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我輩は騎獣である  作者: KEITA
第三章
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三章・序


 層を渡り、界を駆ける。

 それをおのれの脚ひとつでおこなえる、誇らしさ。

 この脚こそが、我ら一族そのもの。


 そして今や、我輩には騎者が在る。


(なんという快さか!)


 身のうちの霊気が訴えている。もはやお前は只の獣ではない、天にすまうものとして堂々と誇れる獣だ。

 駆ける脚が打ち震えている。この過ぎたる筋力が他者の制御下に置かれることは、屈辱でもなんでもない。むしろ胸を張れ、背に跨るものの指示通り動けることを。

 我が魂が、叫んでいる。さあ喜ぶがいい、欠けたるものが舞い戻ってきたことを!

(我輩は、騎獣だ)

 そのことを、身と心が歓迎している。


「名がねえの?」

 きょとん、と緑の瞳が瞬く気配がした。手綱の如くたなびく我が角を握る手、そこから伝わるのは好奇と疑問の感情だ。

「うむ。我輩は獣ゆえ、固有名は持たぬ」

「ふ~ん」

 かぽかぽ、と静かに中層の野原を歩んでいた。下層から一気に層を渡り、一息に駆けてきたのだ。身のうちの高揚が形ばかりおさまってから、ゆったりと天を案内することにした。

 走ることも。歩くことも。立ち止まっている際でさえ。

この人間が背に跨っている限り、我輩はとても気分が良い。そのことを識った。

「でもさあ、人界に行くために騎者探してたって言ったよな」

「うむ?」

「それだと、ちょい不便じゃね」

「名を持たないことが、か」

「うん」

 人界では、固有名を持たないものはそれこそ知能を持たぬ只の動物しかいない。人間の区域においては、周囲に溶け込めないのだそうだ。

「だから、人界用の名前もっといたほうがいいんじゃね? ……と俺は思うけど」

「――ならば、」

 心からの願望で、言った。


「騎者どのが、名付けてくれぬか」


「……いいの? 俺が付けちゃって」

 騎者は我が背の上で、微笑む気配がした。彼が嬉しげだと、我輩も嬉しい。

「うむ」

 頷く。

「う~~ん」

 しばし悩んだ騎者どのは。

「やっぱコレしかねえわ。逢った時から思いついてた」

 そう言って、我輩に授けてくれた。新たな呼び名を。


「リョク。緑の鬣がかっくいいからな。お前の名は、リョクだ」


 嬉しかった。


★ ☆ ★


 人型に変化出来るようになった、と本能的に気づいたのはその直後である。


「騎者どの、頼みがあるのだが」

「ん?」

 彼を背から一旦降ろして、気づいた事を言う。

「どうやら我輩は、ようやっと人型になれるだけの霊力を得たらしい。なので、少しばかり試してみたい」

「ああ、そういや聞いたことあるな。イヴァは騎者を見つけねえ限り、人型にゃあなれねえんだっけか」

「うむ。されど我輩は人型に変化するのは初の試みゆえ、上手くなれるかが不安である」

「いいぜ。俺がチェックしてやんよ」

 我が騎者は物分りが良くて至極助かる。

「では、」

 すう、と光と風の霊気が肉体を包む。そして。


「如何だろうか」


「……」

 騎者どのは、沈黙していた。人型に変化した我輩を凝視したまま、その緑眼が広げられている。口も同じ形に大きく開いた。

「騎者どの。どこか我輩の姿に不具合があるか」

「……」

「騎者どの」

「……」

 いつまで経っても無言なので、不安になってきた。それほど我輩の人型は人間にとって見苦しいものなのだろうか。

 転身した我が肉体を見下ろす。二本の腕、二本の足。肌の色は騎者どのや天使の我が友らと違う色のようだ。白っぽくない、褐色めいた濃い色合い。俯くと、目の前に垂れ下がるのは深緑の髪。どうやら鬣の色と同調するらしい。邪魔だったので片手でかきあげ、後ろに流した。気のせいか、騎者どのの口角が引き攣ったような。

「騎者どの、」

「……」

 背丈は騎者どのと同程度の男になったらしい。その体躯で少し近寄ると、じり、と騎者どのは後ろに下がった。それほど我輩の姿は見るに堪えないのか。

 少々落ち込んで伸ばしかけた二本の腕を見つめた。そういえば騎者どのの体躯と違って少しばかり筋肉が多すぎるかもしれない。胸部もやたらと厚いし腹部分は締まってはいるがぼこぼこと筋肉の形に盛り上がっている。体表も艶光りしているし、そして何より――

「ああそうか、衣をまとっていなかったな」

 周囲の霊気を集め、急ごしらえで腰周りに纏わり付かせる。二本足の身だしなみとして、かならず生殖器を隠す衣をまとっていなければいけないのだ。全裸でいるなど、我が一族における鬣断絶以上に恥ずかしいとのこと。そのことを瞬時に思い出して良かった。

「これでいいか」

「……」

 まだ、無言だ。さすがに本格的に落ち込まざるを得ない。人間の目にかなう案配で無ければ、我輩は人界に行けないというに。

「駄目か」

「……い、」

「い?」

 騎者どのは前触れも無く、引き攣った顔で叫んだ。


「イケメンなんざ、キライだあああああああッ!!」


 いけめんとは、なんだろう。


 どうやら我輩の人型時の形体は、騎者どのに言わせると「腹立つくれー超絶イケメン」の部類に入るらしい。いけめんとはなんだ、と聞いても騎者どのは教えてくれなかった。

 どうやら我が騎者はいけめんとやらに相当の恨みがあるらしい。我輩が本性でいる間は普通の態度であるのに、人型になると途端に距離を置く。我輩としても騎者に避けられるのはあまり心地の良いものではない。

 天における知り合いもいけめんの意味を知らないようだった。どうやら人界特有の言語らしい。人界についてから、それとなく探ってみようと思う。




「探るなッ! わかんなくていいから、未来永劫不明なままでいいから!! てめえは天然のままでいてくれえええッ」

「……意味がわからぬのだが、騎者どの」

「あああ中身がイイヤツで外見もイイなんざ反則だイケメン滅すべし定期的に小指タンスにぶつけて悶絶してやがれイケメンよ滅びろ」

「騎者どの? 早口過ぎて聞き取れなかったのだが……」

「イケメンはこの世から撲滅されるべし!!」

「……」



リョクの外見は人間で言う超美青年です。

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