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12 仕返しは、礼儀正しく確実に。(1)

.



「りんちゃん」


みーちゃん先輩が、青い紫陽花(あじさい)の鉢植えを抱っこして、神妙な面持ちであたしをみつめていた。


「なんですか?」

「本日は本店勤務でよろしく」

「えーーーーーーっ!」


『許せ、りんちゃん。みーちゃん先輩はちょっと本店疲れしたんだよ。それに、本店にも良いところはあるんだよ。嫌な客は社長が追っ払ってくれるし。とりあえず今日はよろしく頼む』

『わかりました!10代のパワーで頑張ります!』

『10代かぁ。眩しい・・うらやましい・・』

『あ、先輩も若いです!10代に負けてませんよ!』

『いや、もうヨボヨボだよ・・・』



みーちゃん先輩に言われて来たけど、あたしも本店好きじゃない。

特にあの事務先輩!林香苗!ほんとキライ!

社長の愛人でもなんでもいいから仕事しなよって言いたくなる。


入社後、本店勤務が一週間しかなかったあたしが思うくらいなんだから、定期的に本店勤務があるみーちゃん先輩と本店スタッフの七十先輩はもっと大変だと思う。



八時半頃に本店につくと、七十先輩が一人でお花の水かえと花おけの洗浄をしていた。


本当なら事務先輩もやるべき仕事なのに、事務先輩はパソコンデスクに座ってコーヒーを飲んでいた。


社長はまだ来てない。


「おはようございます。支店の糸川です。今日はよろしくお願いします」


「ああ・・はーい」


事務先輩に先に挨拶をしたが、鼻先で"ふん"とでもいうようにこちらをちらりと見るだけだった。


『りんちゃん、例え相手が職場スタッフでも、礼儀は正しくね』


わかってます。みーちゃん先輩。

だから仕返しするときも礼儀正しく確実に!ですよね。


そして、七十先輩のもとに行く。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします。水替えすぐ手伝いますね」

「糸川さん、久し振りだねえ。支店の仕事は慣れた?」

「はい。みーちゃん先輩がいろいろ教えてくれるから。一人になったりすると大変だけど、先輩にすぐ相談させてもらってます」


七十先輩は好き。あたしのおばあちゃんみたいに気軽に接してくれるし、教えてくれるし、手伝ってくれるし。


本店の花は一本売りで値段の高いのも多い。毎日気をつけていないと、知らない間に傷んでいたりする。


水替えが終わった頃、社長が出勤してきた。


社長の車を確認して、事務先輩はパソコンのキーボードを叩き始めた。

さすが、社長がいるときだけは仕事する人!


あたしは社長の車に走り寄って、挨拶を済ませた。


車からお店に入るまでの間に、社長はあたしに、支店のお客様の入りや、平日の商店街の人の流れ、先月のお花の売れ方を聞いてきた。

みーちゃん先輩に聞けばもっと詳しくわかるのに、あたしに聞いてきたということは、あたしがこの数ヶ月でどれだけお客様をきちんと見て接したかを知るためだったと思う。


『社長はいろいろアレな人だけど、経営手腕とお花を見る目は確かな人だから油断しないで客層やお花の売れ方なんかは答えられるようにしておいてね』


みーちゃん先輩がいつも言ってた通りだった。


二人で話してるのが気に入らないのか、事務先輩があたしを睨んでるのがわかった。


けれど事務先輩は『仕事してて今気づきました』とばかりに立ち上がり、社長に「おはようございます。コーヒーいれますね」と笑顔で言い、キッチンに向かった。


キッチンから戻ってきた事務先輩は、トレーに社長のコーヒーを乗せてニコニコしながら「社長、どうぞ」と、社長の前においた。


社長はお客様が花束作りを待ってる間に休める、丸いティーテーブルの椅子に座ってコーヒーを飲み始めた。

「少し薄いな」

と、社長が言うと、事務先輩はすぐ「入れ直してきます」とキッチンにもう一度行った。


この社長、こうして黙ってコーヒー飲んでると、けっこういい男だと思うんだけどな。無精ひげがちょっとあれだけど、顔立ちは整ってるし背も大きいし。ガテン系の逞しい男!って感じ。

従業員に手を出す、超スケベなとこさえなければの話しだけど。


七十先輩が自分の分とあたしの分のコーヒーをいれてくれ、あたし達は少しの間のコーヒータイムを楽しんだ。


飲み終わると、社長はあたしの方を見て、「糸川は事務を手伝え」と、言った。

あたしが「はい」と返事をするやいなや事務先輩が

「私一人で十分です」と言った。

社長がなおも「事務の予備人員だ」と言っても、事務先輩は食い下がろうとした。

「でも」

「さっさと教えてやれ」

社長に強く言われて、事務先輩はようやく引き下がった。


あたしはパソコンデスクに座っている事務先輩の横に行き、

「よろしくお願いします」

と挨拶をした。

事務先輩はあたしをちらりとも見ず、

「じゃあ、パソコンの操作から」

と、事務のソフトを今開いた。


一通り説明を受けたけど、内容的には簡単だった。

あたしはわざと「意外と簡単ですね」と、言ってみた。






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