65 突然現れた婚約者候補
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「おーい、茶となんか甘いもんねーか?」
組長先生が叫んだ。
本橋さんの「はーい」と言う声がして、ドアの開く音がした。
「チョコレートケーキがありますからいまお持ちし・・、まあっ、会長!若いお嬢さんを泣かせて・・!」
「あ、・・違・・・」
《違う。誤解です》と、わたしは言いたかったが声にならなかった。
心のしこりみたいなものが、組長先生と若頭の言葉で小さくなって、わたしが勝手に泣いてしまっただけだから。
「いいじゃねえか。男ってのは女を泣かせて慰めてえ生き物なんだよ」
「何を格好つけたことを言ってるんですか。まったくもう、幾つになってもしょうのない。いまチョコレートケーキを持ってきますよ。チョコレートは好きですか?」
「は・・、はい」
大好きです!と答えたいが鼻水がぐずぐずする。
組長先生はわたしの隣に座って頭を撫で、若頭はティッシュを箱ごと渡してくれた。
「す・・すみませ・・・」
昨日から泣いてばかりいる。
情けない。
「いいって、いいって。気のすむまで泣いたらいいのさ。おまえはきっと、いつも我慢をし過ぎてきたんだよ」
一回鼻をかむ。
「それにしても、ろくでもない連中とはバッサリ言ったもんだな」
苦笑いの組長先生に続いて
「お母さんは厳しいかただったんですか?」
若頭が聞いてきた。
「いえ、・・・」
わたしは鼻をグスグスさせながら言葉を濁した。
「どうした?」
「いえ、厳しいんじゃなくて・・」
「・・なんか言いてえことがあったら言っちまいな。心に抱えてると重いだけだ。忘れてほしいことなら聞いたらすぐに忘れるからよ」
決して厳しい人ではなかった。
お母さんを誤解されるのはいやだな。
「・・・、わたしから離れていった子達の中に、階段から落ちるのを助けた子がいました。すごく仲がよかったんですが、離れて近づいてこなくなったのに、ある日、学校帰りに声をかけてきたんです」
『テストの問題わかるなら教えてよ。そしたらまた仲よくしてあげる。次のテストで100点とれたら新しいゲームを買ってもらえるの。ねぇ、ほんとはわかるんでしょ?一人だけ知ってるなんてずるいわよ』
「わたしはその話もしていたので、それで母から"ろくでもない連中"って言葉が出たんだと思います。母は気が強いのはすごく強かったけど、厳しい人ではなかったです」
「いいお母さんだったんですね」
若頭が微笑む。
少しでもわかってくれたのならよかった。
わたしは「はい」
と力強く返事をした。
誰かと自分の家族の話ができるのは嬉しい。
「すごく・・、気が強かったか・・」
組長先生が伏し目がちに笑った。
「かかあ天下だったか」
楽しそうに笑う。
「はい。お父さんはだいたいお母さんの言うことはなんでも笑って聞いてて。だからお母さんに叱られた時のわたしの逃げ場所はいつもお父さんでした」
そして、
「・・・そうか、・・お父さんか」
寂しそうに笑った。
バタバタと足音がした。
豪雨の音も上回る。
「あーーー!会長がおれの婚約者泣かせてるーー!」
「オレの婚約者だろ!」
「バカ。年齢から言って俺の婚約者だろ」
わたしを指さす三人の男子が現れた。
「こ・・ん?」やくしゃ?・・・誰が?
見るからに十代男子三人。
「会長、何したんだよ」
「かわいそうに目真っ赤じゃん!」
「かーちゃんにチクるからな!」
かーちゃん?
え?組長先生の子供??
「お前達、婚約者ってのはどういうことだ?」
まるで舎弟に問い質すみたいな若頭。
表情がいささか険しい。
「かーちゃんがオレたちの中の誰かの嫁にしたいって言ってたんだ」
一人の男子が答えた。
「しょーがねえやつだな、楓も」
組長先生がボソッとつぶやいた。
楓さん?
楓さんがかーちゃんってことは・・
「みふゆ、紹介するぜ。黒岩の三人息子だ」
わたしの隣で組長先生が言った。
「おれ、三男の山斗だよ、13歳!」
「オレは次男の永斗、15だよ」
「長男の海斗、17歳。高校二年」
黒岩家三兄弟が起きてきたのだった。




