64 何を選ぶか (4) 問われた責任
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玄関先で泣き叫ぶ母親の声が辛かったが、わたしには事故が起きるなんて本当にわからなかったのだ。
何日も前から学校を欠席していて、クラスメートとの接触はなかった。
もはや、通りすがりの他人より遠い存在になっていたのだから。
「でも、参加をすればよかったと母に言いました。そうすれば・・、直前ならわかっていたかもしれないし、わたしがバスに乗っていれば、何か少しでも変えられたかもしれないと思って」
組長先生と若頭は黙って聞いている。
「そうしたら母は、この事故は必ず起きたもので、例えわたしがバスの出発を遅らせることができたとしても、違う形で事故は起きたと言いました」
「違う形?」
組長先生が聞き返す。
「はい」
わたし達のクラスのバスは助かるが、他のクラスのバスが事故に合うか、まるきり関係ない人間が代わりに事故に巻き込まれることになると母は言った。
そのせいで死者は増えたかもしれないとも。
『みふゆ、その時お前はクラスのみんなを助けたと喜べるのか。代わりにケガを負ったり死ぬ人間に対して責任をとれるのか』
「母に問われてわたしは答えられませんでした」
『他人の運命に干渉してはいけない。自覚を持ちなさい』
「・・そりゃあ・・辛ぇな・・・。親にそんなことを言われたら友達なんかつくれねぇ。俺達はみんな、多かれ少なかれ干渉しあって生きているからな。だがお母さんはお前を守るためにはそう言うしかなかったんだろうな」
「・・・いまならなんとなく母の気持ちもわかります・・」
でもあれ以来、わたしは他人に関わるのが苦手になった。
関わらなければ、他人の嫌な未来も視ずにすむし、わたしは悩まないで過ごしていける。傷つかずにすむ。
転校先では、皆、親切に仲良くしてくれたのに、わたしはあたりさわりのない程度にしか遊ばなくなった。
誰かと特に親しくなろうとか、なりたいとか思わなくなった。
誰かと親しくなればなるほど、未来のことが視えてしまうことがあるだろうから。
「お母さんは何故必ず事故が起きると断言できたのですか?」
若頭に質問された。
「事故を起こす人間がいますから。仮に意図的に遠足を中止にさせたとしても、事故は起きるといってました。事故を起こす人間が、その日のその場所に、その時間に現れるからだと。あの事故は飲酒運転で突っ込んできた車が原因だったから」
「なるほど・・」
「だから事故を起こさないようにするには、事故を起こす人間を消さなくてはならないと母は言ってました」
「不可能だな、どこの誰ともわからない人間を・・」
組長先生がつぶやいた。
「大人になるにつれ、予知する能力はだんだん低下して、落ち着いてきたというかなんというか・・。ただ、たまに今日みたいなことがあります・・。本当は言ってはいけなかったのかもしれない。今日、何かが変わったせいで、このあとベリー君達にもっと大きな事故や不幸が襲ってきたら・・」
「それは無いから安心しろ」
組長先生はきっぱり言った。
「・・・どうしてですか?」
「お前は木の側のハウスにベリー達がいるなんて知らなかったろ?ただ木が倒れるってのがわかっただけだ。ベリー達を助けようとしたわけじゃねぇのさ。奴らが助かったのはおまけだな」
「・・え?」
わたしは戸惑った。
「あいつらを直接助けたのは俺ですから、助けて運命を変えたなら責任は俺がとりますよ」
若頭がサラリと言った。
「・・・・え・・?」
わたしはさらに戸惑った。
「な?言ってよかったんだよ。それと、他人の人生なんか背負わなくていいんだぜ。あいつらの人生が今後どんなものになっても、そもそもそれはあいつらの責任だからな」
組長先生が言った。
「今回だけじゃねぇ。助かった誰かがそのあとどんな人生を送るかはいつだってそいつの責任だ。みふゆ、お前の責任じゃねえ」
「・・そういう風に考えたことがありませんでした・・」
「運命がどう変わろうと、変えられようと、人間の幸せと不幸せの確率は常に五分五分だ。とりあえずベリーと桐島に今後何かあっても責任は京司朗が取るから大丈夫だ」
組長先生は晴れやかな明るい顔で言った。
「そうですね。引き受けるので安心してください」
若頭は真面目な顔で言った。
「ベリーと桐島は助かった。嬉しいじゃねえか。それだけでいいのさ。な?」
組長先生はニッカリと笑った。




