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魔法ってすごい


 なぜか警察等がいなくなった事件現場の目の前にまで僕らは来ていた。


「あの、これっていわゆる不法侵入ですよね」

「そうですね!」


 そうですねて。


 行おうとしていることが犯罪であると諭してみたのだが、こころさんはむしろうれしそうに答えた。どうしてそうなるのか。


「バレなければ大丈夫ですよ花丸さん」

「いやバレますよ……」

「バレてもなかったことにすれば大丈夫ですよ」

「あの。というか、なんで警察とかいないんですかね」

「魔法ではけてもらいました」

「魔法ですか」

「はい魔法です」


 そのニコニコとした顔のまま、そのうち目撃者を全員消せば大丈夫ですとか言い出しそうで怖かったのでそれ以上の不毛な質問はやめることにした。


 さきほどボディガードの女性がなにやら誰かと通話していたが、不気味なほどに不用心なザル警備は、それと関係あるのだろうか。


 立ち入り禁止を示すテープがかけられているのもお構いなしに、彼女はグングン進んでいって、それに引っ張られて僕もついに玄関の中に入ってしまった。これで僕もめでたくないことに犯罪者である。


 ぼーっとそう思っていると、ようやくつかまれていた僕の手から、女性の手特有の柔らかさと、ぬくもりが離れていった。……僕に玄関の敷居を跨がせてから手を放すあたり、故意的にもう引き返せないところまで運んできたんじゃないかという疑惑が浮上したが、どうだろうか。


 こころさんの表情をうかがうも、相変わらずニコニコしていて何を考えているか検討もつかない。


「さて、犯人の手がかりはあるでしょうか!」


 僕の視線を気にすることもなく、彼女は家の中を自由に歩き回った。

 

 ペタペタいろいろなものに触っているけど、指紋とか、現場保存とか大丈夫なんだろうか。


「そんなチワワみたいな顔をしなくても、警察とはお友達なので大丈夫ですよ」


 怯える僕を見て、新田さんが横でふふふと笑った。


「じゃあ警備の人が一人も見えないのも……」

「私が一声かけたので」


 とりあえず魔法よりは説得力がある内容だった。


「てっきりヤクザって警察とは対立関係だと思ってたんですけど」

「持ちつ持たれつですよ」

「あのそれ、癒着ってやつなんじゃないですかね」

「そうですね」


 そうですねて。


「そういえば、お二人はなぜこんなところで探偵ごっこなんてしてるんですか?」


 少なくともお嬢様が来る場所じゃないのは間違いない。


「今回の被害者である花坂夫婦は、組の関係者だったんですよ。いろいろ問題を起こしてくれまして」


 やはり、彼女たちは関係者だったのか。


「実はここだけの話、花坂夫婦は8年前に少女を一人誘拐してるんですよ。この家には人一人監禁した痕跡があるというのは警察関係者に聞いていたのですが、どちらかというと、あの子は犯人というより、そちらの方を直接確かめに来たふしはありますね」

「それは……驚きですね」


 本当に、彼女たちがそのことを知っているということになによりも驚いた。僕は不審に思われないよう、声が上ずらないようにするのに必死だった。


「その誘拐?された人を見つけてどうするんですか?」

「さあ? そこまでは聞いてません。もう死んでしまっている可能性もありますからね。少なくとも、血痕等はなかったようですけど」


 そいつ、実は死んでるどころか、今うちで毎日対人ゲーやっては元気に台パンして猿みたいに発狂してるんですよ。


「まあ仮に知っていても、部外者に話すことではないですね」

「部外者を犯罪行為に巻き込んで言っちゃダメそうな情報をぽいぽい口にした人から出るセリフとはとても思えないんですけどそれは……」

「あの子と違って、私が言うのはちょっと違和感があるかもしれないですけど、魔法でなかったことにするので問題ないですよ」

「はは。確かにあなたはもう魔法を信じるお年頃でもないで」「ぶち殺すぞクソガキが」

「すすすすみません」


 調子に乗って軽く放った冗談は的確に彼女の地雷を踏みぬいたようで、歯と殺意をむき出しにした彼女のあまりの怖さにちょっぴりパンツが濡れた。




「ここが監禁されていたと思われる場所です。扉から違いますね」


 実家の玄関の扉より、重い扉が開いた。途端に、嗅いだことのある異臭が鼻を刺した。以前その臭いを嗅いだのはわりかし最近のはずなのに、そのドブのような臭いに僕は懐かしさすら覚えた。部屋の隅に鎮座したテレビの近くに、古い型のゲーム機と、ソフトが散らばっているのが目に入った。それを見て、ああ、あいつはここで暮らしていたんだなと一目で理解した。


 あいつはあんな枯れ木みたいな体だったのに、この部屋はまるでライオンでも閉じ込めるためのものみたいに厳重だった。扉も、壁も、窓も、全部が全部。



「叫んでも大丈夫なように防音加工されてますね」


 新田さんがこんこんと拳で壁を叩いてそうつぶやいた。


 こころさんは、にこりと笑顔のまま、部屋の入り口でしばらく何も言わずに突っ立っていた。やっぱり、なにを考えているかは読み取れない。


 

 結局、彼女たちが誘拐された少女の手がかりを見つけることはなかった。なにせ、僕がなにも話さなかったのだから。行きと違って帰りはすんなりと解放された。



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