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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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8話 土下座

「うわ……さっきより明らかにふっくらしているじゃないですか。貴方は州の文化財なんですよ? 困ります、ミイラでいてもらわなくては。それ、返してください!」


「ヤ、ヤめテ……」


 血液パックをそっと抱え、身を逸らしながら懇願した。……でもそうだよ俺、吸血鬼じゃん! さっきは栄養失調のせいか、全然催眠術が効かなかったけど、今なら出来るはず!


 血が溢れないように血液パックをテーブルに置いて立ち上がり、アオイの肩を掴み目をじっと見つめた。


 俺とは会ってない〜。俺の事は忘れる〜。――これでどうだ!


「な、何ですか……。目を赤くして脅されても怖くも何とも無いですからね?」


「えっ何デ……? 催眠術ガ効かなィ?」


 あ……しまった、驚いて思わず口が滑った。


「催眠術!? そんな事をしようとしていたんですか? 許せない、早くそれ返してください!」


 血液パックにアオイが手を伸ばす。


「い、いやだァーー!!」


 取り上げられてたまるか! バッと血液パックを手に取りアオイに背を向けた。こうなったら一気飲みしてやるっ! 


「ゴホッッ!! ゲホ……ゲホ……」


 血を一気に飲んだせいで、体がびっくりしたらしく盛大にむせた。口に含んだ血を吐き出しそうになるのを強引に飲み込む。やっと得た栄養なんだ、無駄にしてなるものか!


 それに血反吐を吐く吸血鬼って変だしキモいよな。でもそのせいで気管の変な所に入って余計に咽せた。


「ゲッッッホ! ゴホ、ゴホッ…………ハァッ、ハァッ……」


「ああもうっ!」


 肩で息をする俺を見てアオイは引いた様子ながらも背中を摩ってくれた。優しさが心に沁みる。少しして落ち着くとアオイが俺にティッシュを押し付けた。


「うわ、怖っわ……それ早く拭いてください」


 ……確かに俺、吸血鬼だけど、今更そんな事言わなくったっていいだろ?

 

 だが側にあったピカピカの金属トレーにうっすらと映った自分の姿を見てビビった。こ、これは確かに怖い……。


 肩に付く長さの乱れたもじゃもじゃな赤茶の髪の間から、真っ赤に光る血走った目がのぞいている。更に血が垂れた口元が、化け物度合いに拍車をかけてた。怖い吸血鬼と聞いて真っ先に思い浮かべる姿がそこにいる。


 慌てて口に付いた血をティッシュで拭いて、ゆっくり深呼吸しながら体と心を落ち着かせると、貴族スマイルを取り繕う。


「普通に血が飲めたのは初めてだ。ありがとう」


 良かった、声は多少掠れてるけど普通になってる。多少は怖さも薄らいだか? だが目を吊り上げたアオイに詰め寄られた。


「何故飲み干しているんです? 早くミイラに戻ってください!」


「そんな事言われても……。今の状態だとあと四〇〇年くらい干さないとミイラになれないよ」


「確かに普通に喋っているし、ガリガリに痩せ細った人くらいになってる。どうしよう……。文化財の貴方が勝手に動いたとなったら本当に困るんです。これからどうするつもりなんですか?」


「うーんと…………逃げるとか?」


 実質俺に残ってる選択肢はそれだけだ。もうミイラには戻れないし、戻りたくもない。フィンリーに殺されるなんて痛くて怖そうだからもっての外だ。


「……そうだと思いました。でも吸血鬼を野に放つなんて論外なの!」


「そんなぁ〜、せっかくアオイに血を貰えたのに……」


 泣きそうになりながら縋り付く俺をアオイが睨む。怖い……だけどこんな化け物を相手にしても、手を振り解かないだけ優しいのかもしれない。


「はぁー誤解を招く言い方はよして。……とりあえず教授に報告して指示を仰がないといけないか。誰も居ない昼休みを見計らって、昨日忘れたICカードを取りに来ただけなのに、何故こんな面倒事に巻き込まれなきゃならないの……」


 眉間に皺を寄せ、ため息を吐くアオイを見てると本当に申し訳なく思えてくる。それと同時に少し冷静になってきた。久々に会話が出来たからかもしれない。


 アオイはさっきから思ってる事が口から全部出てる気がする。きっと突然の事に気が動転してるんだろう。考えてみれば普通、化け物相手にあんな反応はしないよな? アオイも一種の現実逃避をしてるのかもしれない。


 だけどこのままじゃマズイぞ。どうにか俺が無害だってアピールしないと!


「教授に言うのはやめてくれ! 教授と一緒に居る博物館の館長は、ヴァンパイアハンターなんだ。さっきの血を貰えたら人間を襲ったりしないから」


「はぁ? 人を襲わないって何当たり前の事を言ってるの!? あの人工血液だって研究段階だから安い物じゃないのよ。ポンポンあげられる訳無いでしょ」


 味が少し違かったのは人工血液だからか。普通の生き血より断然飲みやすかった。もしかしてアオイが作ったのか? だったら例え実験動物としてでもアオイに価値を認めてもらって、人工血液を融通してもらわなくては! なりふり構ってられないぞ。


「研究段階の人工血液なら実験だって必要だろ? 俺は不死身の吸血鬼だ。こんな良い実験台は他に居ないと思う。頼みます」


 プライドをかなぐり捨てて土下座した。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第9話で遂に主人公は脱出に成功します。果たして白昼堂々、どのように脱出するのでしょうか?

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