23 思惑 (1)
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その日、わたしとりんちゃんは、社長の命令により本店勤務となっていた。
支店はかつての花屋従業員二名が、アルバイトとして来てくれることになった。
どうせなら本店に入ってくれればよかったのに。
お昼もそろそろ近い頃だった。
花の手入れに没頭していたわたしに、りんちゃんが声をかけてきた。
「み、み、みーちゃん先輩・・・、あれ、あれ!なんかあの車・・・」
アワアワした声でりんちゃんは外を見るようにわたしに促した。
見るとそこには・・・。
「・・・ああ、・・うん」
すごい。もろ、黒塗りアレな高級車だ━━━
店の前に停まった三台の車。ピカピカに磨かれた、真っ黒な・・・車種はわからないけど、黒い車だ。
りんちゃんはわたしの背中に隠れつつ、怖いもの見たさなのか、凝視している。
「黒いスーツですよ・・」
「・・きっと法要だよ。49日とか一周忌とか三回忌とか。どんな世界の人でも、仏を敬う心はわたしたちと同じだよ」
あの人達は、もしかしたら、わたしたちより丁寧に仏様を大事にしているかもしれない。そんな場面をお寺で垣間見た。異質な世界だった。
「でも」
と、不安がるりんちゃんに、こんな時の問題解決法をわたしは伝授した。
「こんなときはね、すぐに社長を呼ぼう」
「・・・そ、そうですよね!社長の得意そうな人達ですもんね!」
当花屋の社長は虫除け魔除けヤク避けにもなります。待てよ。もしかして呼び込んでるのでは?
わたしは組長先生とはある程度の信頼関係を築けているおかげで、怖い部分はあまり知らないでいるしょせんはただの一般人。
あの手合は警戒するし、正直怖い。
でもお客様はお客様よ。その辺は割りきろう。
リンリンリン♪
ドアベルが鳴る。
わたしは、今気づきました!とばかりに、
「いらっしゃいませ」と、笑顔でうそぶく。
我ながら出来の良いスマイルだと自負する。
入ってきたのはダークグレーのスーツの・・
「こんにちは。おじゃましますよ」
知ってる人だった。
「あ、こ、こ、こ、こ、こんにちは」
動揺してどもってしまった。
確か清和会の松田さん・・?
穏やかそうな人だけど、その分迫力がある。
静かな迫力。
松田さんはやはりお付きの人と店に入ってきたが、ついてきた人を途中で車に戻してしまった。そして、花を見ながらわたしの近くまでよってきた。
「今日は本店の勤務ですか?」
笑顔といい、物腰といい、実に紳士的。
「はい。本店スタッフがひとり退職したので、しばらくわたしも本店勤務をすることになりました」
「・・そうですか。花屋はなかなか重労働だと聞いています。体を壊さないようにしてください」
「はい。ありがとうございます」
「堀内社長はいますか?」
「はい、いま呼んで参ります。少々お待ち下さい」
「あ、あたしが呼んできます!」
ここぞとばかりにりんちゃんは去った。わたしを残して。
松田さんは店内をぐるりと見渡し、
「雰囲気がいいですね。淀みが無い」
と言った。
「ありがとうございます。日に何度か必ず窓やドアを開けて換気をしてるんです。それに三年ほど前に建て替えをしたそうなので、建物自体がまだ新しくてきれいなんです」
わたしが答えると、松田さんは微笑んだ。
どのような世界に属していても、松田さんの上品さはきっと変わらないんだろうなぁ、と思う。
「換気も建物の新しさもそうですが、店がきちんと整っているからでしょう。店内の清掃、商品の管理、基本的なことが成されているから店に入っても気持ちの良さを感じるんです。従業員の質はそういうところに出ますね」
褒められたのかな?
褒められたんだよね、たぶん。
「あ、ありがとうございます。そう言っていただけるととても嬉しいです」
照れる。顔が赤い気がする。
「堀内社長の仕事ぶりはどうですか?」
「・・社長はお花に関するセンスがすごくいいというか・・花束やアレンジメントなんか、真似しようにも出来ないです」
「真似できない?」
「はい。社長が作ったアレンジや花束を見本にして、全て同じ花材を使って作っても違うんです。社長が作ると本当に美しいんです。花のいのちの美しさみたいなものを引き出すというか・・・。きっと・・天性の才能を持っている人なんだと思います」
「・・・・そうですか」
松田さんはそれまでで一番の優しい微笑を見せたと思う。
真っ白な椿が、静かに花開いたような微笑みだった。
「おう、久しぶりじゃねーか」
社長が二階から降りてきた。
「元気そうだな。女に逃げられた割には」
真面目な顔で松田さんが言った。
わたしはそれがおかしくて、下を向いて声を押さえて笑っていた。
「逃げられてねーよ!青木!笑うな!なんでそんな話になってんだよ!まあ、いい、ちょっと待ってくれや。いま掃除させてるから」
「掃除?!だからこの前・・!」
「ああ、わかったわかった。わかったからなんにも言うな」
わたしの言葉を遮って、かぶせるように社長も言った。
「何も」わたしが言おうとすると、やはりかぶせるように社長が言う。
「わかってるって!何か言いたいならもう俺の嫁になれや!」
「嫌ですっ!」
拒否権発動。
美人なウェディングプランナーの嫁がいるだろうが!
「速攻拒否かよ!冷てぇ女だな。ああ、もういいから茶をいれてくれ。茶。俺のチンコが萎えるくらいギンギンに冷えたヤツな」
「?!社長!!」
笑いながら当花屋のAVエロ社長は松田さんを連れて二階へ消えていった。
果たしてあの台風一過のような部屋は片付いたのか?
紳士な松田さんをあの部屋でもてなすのは心苦しい。せめて美味しいお茶をいれよう。
わたしは組長先生が持ってきてくれたとっておきの玉露を出すことにした。




