Ep87 Chapter“2” Scene“5” Cut“4” Take“2” 暴走暗雲は唐突に
「あ、あのさ、ミチルちゃん。もう手を繋いでる必要はないんじゃない?」
「そんな事はありませんッ!ミチルがまた、転びそうにならない為にも――そう、ミチルの“安全”の為にも絶対にこうしているべきですッ!
だから、離しちゃダメなんですッ‼」
本日のデートにおけるミッションは、いくつかある。その中の一つ目が早々にクリア出来た事で、ミチルは順調だと感じていた。
しかし、稜真としてはミチルが“カノジョ”とはいえ、手を繋いでいる現状が落ち着かない。隙あらば繋いだ手を離そうと説得を試みるが、それは全て却下され続けていた。
さらに言えば、稜真がそれをするたびに、ミチルは「これでもかッ」と言わんばかりの握力で全力の抵抗を示していく。
よって稜真は周囲の通行人の視線が気になるところだが、ここまでされれば折れるしかなかった。
そんなこんなで順調にデートは続いていく。そしてこれこそがミチルプレゼンツ、最強デートプランの全容である――
10:00待ち合わせ
11:00水族館に行く
12:00ランチタイム
13:00デパートでお買い物
15:00映画館に行く
18:00ディナータイム
19:00高台にある公園で夜景を見る
――と、完璧(?)なストーリー構成となっていた。
そして、そんなミチルの最終目標は……と、まぁ至って普通の女子高生が考えそうな内容とだけ伝えておこう。
斯くしてデートは進む。だがその一方で、静かに、且つ大胆な暗雲もまた、ジワジワと近付きつつあった――
「あっ!あれはまさか、会長ですの?隣にいらっしゃるのは……妹さん?
いえ、あの顔はどこかで見た記憶がありますわ!そう!確か、森園書記から送られて来た写真に写っておりましたわッ!
そんなまさかッ‼わたくしの目の前で、デデデデートなんてしてくさりやがってますの?!
そんな破廉恥なコトはお天道様が許しても、わたくしが絶対に許しませんことよ!」
――ムギュッ
これはたまたまだ。本当にたまたまだ。小森財閥の情報網を使って、稜真の行動を監視していた……とか、そういう類の話しではない。だから、たまたまでしかない。
だが、稜真の“自称・正妻”である梢が、その目で見てしまった以上、収まりを見せるハズもない。
――結果、目に見えるほどのドス黒いオーラが立ち昇っていく。それと同時に、その手に持つ高級ブランドバッグは悲鳴を上げた。更には、今度こそ本当にたまたま通り掛かったカップルは、梢の殺気に毒てられ短い悲鳴を漏らし、スゴスゴと来た道を戻って行った。
よって“見たからには即行動”と、梢が行動に移そうとしたその矢先、梢は口を塞がれデート妨害工作は失敗に終わったのだった。
「梢ちゃん、ストップストップぅ!ダメだってばぁ!ステイッ!
ステイだよぉ、梢ちゃんッ!
今は序盤最高の見どころ……じゃなくて、かいちょおの護衛の任務中なんだからぁ」
「森園……書記?
えふんッ!森園書記は、わたくしを犬っころか何かと勘違いしておりませんこと?
ですが、今はその話しはひとまず置いておきますわ。
――それで何故、わたくしが会長の逢引きを止める事を、引き止められなければなりませんの?
ってか、護衛の任務ですって?あんな手を繋いでジャレ合うのが任務なワケありませんわッ!」
たまたま居合わせた梢と違い、梓はそうではない。だからこの場にいる。そして、デート中の二人はその事を知らない。要するに“出歯亀”というヤツだ。
これは夕樹菜から、“ミチルの護衛”という皮を被った梓の興味本位の行動である。実際に梢と違い、梓は戦いには向いていない。だから本来ならば“護衛”としての“適性”は限りなく低い。
しかし“耳年増”な梓がデートの話しを聞いてしまった以上、じっとしていられるハズがない。あるハズもない。
よって二人の会話は全て『耳眼』で盗み聞きした上で、距離をとって尾行していた。その眼光は鋭く、歴戦のハンターのようでもある。または大物俳優やアイドルの出待ちをしているファンのよう……と、言えなくもない。
ちなみにミチルは気付かない距離でも、少なくとも稜真には気付かれる恐れがある。だから必要以上に距離を取っていたが、想定外の闖入者が出て来てしまっては話しは別。
梢がデートをブチ壊してしまっては、梓としては楽しめない。だから実力行使で梢を止めた……と、いうワケだ。
「チッチッチッ!梢ちゃん甘いですぅ。もう甘々ですねぇ。ああ見えて、あそこにいるミチルちゃんは、“超”重要人物なのですぅ」
「なんですってぇ?! どう見たって、少し背伸びした小学生……ハッ⁉ まさか、会長は小学生に興味が?!
そ、それなら、わたくしに勝ち目なんて最初からありませんわ……ね。
こうなったらいっそ、会長を刺して自分も死んでみせますわ」
……と、まぁ、静かに見守る梓と、大胆な行動に出ようとする梢。そんな二つの暗雲の事など知る由もないデートはまだまだ続く――
―― To the Next Take ――




