36 密談
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「会長、いいんですか、あんなことを・・・」
静けさが戻った和室で、黒岩が貴之に鞘を渡した。
「京司朗が嬢ちゃんの不信感をこれ以上買わねぇようにするには、いまは強制的にあいつを従わせるしかねぇ」
貴之は鞘を受けとると、手入れの終えた守り刀を鞘におさめた。
黒岩が何か言いたげだ。
「黒岩、俺はよ、俺の持ってる物は全て京司朗に譲る。これはかわらねぇ。だがな、嬢ちゃんまであいつに託していいのかわからねぇんだよ。京司朗が嬢ちゃんを色眼鏡で見ているうちは、嬢ちゃんだってあいつを信用するわけが無え。信用のおけない男に託されてもなぁ」
「京司朗さんの立場からすればあの言い分もわからないではないですが」
「俺が嬢ちゃんに入れ込みすぎてか?」
「最初は自分も引きましたから。会長があまりにもあのお嬢さんをかわいがりすぎて」
「お前だったらどうするよ?もしも俺が若い女にとち狂ったようになったらとしたら」
「その時は・・・まあ、その時ですかね」
「はは、その時はその時か。・・・京司朗にも、お前ほどの柔軟性が少しでもあればよかったんだがな・・・」
「"万が一"を怠ったせいで、京司朗さんのご両親は・・心中なんてかたちで亡くなったんですから」
「京司朗の両親か・・。どいつもこいつも命を粗末にしやがって・・・。黒岩、もしもあいつに嬢ちゃんを託せないとなったら・・・、お前が託されてくれねぇか?お前は俺と同じくらい嬢ちゃんとは付き合いがある。お前の嫁・・楓とも仲がいい。あと、松田にも最終的な後見人として頼んである」
「わかりました。その時はお引き受けします」
物事は、いつも本人の知らないところで進行していく。