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11 支店大好き!


.





━━泣いても笑っても流れる時間は同じだ。


それならできるだけ笑ってる方がいい━━



わたしは今日も晴れた空の下、自転車こいで通勤である。


支店につくと出入り口ドアの鍵を開け、レジ開けをし、店頭のシャッターを開け、お天道様に向かってわたしはひっそりと叫ぶ。



支店大好きーーー!!

オー!

今日は本店には行かないぞーーー!

オー!


今日は七十先輩が出勤してるのでわたしは通常通り支店だぞー!!

オー!


社長も事務先輩もいない支店サイコー!

オー!



「・・言いつけてやる・・・」


「ん?」


「みーちゃん先輩が社長も事務先輩もいなくてサイコーって喜んでたって言いつけてやる・・・・・」


ひゅ~~ドロロ~~ン


と、呪いの効果音が聞こえてきそうな背景をバックに現れたのは支店スタッフ後輩の糸川梨理佳ちゃん。本人の希望により、“りんちゃん”と呼んでいる。


ここのとこ、支店ほったらかしで本店にばかりにかまける日々が続いたせいで、支店スタッフがすっかりいじけてしまっていた。鬱陶しい。


「だって!忙しかったんですよ!あたし一人でどうしろっていうんですか!」


その叫びはぜひ社長に聞かせなさい。


「パック売りは花束には出来ないって言ってるのに、セロハン外して ちょっと合わせてくれればいいからって、やってあげたら今度はもっときれいにやれだの枯れた葉っぱはちゃんととれだのなんだのって!」


それはね、りんちゃん。君がやるからだよ。


支店のお花はパック販売が主である。安く仕入れたお花や、本店で大量に売れ残りそうなお花をパックにして安く販売している。

そのかわり、パックのお花は花束にしたり、アレンジメントにはしない。パックのまま売るのが原則なのだ。

原則を崩すと、つけあがるお客様がいらっしゃるので絶対やってはいけない。



「あとでポップにでっかく書いて張り付けておくからお客様に何か言われたら見せなさい」


「どこ行くんですか?またいなくなる気ですか?あたしを一人にして何が楽しいんですか!!」


「楽しくはないがトイレくらい行かせてほしい」


「・・・早く戻って来てくださいよ!!」


トイレも満足に行けないのかわたしは。


支店スタッフの後輩・りんちゃんは、すっかりお客様恐怖症にかかっているようだ。

あのタイプは本店の方がいいのではないか?


今度進言してみよう。



トイレから戻ると、りんちゃんはコロッケを食べご機嫌になっていた。


「みーちゃん先輩!総菜屋さんからコロッケもらいました。これ先輩の分」


ラッキー!


「美味しいですね」

「そうだね」

「コーヒーとお茶、どっちにします?」

「お茶」


朝からコロッケ食ってペットボトルのお茶でまったりできる。

これが支店の良い所。


支店は駅前商店街のなかにある。

客層は、『花なんかに金かけられるかよバカヤロー』層から、『あらこんないいお花がこの安い値段なのすごいわ』層まで様々である。


しかし、わたしが一番目にかけてる客層は


「このお花ちょうだい、店員さん」


と、仏壇に飾るためにあっさりと買っていく高齢者層である。


こういうあっさり素直に買っていくお客様にはおまけもつけたくなる。


レジ内には常に良客様へのオマケ用に手入れ済みのお花が置いてある。いまあるのは赤のスプレーカーネーション。


「あら、おまけ?いつもありがとうねぇ」


「こちらこそいつもありがとうございます」


「最近お顔を見なかったけどお休みだったの?」


「本店に行ってました」


「まあ、そうなの。忙しいわねぇ。体に気をつけてね」


「ありがとうございます」


わずかな食品とお花を買っていくお馴染みのお客様。小柄で、少し丸まった背に座れるタイプの買い物カートを押しながらゆっくりと歩いていく。


少し話しただけなのに、心のイガイガを溶かしてまあるい柔らかなボールに変えてくれる。


上品な言葉遣い。

必要以上に、相手に何かを求めない、人生の大先輩。


「・・・・」


自分もそうなりたい。


どんな人生を歩むにしろ、一輪の花に微笑むことができる、そういう人間でありたい。




・・・・・。





明日は本店か。





どういう職場にしろ、一輪の花に微笑むことができる、そんな人間であり・・・・






・・・・難しい。







修行不足か・・・。







わたしの代わりにりんちゃんを行かせよう。












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