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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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54話 お砂糖をいただけますか?

「いやいやいや、囮って! 何を馬鹿な事言ってるんだ!? 蒼にそんな事させられる訳ないだろ!!」


 反射的に俺が叫ぶと、フィンリーはため息を吐き立ち上がった。


「ああ〜長くなりそう。アオイさん何か飲む?」


「ええと、ココアはありますか?」


「ええ」


「では、それでお願いします」


 フィンリーが席を外したのを見計らい蒼の手を握る。もしもこの心地良い体温が失われる事になったら……。


「分かってくれ、俺は蒼の身が心配なんだ」


「そうは言ってもねぇー、間違い無く私達は監視されているはずよ。送り付けた呪いで死んだと思っていた相手が、普通に街中を歩いていたら絶対気になるでしょ?」


「た、確かにそうだけど……。危ないと分かってるのに蒼を囮にするなんて言語道断だ!」


「いいえ、貴方も言っていたけど、私には時間が無いの。この方法ならレイラ自身は無理だったとしても手下くらいは誘き出せるはず。そうすれば棲家を見つける事も出来るんじゃないの? 虱潰しに探すよりは手っ取り早いと思うけど?」


「でも……」


 ああーっ、論破されてしまった。どうして蒼はこんなに勇ましいんだ? まあ、そこがいいところでもあるんだけど。せっかく両思いになれたのに、全然甘えてくれないな……。


 ま、まさか頼ろうと思えないほど、俺は情け無く見えてるとか……? するとフィンリーが蒼の前にココアを置きながら鼻を鳴らした。


「本っ当どうしようもないヘタレねぇ〜。それでも純血の吸血鬼なの? アオイさんの気持ちも尊重してあげてよ。いざと言う時は貴方が守ればいいだけでしょ!」


 蒼が横でうんうんと頷きながら、ココアをひと口飲む。そうだ……確かに俺は情け無い男だった。


「でも、俺は守れなかった。だから蒼がこんな目に逢ってるんです」


 膝の上で拳を握り締め奥歯を噛んでると、蒼がそろりと手を上げた。

 

「あのー、すみません。体が糖分を欲しているらしくて、もう少しお砂糖をいただけますか? ついでにミルクもいただけると嬉しいです」


「分かったわ。甘いものはアタシ達女子の味方だものね〜」


 フィンリーが後ろを向いた隙に、蒼はココアとブラックコーヒーと入れ替え、小さく頷いた。


「私がどれだけ違うと言っても、貴方は勝手に負い目を感じるのでしょうから、止めはしないわ。でもね、こうなっているのは私のミスでもあるの。少し考えれば、貴方が黒い薔薇の花束なんて選びそうにないって分かったのに、つい罪滅ぼしだと勘違いして……」


「へっ? 勘違いって……ああ! やきもち焼いてくれたのか?」


「ち、違う! ……そんな事言うならそれは返してもらうから!」


 ココアに手を伸ばして来るのを見て、グイッと飲み干す。けど、バランスを崩した蒼に肩を押され、二人一緒に椅子から転げ落ちた。


「イテテ……」

 

 気付いたら目の前、息がかかる距離に蒼の顔があった。間近で感じる息遣い、首筋をくすぐる柔らかな髪の感触、全身で感じる蒼の体温と重み、そして襟元からちらっと見える光景。しっ、心臓が口から飛び出しそうだ! それは蒼も同じだったようで、慌てた様子で身を起こしてしまう。


 あっ、くそーっ、もう少しで事故キスが出来たかもしれないのに惜しい。ツンデレは蒼を語る上で大事なポイントだけど、それが邪魔して現状ではなかなか許してくれそうにないからな。


「ごめんなさい、大丈夫?」


「これくらい平気だ」


 本当はぶつけた背中が痛むけど。


「蒼こそ怪我してないか?」

 

「ええ」


 二人で見つめ合ってると、砂糖とミルクを持ったフィンリーが頬をひくつかせた。


「まったくアオイさんまで何をしてるのかしらぁ? イチャイチャするのは勝手だけど、もう少し控えめにしてくれなぁい?」


 蒼は腰が抜けたのか俺の上で座り込んだまま、真っ赤な顔を両手で覆い、首をブンブンと横に振った。


「ち、違うんですっ! そう言えば貴方、今朝から急に積極的になっているけど、今はそれどころじゃないでしょ? 私は出来るだけ早く済ませて日常に戻りたいの!」


「ええー、行って来ますとただいまのハグも無しか?」


「無しっ!! どさくさに紛れてそれ以上の事をされそうな予感がする。……もう、ココアを飲んだでしょ? それで我慢して!」


 ちぇっ、我慢の対価がココアって、そりゃないよ。……ん? まさか間接キスって言いたいのか? そんな馬鹿な。今までも料理の味見とかで散々やって来ただろ。


 いや、それだけ蒼が俺を意識してくれてるって事か。うんうん、喜ばしい限りだ。でも間接キスって言うなら――。


 立ちあがろうとする蒼の手を、身を起こし掴む。反対の人差し指で柔らかな蒼の唇から口紅を少し取り、自分の唇に重ねた。


「へへっ。昨日みたいに『譲二さん』って呼んでくれるならハグは我慢する」


 蒼は涙目になり、口をパクパクさせながら、どうにかこうにか立ち上がった。やった、勝ったぞ!


 恋愛に関してかなりのブランクがある俺に、ここまでやられるなんて、蒼はピュアで本当に可愛いなぁ〜。トーマス、今だけは感謝しよう。蒼と本気で付き合わないでくれてありがとう。


「――イテッ!」


 その時、頭の天辺に鈍い痛みを感じ、盛り上がってた気分がガクッと下がった。後ろに立ってるフィンリーを睨む。


「……フィンリーさん、何するんですか」


 フィンリーは手刀をヒラヒラさせながら俺を見下ろし、睨み返した。


「それはこっちのセリフよ。アオイさんの命はまだ期限付きなのに随分と余裕ねぇ? 確かに散々煽ったアタシにも責任があるかもしれないけど、話が全然進まないじゃないの! ……ちょっとぉぉっ、目を潤ませていつまでも床に座り込んでないで、椅子に座ってくれるかしらぁ?」


 返す言葉も無い。俺は何を調子に乗ってたんだ。慌てて立ち上がり、溢れたコーヒーを拭きながら心に誓った。蒼の呪いを解くまで今まで通り接しようと。


「申し訳ありませんでした……」


「あぁぁっ、本っ当に面倒くさい男ねぇ! 有頂天だったと思ったらしゅんとして。毎日これの相手をしてるアオイさんを尊敬するわ……。それで、飲み物は二人共同じので良いの?」


「で、出来たら俺はココアが欲しいです……」


「私は紅茶をいただけたら……」


「分かったわ! 今度は大人しく座っててちょうだいよ!!」


「「はいっ!」」


 シャキッと背筋を正し返事をする。横で蒼も全く同じようにしていた。お互いその事に気付き、二人で顔を見合わせクスッと笑う。


「……それで蒼は本当に囮役を引き受けるつもりなのか?」


「ええ。貴方…………譲二さんやフィンリーさんにだけ任せて、家でぬくぬく待っているなんて出来ないわ。レイラにひと泡吹かせてやらないと気が済まない!」


 鼻息も荒くそう言い切った蒼を見て、小さくため息を吐く。俺は家でぬくぬくと待ってて欲しいんだけど……。


「……分かった。ただし俺も一緒に行くからな。三日後――蒼が呪いを受けてから四日目の夕方にしよう。その日なら仕事が入ってないから丁度良い」


「あら、話が進んでるようね。アタシにも聞かせてくれる?」


 フィンリーからココアを受け取り、三人で作戦会議を再開させた。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第55話で蒼が呪いを受けて3日目になる瞬間を迎えます。聖水はきちんと効果を発揮しているのでしょうか? そして新たな登場人物も現れます。6/12、14:10頃投稿予定です。


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