25 思惑 (3)
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「本当にいい娘だな」
「ああ」
松田が青木を褒める。それだけのことなのに、なぜだか気分がいい。
「彼女はお前のことを、花のいのちの美しさを引き出す、天性の才能を持っている人間だと言っていた」
「・・買いかぶりだな。あいつはちょっと変わってるのさ」
「見てくれる人はきちんと見てくれている」
「・・・・」
「花屋を継がせた惣領会長の読みは当たっていたな」
「はっ、やめてくれや。それより何だ?仏用の花か?」
「堀内、俺はお前に止めを刺したくはない」
「なんだ?なんの話だ?」
「手を出す女は間違えるなよ」
「・・・堅気の俺にそれ言うのかよ」
なるほどな。
「堅気なら堅気らしくおとなしく生きていけ。堀内」
それで俺に会いにきたのか
「十分おとなしくしてるがな。俺の両手両足は仙道がもいでいった」
「もがなきゃ堅気になれなかったろう」
「仙道に感謝でもしろってか?」
「堀内」
「・・わかったわかった。・・・青木にゃ手は出さねぇよ。ったく、汚ねぇ手を使いやがる。あんたを引っ張りだすとはな。どうせまた仙道が企んだんだろうが」
「うちは惣領の分家だ。俺は惣領会長の意向に従う立場の人間だ」
「・・堅気になったら女ぐらい自由にできると思ったんだがな」
「自由にできる女を選ぶんだな」
「あんたの顔を潰す真似はしねぇさ。今さら面倒はごめんだ」
「そうだ。そうすることだ」
「くそっ・・」
「さっきも言ったが俺は惣領会長の意向に従う人間だ。だが、それは仙道も同じだ」
「・・・」
「仙道を恨むのはお門違いということも忘れるなよ。仙道がやらなければ俺がやっていたことだからな」
松田は穏やかな男だ。だからこそ、真剣になると鋭利な刃物のように相手に有無をも言わさない。
紳士的な風貌に皆騙されるが、仙道よりも年をくってる分、松田の方がやべぇ人間だ。
松田の言ったことは正しい。だが俺は仙道が気に食わねぇ。恨み云々よりも単純に嫌いなだけだ。
わずかな沈黙の中に内線電話が鳴った。
「なんだ?」
〈社長、お話し中すみません。田中さんという方がおみえになって〉
糸川の声だ。後ろがガヤついている。忙しいのか、青木の『いらっしゃいませ、少々お待ち下さい』の声が聞こえた。
青木は普段の声と接客の声が違う
接客の時は声のトーンがひとつ上がる
「田中?どこの田中だ?」
〈あ、・・えーと・・・あ、みーちゃん先輩に変わります〉
〈青木です。坂本商事の田中さんがおみえになってます〉
そして、電話の時はずっとずっとかわいい声になる
「ああ、そうか。花を取りに来たんだろ?」
本気でからだを重ねて、どんな声になるのか、
〈はい。渡してもいいですか?〉
耳元で聞いてみたかった
「まて、話もあるしな。今行くから待ってもらってくれ」
おまえに花を挿したいと思ったんだがな
〈はい〉
叶わねえか・・
いや、最初から叶うはずがなかった
あいつが惣領貴之の目に止まった時からな
電話が終わると松田は立ち上がり、
「仕事の邪魔をしたな」
と言った。
「まったくだぜ。どうせなら今度は景気のいい話を持ってきてくれ」
でかいでかい釘を刺された。
生殺しのまま━━━━━
だが、約束した以上、松田を裏切ることはできねえ。
『仙道がやらなければ俺がやっていた』
どうせなら、
あんたにやられた方がまだよかったぜ。
仙道じゃなくってな。
━━━━━兄貴




