40話 占い
――急げ! 急げっ!!
今日は待ちに待った、蒼と一緒にハロウィンイベントを回る日だ。なのに、パブの常連さんのお誘いを断るのに手こずってやや遅れてる。
待ち合わせ場所へ向かう途中、以前会ったヴァンパイアハンターのリチャードとすれ違った。フィンリーにレイラの計画を伝えた事で、ヴァンパイアハンターが増員され惨事は防げてるっぽい。
「待たせてごめん」
蒼に駆け寄り声をかけた。寒いからか少し赤くなった鼻の頭を擦りつつ、蒼は腕時計をチラ見する。
「いいえ、今来たところ。まずは何処から行く?」
「うーん、そうだな……」
「あー、貴方って優柔不断だったっけ。それなら色々見てみるのも楽しいかもね。さあ、行きましょ?」
「うん」
カッコつかないのも、しょうがないよな。今日は見てみたい物が多くて凄くワクワクしてるんだ。まずここから街中を見渡すだけでとても楽しい。
すれ違う人も高確率で仮装をしてるし、店だけじゃなくて家々も気合いの入ったハロウィンの飾り付けがされてて、まるで映画の世界に入ったみたいだ。もうだいぶ暗くなってきてるし、雰囲気があるな。
でも、やっぱ一番ワクワクする要因は横に蒼がいる事。人混みの中を歩くから、必然的にいつもより蒼との距離が近くなる。ふとした拍子に肩がぶつかって……ほら、小指同士が触れ合った。今なら自然に手を繋げそう。
……ってダメだ、ダメ! 俺は何を考えてんだ。慌てて両手でマフラーを巻き直すフリをする。
「や、やっぱ渋谷とは全然違うなー!」
「そりゃそうでしょ、ここは本場よ?」
俺の職場でもそうだけど、ハロウィン限定のメニューを用意してる店が多いから、目だけでなく舌でもハロウィンを楽しめる。何種類かの料理を少しづつ摘むと、イベントのメイン会場へ向かった。
目当てはハロウィンの時期に食べるドライフルーツが入ったパウンドケーキみたいな、この国伝統の焼き菓子だ。
この焼き菓子の中には食べ物じゃない物も入ってて、出てきた物で占いもできると言う。俺にとって大事なのはその中身だ。
先日メアリーさんに頼まれてその焼き菓子作りを手伝った。その時、俺が用意した指輪をこっそり仕込んでおいたんだ。指輪と言ってもそこまで高価な物では無い。
トートバッグや財布とかを揃えるために寄ったリサイクルショップで、格安で見つけたk10の指輪。たぶん店員さんがk10の刻印を見落としたんだろう。
シンプルなデザインで蒼に似合いそうだけど、サイズが合うか分からない。それに入手ルートが微妙だから蒼に渡しそびれてた。でもパウンドケーキから出てくるなら丁度いいと思う。
同じ物を何個も焼いて、予め切り分けておくって話だったから、どの辺に指輪を仕込んだか分からなくならないように、ドライフルーツをたっぷりかけてある。蒼はドライフルーツが好きみたいだし、それを選ぶだろう。指輪が出て来たら喜んでくれるかな?
……いや、待てよ。今になって気付いたけど、蒼がドライフルーツたっぷりのを選ぶなら、他の人も同じ事を考えるよな……? もう配り始めてだいぶ経ってるはずだ。
マズイっ! 他の誰かに取られる前に急いで確保しなきゃ!! 蒼を抱き上げ、メイン会場へ走った。
「ちょ、ちょっと! いきなりどうしたの?」
「悪い、急いでるんだ! メアリーさんのケーキがなくなっちゃう!」
ものの数分でメイン会場に着いたけど、かなり人が並んでいた。
「もう無いかな……」
「まだ分からないでしょ? さぁ早く並びましょう、下ろして」
「うん……」
蒼を下ろし項垂れる。どうしてこう運が悪いんだろう? いや、俺のつめが甘かったのか。
「ほら早く、周りの人の迷惑になるでしょ。……何? そんなに楽しみにしていたの? 確かにあれは紅茶漬けドライフルーツやスパイスの香りがたまらないわよね。しょうがない、無くなってたら家で作ってあげるから元気出して」
蒼の手作り焼き菓子に少し元気をもらって列に並ぶ。もどかしい、蒼がちらちら腕時計を見る気持ちも分かる。前の数人越しに覗いてみると、予想通りほとんど残ってないけど、俺達の分はありそうだった。
指輪は誰かに取られちゃうし、蒼の手作り焼き菓子も食べれそうにない。周りに聞こえないように小さなため息を吐いてたら、俺達の番になってた。
「あらアオイとジョージ、ハッピーハロウィン! そうそう、何故かやたらとドライフルーツがかかった部分があったから、手伝ってくれたお礼に取っておいたのよ。生憎フルーツたっぷりは一枚しか無いんだけど――」
「おっ、俺はいいから蒼が食べてよ!」
メアリーさんが蒼にドライフルーツが多いパウンドケーキを渡しながら、俺にウインクした。どうやらバレてたらしい。本当にありがとうございます。この感謝は一生忘れません。
「わぁ美味しそう、ありがとうございます。だけど、もらっちゃって良いの? 随分楽しみにしていたみたいじゃない?」
「ふふっ、ここはレディーファーストでアオイに譲るのよね〜。じゃあジョージには厚めに切っておいた方をあげるわ」
メアリーさんが笑いを堪えながら、二枚分くらいありそうな厚みのパウンドケーキを差し出す。
「あっ、ありがとうございます!」
メアリーさんと別れて人が少ない路地へ入ると、蒼が早速包みを開けて食べ始めた。その様子を固唾を飲んで見守る。
「ん〜、やっぱり美味しい。あれ、貴方は食べないの?」
「う、うん。食べるよ」
適当に相槌を打ち、ちびちびと焼き菓子を食べながら、蒼をちらちらと見る。半分くらい食べ終わったみたいだ。まだ指輪は出てない。
「な、何よ。そんなに見られたら食べ辛いじゃない。……もしかしてフルーツたっぷりが羨ましいの? しょうがないわね、半分ずつにする?」
「いやいや、このままでいいよ。蒼は凄い美味しそうに食べるな〜と思って」
そろそろ指輪が出た時の反応をイメージトレーニングしとかなきゃ。盛大に驚きながら拍手して、指輪が出た意味を伝える。『幸せな結婚が出来るんだって』って。
蒼が他の誰かと結婚するのは複雑だけど、蒼が幸せになれるなら俺もちょっとは喜べるようなっておかなきゃ。それこそイメトレが必要そうだ……。
ってあれ、蒼がケーキを食べ終わってる!? 嘘っ、指輪は何処へ行ったんだ? まさか飲み込んじゃったとか?
「な、なあ、何か出てこなかったか?」
「いいえ特には。ああ占いね、何も出なかったから可もなく不可もなくってところ? 強いて言えばフルーツが沢山食べられる一年になるかも」
蒼が嬉しそうに笑いながら腕時計をチラ見する。なんだよ、今日は腕時計を見る事が多いな。もしかして俺と居るのがつまらないとか……?
くぅーっ、このパウンドケーキ美味いな。本当は味わいたいのに、バクバク食べないとやってられない気分だ。勿体無さと、自分の心の狭さがますますムカつく!
ん? 何かが牙に引っかかった。……どうせボタンとかが出てきて“結婚出来ない”って突き付けられるんだろ? そんな事元から知ってるってんだ! 泣いちゃうぞっ!!
クソッ、こうなったらどんなボタンか拝んでやろうじゃないか! ケーキの中からアルミホイルの塊をほじくり出す。
「そっちには何か入っていたのね。おおっ、指輪? 確か“幸せな結婚”だったはず。良かったわねー」
えっ、ええーーっ!? これ俺が仕込んだ指輪じゃん。もしかして俺と蒼の分は元々隣同士だったのか? それでドライフルーツを押し込んだ時に、指輪がちょっとずれてこっちに来たとか?
「これは蒼が持っててくれ。良い事があるかもしれないぞ?」
「ふぅん、それじゃ遠慮なくいただくわ」
「じゃあ、手を出して」
ちょうだいのポーズをする蒼の手を返し、指輪を小指にはめて、邪魔な髪を耳にかけながら指先に軽くキスする。
あっ…………やっちゃった。けど、これくらいならイタズラの範疇だよな……?
「ちょ、ちょっと!」
耳まで真っ赤になった蒼の猛抗議を受けたけど、無防備に手を出す蒼も悪いんだぞ〜。こう言う事はやったもん勝ちだ。
「あ、もうこんな時間なのね。これから行きたい所があるんだけど付き合ってくれる?」
蒼が腕時計を見る。なるほど、だから時間を気にしてたのか。
「もちろん!」
へへっ、今は凄く気分が良いから、例えフィンリーの所へ連れてかれたとしても、笑ってられるかもしれないぞ。
お読みくださりありがとうございます。
次回、第41話で主人公は蒼の裏切りを受け、フィンリーに捕えられてしまいます。逃げようと抵抗しますが、ガッツリと弱みを握られた主人公、絶体絶命のピンチ!? 6/6、23:10頃投稿予定です。




