73 借りたハンカチと空騒ぎ(2)
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「まるで俺が同性愛者のように思われる発言はやめて頂きたい」
本人登場!?
いつからそこに!
「仙道!貴様どっから入って来やがった!」
社長が振り向き様に怒鳴った。
「ドアが開かなかったのでガレージからですよ。開いてましたから」
不法侵入をしれっと答える若頭。
スーツを着てるからお仕事かな?
「今日は営業してねえんだよっ。入ってくるんじゃねえよ、この野郎っ!」
「何よ!あんたのせいで私の大学生活の最後は暗かったんだから!」
「俺は何もしていませんよ。あなたの恋人達に周りをウロチョロされて迷惑を被ったほうなんですから」
え?待って、話が・・
「??どうゆうことですか??若頭さんにその気はなくても男にモテるってことですか?」
りんちゃんも訳がわからなくなっているぞ。
「俺じゃな」
「とにかくこいつは悪党なのよ!!!」
若頭のセリフを遮り社長夫人の雄叫びが店内に響いた。
険悪なムードから殺伐としたムードになる前になんとかしなくては。
台風は去ったのに、当花屋店内にはまだ嵐が吹き荒れている。人間関係という嵐が。
「あの、今日はお花の注文はいただいてませんが、急なご用命でしょうか?」
わたしは若頭に声をかけた。
若頭はわたしを振り向いて、
「庭の花がだいぶ被害を受けたので仏壇の花をほしいそうです。今日終わるのは何時ですか?」
と、わたしに聞いた。
若頭の質問になぜか社長が怒鳴る勢いで
「何時だろうと・・!!」
何時だろうと関係ねえ!!と言いたかったにちがいない。しかし、
「今日は四時で終わるって社長が言ってましたよ」
あっさり白状したのはりんちゃんだった。
ニコニコかわいい笑顔のりんちゃんに、勢いを削がれた社長は今にもりんちゃんの首を占めそうだ。
危ない!りんちゃん!
ここは先輩のわたしが盾にならなくては!と、わたしは社長とりんちゃんの間に割って入った。
「ではそれまでに取りにきますのでお願いします」
「承りました。いつもありがとうございます」
わたしとりんちゃんはお辞儀をし、若頭は礼儀正しく不法侵入ルートのガレージを通り帰っていった。
社長は史上最強の不機嫌で、社長夫人は若頭にいつまでもガンを飛ばしていた。
若頭の車が完全に去った頃合いを見計らい、社長は
「いいか、青木。仙道にゃ関わるな。あいつに関わるとろくな目にあわねえからな!」と念をおしてきた。
「だから関わってませんって!何回言ったらわかるんですか?」
さすがに腹立ってきた。
「青木ちゃん!もう二度とハンカチなんか借りちゃダメよ!!」
頭痛い。無茶苦茶言ってるな、この夫婦。
「仕方なかったんですよ。鼻水が出てティッシュがなかったから若頭が鼻水拭いてもいいからってハンカチを貸してくれたんですから」
面倒なのでとりあえずおおざっぱに説明をすると、社長は一瞬間をおき、次に爆笑して「鼻水って、青木、お前ホントに女か」と失礼なことをぬかしやがった。
社長夫人は「鼻水拭いてそのまま返してやればよかったのに!」とヒステリーを起こしていた。
ハンカチ一枚にここまで騒げるのはもはやある種の才能だ。
それにしても新たな事実が一つわかった。
若頭と社長夫人は大学が同じ。
社長夫人はこう見えて、日本屈指の某有名超頭のいい大学を卒業している。
ってことは若頭もか。
つまり二人は、高学歴、高身長、高給料、高顔面偏差値の4K。
・・・。
わたしはため息をつきながら、お花の手入れを続けた。
そうしているうちに七十先輩がお使いから戻り、わたし達はつかのまのコーヒータイムに突入した。
コーヒータイムが終わると、社長も社長夫人も姿を消し、店内の時間は穏やかに過ぎていった。
午後三時ちょっと過ぎ。
若頭がお花を取りに来て、去り際に妙なことを口走った。
『社長夫人には気をつけてください。俺は同性愛者じゃありませんので』
そう言うと、車に乗り帰って行った。
わたしは若頭の言葉を頭の中で反復した。
━━━ 社長夫人には気をつけてください。俺は同性愛者じゃありませんので ━━━
俺は同性愛者じゃない。
俺は・・・
俺は・・?
あ!
社長夫人か?!
ああ、そうか・・・。
でも、気づかぬふりをしておこう。
その方がおたがいの為になることもある。
店内に戻ると、りんちゃんと七十先輩がお掃除を終えていた。早い。
若頭が花を取りにきたら帰ってもいいと言われていたので、わたし達はその通りにし、本日の堀内花壇本店の店内整理は終了した。早く終わった、ラッキー!
わたしは自転車に乗り、ちょっと迷ったが、オーダースーツのお店に向かった。




