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35 もうひとつの顔

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「会長、仙道です。入ります」


仙道京司朗は会長・惣領貴之の自室の障子の前で膝を折り、声をかけた。障子の向こうから「おう、入れ」と声がした。


障子を開けると、貴之は日本刀の手入れをしていた。惣領の家に代々伝わる守り刀だ。

黒岩が手入れを手伝っている。


「お呼びと伺い戻って参りました」


「・・・京司朗」


「はい」


「見ろ、この美しい刀身を」


「・・・」


「何百年とたっても色褪せねぇこの美しさ。惚れ惚れするぜ」


「会長、話が・・」


「京司朗」


惣領貴之は京司朗の言葉を遮り立ち上がった。

そして━━━━━

「会長!何を・・・!」

「引っ込め!黒岩!!」

慌てて止めようとした黒岩を、惣領貴之は恫喝した。


日本刀の切っ先が、京司朗の首筋に一筋の血の流れをつくっていた。


京司朗は身動(みじろ)ぎせず静かに姿勢を正したままだ。


貴之の声に屋敷にいた男達が何事かと集まってきた。


日本刀を首に突きつけられ血を流す京司朗を見て、皆、息をのんでいる。


貴之は京司朗を見下ろし問うた。


「京司朗、誰が嬢ちゃんのことをかぎまわれと言った?」


「万が一ということがあってはまずいかと思い」


「万が一?何が万が一だってんだ?」


「青木みふゆが会長に計算づくで取り入っているのではないかと」


「取り入るだ?おめーの目は節穴か」


「捨てきれない可能性を排除するわけにはいきません。俺の仕事は惣領を守ることです」


「その中に嬢ちゃんは入ってねぇんだな?」


「入っていません」


「なら教えてやる。ありゃあ俺の娘よ」


「━━━━」


「守れ。惣領の家同様に」


「会長・・、」


言いかけた京司朗の言葉を無視して、惣領貴之は周囲に集まった男達にも命じた。


「いいか!てめーらも覚えておけ!!花屋の嬢ちゃんは俺の大事なひとり娘だ!!だが嬢ちゃんは何も知らねぇ!だから余計なことは言うな!ただ守れ!!わかったか!!」


惣領貴之の恫喝とも呼べる命令に気圧され、男達からいっせいに「はい!」という返事がなされた。




「京司朗」


「はい」


「嬢ちゃんを傷つけでもしやがったら、次は本気でその首撥ね飛ばす。わかったか」


血の流れ落ちる首元に、貴之は再び刀の切っ先をあてた。


動揺するでもなく京司朗はただ、


「はい」


とだけ返事をした。


━━━━相変わらず容赦がない。


「行け」


「はい」


座って日本刀の手入れを始めた貴之に、京司朗は深く礼をすると部屋から退出した。


部屋を出ると部下の三上が心配そうに京司朗に駆け寄った。


「仙道さん、首の手当てを。それから着替えを」


「そうだな」


━━━━シャツが血で染まっている。もう少し深かったら・・・。


惣領貴之の恐ろしさを久しぶりに肌で感じた。


━━━━皆、かなりびびっただろうな。知らなかった者もいたはずだ。会長の本当の姿を。『鬼神』と呼ばれたその姿を。



京司朗は口の端を上げて笑みをこぼした。



━━━━鬼神・惣領貴之・・・か。




若い連中にはちょうどいい経験になったな。




惣領貴之の真の姿を垣間見る━━━━━━








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