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75 おかえりなさい

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組長先生と若頭が九州から帰って来た。


いつものように三時のお茶の時間にお菓子を持って現れた。

社長はいない。配達に行ったのだ。


ドアベルが鳴り、組長先生と若頭が入ってきた。


「土産だぞー、土産」


九州の銘菓だと、組長先生は若頭にペーパーバッグを数個ティーテーブルの上に置かせた。


わたしとりんちゃんと七十先輩、三人で大喜びして二人はお菓子の箱を開け、わたしはお茶の準備を始めた。


ミニキッチンでお茶の準備をしていると、若頭が顔をのぞかせ、

「ハンカチを受けとりました。わざわざありがとう」

ニコリと笑った。

よかった。すんなりと受け取ってもらえた。

もしかしたら不要ですと言われるのではないかと考えてたから。


「こちらこそハンカチ貸していただいて助かりました。ありがとうございました。お借りしたハンカチと同じものはなかったので、町田さんがスーツに合うものを選んでくれたんです」


話していると、「おーい、茶はまだかー?」と組長先生の催促の声が入った。わたしは返事をして、「お茶、一緒にどうですか?」と若頭に声をかけてみた。

「そうですね、たまには・・」

若頭はそう言って、わたしのかわりにお茶のトレーを持っていってくれた。



「やっぱり地元が一番落ち着くねぇ。なんか変わったことはあったか?」


「社長の車が車場荒らしにあって、犯人がまだ捕まってません」

お菓子をもぐもぐしながらりんちゃん。

りんちゃんが答えてくれたのでわたしはひたすらもぐもぐする。このお菓子美味しい。もう一個・・。

「車場荒らし?堀内の車をか?」

「はい」

りんちゃんも二個めのお菓子の袋を破く。

「だから社長ってばまた車を買い換えたんですよ。ね、みーちゃん先輩」

「そうなんです」

口元を手で隠しもぐもぐ。お茶で口内を少しさっぱりさせ、

「社長のマンションの駐車場が狙われたらしくて、他にも十数台荒らされてたから、犯人はプロの集団じゃないかって」

会話に参戦した。

「奴の女房の車もか?」

「奥さんのは無事だったそうです」

「奥さんのは軽だったからかな?」

「エリちゃんのはあちこちにキズがついてるからねぇ。駐車場に防犯カメラがあって車にアラームもついてて、それでも荒らされるんだから防犯のしようがないよ、全く」

わたしとりんちゃんは社長夫人を奥さんと呼んでるが、七十先輩は社長夫人をエリちゃんと呼んでいる。

「でも変ですよね。社長の車のなかにはエロ雑誌とかAVしかないけど、奥さんの車のなかにはけっこうお金になるものがあったのに。撮影用のアクセサリーとか積んでておろすの忘れてたって。全部本物の宝石ですよ。奥さんって本物嗜好だから」

「・・まあ、お前らも気をつけろよ。車ん中には金目の物は積んどくんじゃねえぞ」

りんちゃんは元気よく「はい!」と返事をし、七十先輩は「あたしはそろそろ免許返還するかねぇ」と呟いた。

わたしは車も免許もないので、自転車の鍵を二重にしようと考えていた。

自転車、My LOVE。盗まれたり壊されたりしたら泣く。

そのあとも地元のローカルな話題に花が咲き、若頭の携帯電話が鳴って、若頭は電話をしながら車に戻っていった。電話をしながらも、「お茶、ごちそうさま」という言葉は忘れなかった。


「若頭さんってなんか雰囲気変わりましたよね」


りんちゃんが若頭が去っていったドアを見ていた。


組長先生は「そうか?」と意味ありげな笑顔をわたしに向けた。


「以前は怖さ全方位120%だったけど今はちょっと余裕を感じます」


「そうだな、なんかあったのかもなあ」


組長先生は軽く受け流してりんちゃんに答えた。


お店の電話がなった。七十先輩が出ると、お花の注文らしい。


組長先生は「そろそろ帰るか」と、席を立った。


りんちゃんはお茶のカップの片付けに立ち、わたしは組長先生を見送る為に一緒に店外に出た。




帰り際、車に乗る前にわたしは組長先生を呼び止めた。


「あ、あの、今さらなんですけど・・」


「ん?どうした?」


「・・・お帰りなさい・・」


それだけの言葉が妙に照れくさかった。


組長先生は少し驚いた表情をして、わたしを引き寄せると、


「・・ただいま。お前のその言葉が一番嬉しいぜ」


そう、小さな声で言ってくれた。


わたしの中で答えが出ている、と、組長先生も気づいたかもしれない。




その日の夜、スマホが鳴った。


組長先生からで、次の公休日を聞かれた。

お屋敷にバラを植えることにしたので、松田さんの家でバラの選定をするというのだ。

わたしの休みに合わせるから選定に一緒に来ないかと誘われた。

わたしはお誘いを受け、明後日、松田さんの家に行くことになった。





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