Ep69 Chapter“2” Scene“4” Cut“1” Take“2” 予測と困惑は唐突に
――分かってる。分かってる。分かってる。だってあの二人は“同棲”しているんだ。あんな仲良さそうに笑いあうなんて普通なんだ。
それ以上のコトだって、普通にしているハズなんだ。ミチルがシたコトがない事も――
ミチルはそのまま音を立てないよう、ドアを閉めた。二人に気付かれないようにそっと。
善次郎と釣り合う女性になる為、「何事にも動じない」って決めていたミチルだが、“推し活”を封印したのは思った以上に精神を“鬱”方向に引きずり回していた。
そうなると、志仕込みの生半可な前向き思考が役に立つハズもない。
――結果、ミチルはリモコンを手に取り……
テレビを点けるに至る――
――ピッ
「犯人はアナタだ!真下マミさんッ!」
「あ、あたしが犯人だって証拠がどこにあるのよッ!あたしは、彼を愛していた。あたし達は愛し合っていたのよッ!」
「そう。アナタは確かに愛していた。だが、間宮シンジさんはアナタの愛を重く感じていた……。
だから、逃げたんです!」
「なんでそうなるのよッ!あたしはただ、彼の為に尽くして身も心も捧げて、彼が望む事なら何だってして来たの!
それなのに……それなのに、なんであたしがあんな目に……彼が他のオンナと……」
――ピッ
辛かった。ミチルは非常に辛かった。話しの内容が分からないばかりか、ランポーくんが責め立てる犯人が自分と重なってしまう。それはまるでランポーくんに、自分が責められているような感じに陥ってしまう。
ミチルは時計を見る。家を出るまであと五分。勉強する気にもなれない。かと言って玄関を開ける勇気もない。
あんな笑顔を見たくもない。大好きなランポーくんが他のオンナに向ける笑顔なんて見たくない。
どうしようどうしようどうしよう……そんな苦悩がミチルを襲っていた。
それはあの時、自分の事を『魔眼』の恐怖から救ってくれた“推しアニメ”が、敵に回ってしまったような錯覚――
「じゃあ、行ってきます」
「あぁ御劔さんを頼んだぞ。お前のコトだ、間違いは起こさないと思うが、くれぐれも手は出すなよ?」
時刻は“22:30”。ミチルと約束をした時はいつもこの時間に部屋を出て、日付けを跨がないよう一時間だけの家庭教師を行っている。
稜真は今日もいつも通りに部屋を出て、その一分後にはミチルの部屋のインターホンを鳴らす。
すると鍵がガチャりと音を立てて開き、頭のてっぺんから湯気を立ち昇らせたミチルが、頬をピンク色に染めながら上気した笑顔で迎えてくれる。仄かに香る石鹸の香りを纏わせて。
そんな“予想”を彼はしていた――
――ピンポーン
「あれ?出て来ない。まだバイトが終わってないのかな?
ん?鍵が……開いてる」
稜真は胸の奥底に得体の知れない違和感を感じた。ミチルとの付き合いはまだ一ヶ月も経っていない。だがその短い付き合いの中で得た、統計的な“観測”とは、違いが多過ぎる。
稜真の心はザワついた――
――ガチャ
「御劔さん?ボクだけど?部屋にいるかい?」
恐る恐るドアを開け、稜真は玄関に入った。ミチルの靴はある。どうやら彼女は帰って来ているようだ。
それならお風呂だろうか?だとすれば、彼女が上がってきたら鉢合わせしてしまう。もしも彼女が、その時に服を着ていなければ大惨事になる。
それだけは避けなければならない。
だが、風呂場から水が流れる音はしなかった――
稜真の中に何か言い様のない不安が込み上げていた。今までの“統計”とは違う事態。今までの“観測”から得たミチルという“個性”。そのいずれとも違う感覚――
女心はイマイチ理解出来ない稜真だが、違和感は分かる。彼女が何を考え何を想い、その結果にある行動は分からなくても、今まで“視て”来た“点”と“点”が、“線”にならない感覚。
「何かが御劔さんに起きた」……そう確信を持った稜真は、ワンルームに繋がる部屋のノブに手を掛けた――
「――ッ?!
御劔さん!これは……一体?」
「あっ……善次郎さん。……ごめんなさい。ミチル、ミチル、ミチル……うわあぁぁぁぁぁぁん」
ミチルは部屋の中で一人泣いていた。そして、稜真の姿を認めた途端、更に声を上げて泣き出していった。
彼にとって全くの想定外。それは彼が“朴念仁”だから……という理由が一番の最適解だが、それでも、突然泣き出されれば困惑するのは当然だ。
だがその反面、国を含む他の勢力に襲われたりしていない事実により、稜真はホッとした気分だったのは間違いがない――
「泣きやんだ?もしボクで良ければ相談に乗るよ?」
いつもならもう、家庭教師を終えてこの部屋を出ている時間。ミチルが泣きやんだのはそんな時間だ。
ミチルは稜真を見るとその胸に飛び込み、ひたすら泣きじゃくっていた。そのまま一時間。
その光景はさながら、さきほどの夕樹菜が話していた、「胸を貸さずに揉んでこい」という状況に類似しているが、稜真がそんなハレンチなコトをするハズもない――
―― To the Next Take ――




