えを聞いた要は「そうかい。」と返すだけで止めた足を再び動かす.....ことはしなかった。
気付けば目の前に長身の要に隠れるような影が結友の視界に入っていた。入っていたというよりは入ってきた。
そんな影を相手に目の前の要は「おお、今回はお前か久しぶりだな。」と、暗闇に映える綺麗な顔に笑顔を浮かべて挨拶をした。
そんな様子を見て安心する結友だったが。次の瞬間に驚愕する。
要の前に立つ男を見ると、羽織った白いシャツの腹部を赤黒く染めていた。
見るからに尋常ではない怪我をしているのは明らかだ。
結友が要に声をかけようとするがその前に目の前の男が口を開く。
「確かに今回は俺だよ。でも残念なことに今回の俺はお前に挑むと本当に死にかねないからな。
今回の俺はそこにいる少年で時間と人間を潰すことにしようと思う。」
そう言うと大怪我している身体で要の横を一瞬ですり抜け、どこから出したのか小さなナイフを結友の頭上に軽く振り下ろす...がそれを予想していたのか要が長い脚をさらに延ばして男の足を引っかける。
勢いのまま振り下ろそうとしていた男は格好悪く躓いて、結友の目の前でナイフが空を切る。
しかし、今度はそのまま前転して結友の後ろに回り込んで目の前でナイフを結友に構える。
結友は目の前で何が起きたのか、全く理解できていなかった。
動きが見えてはいた、しかし一般人である自分が巻き込まれることが理解できなかった。
「なにしてんだ。一般人に手出すんじゃねえよ。」
男の後ろから要が今までとは打って変わった低い声で目の前の男に言う。
要の一言で結友は目の前の人物が普通ではないことを理解した。
そして、自分が何をしようとしていたのかを思い出す。
世界を敵に回すことをしているのだ。当然協力する自分も無事でいられるはずがなかった。
要が男の前に立つべく男の背後から此方へ向かおうとする...が今度は要の目の前に刃物が突き刺さる。
しかし、目の前の男は何もしていない。気付けば要の隣に建っている壁の上に一人の人間が立っていた。
「次から次へと...お前ら暇なのか?」要の声に苛立ちが混じる。
壁の上の影は「要が大人しくしててくれたらもっと暇でいられたんだけどねえ...」と皮肉っぽく返す。
その声から今度は女性であることが分かった。
「仕方ないなあ...これ使え。」と呟きながらどこから取り出したのか、要が長い棒のようなものを結友に投げる。結友は投げられたそれを受け取るが、思っていたより重い。危うく落とすところだった。
要は投げると同時に男を通り過ぎて結友と男の間に立っていた。
「剣道やってたんだろとりあえず抜いてろ。」
言われて手元に視線を落とすと、それが真っ黒な鞘に包まれた刀だということに気付いた。
言われたとおりに抜くと何故だかわからないが、初めて持つはずの刀の柄が妙に手に馴染んだ。
要が結友を守るように二人の前に立つ。
「さて、始めようか。」
こんなクズを待っていてくださった方はお久しぶり&初見の方は初めまして。
紫音優夢です。
本当に申し訳ないです。
もう3か月に1度をめどに更新していこうとすら思えるほど進んでないです。
大学の単位にだいぶ余裕ができてきたのですが、やりたいことを見つけて、貯金するためにバイトの掛け持ちを始めてしまいました。
今もそんなバイト上がりの夜中で頭がぐわんぐわんしてます。吐きそうです。
短かったですが今度こそはもっと早く更新できるように頑張ります。
誰か急かしてください。
急かしていただける読者の方が増えてくれることを願いまして、ではでは次のあとがきが今年中に書ければと思います。
そろそろ1話も終わるんじゃないかと思います...多分。
予定よりどんどんのびちゃってます。はい。
ではではみなさんまた次話でお会いできたらうれしいです。




