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26 夏の番外編 1. うろつく女
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誰かいる。
店の中・・と、いうか、スタンド花を作る作業スペースから奥の駐車場、さらに二階にかけて、行ったり来たりする女がいるのだ。
「いますよね」
「いるよね」
わたしとりんちゃんは、カウンターのパソコンデスクの椅子に座っている誰かの気配を感じていた。
「例の人ですよね、死んだのかな?」
りんちゃん、バッサリ言う。
「死んだ感じはしないなー」
と、わたし。
「生き霊?」
と、りんちゃん。
「うーん、めんどくさいなぁ」
と、わたし。
「何がめんどくさいって?」
社長が出勤してきた。店の正面から入ってきたので、近所にある自宅からの出勤だろう。
「おはようございます」
わたしとりんちゃんは、社長に朝の挨拶をする。
「先に二階に行ってくる。コーヒーいれといてくれ」
社長はそう言うと、パソコンデスクに車の鍵をひっかけて、そのまま二階へと向かった。
「行っちゃいましたね」
と、りんちゃん。
「そうだね」
と、わたし。
二階に向かう社長の後ろ姿・・、
そして後ろからついていく女・・。
お幸せに。
わたしとりんちゃんは手を合わせて二人の幸せを祈った。