#32 私と店長の小旅行。(終)
「さっきは本当にすいませんでした。 でも、まさかあそこまで信じ込むとは思いませんでしたよ」
「ヤメテいま僕に話しかけないで。 思い出したら恥ずかしくなってきた。 地の文でも相当恥ずかしいこと言ってた気がするし」
「え、なに言ってたんですか?」
「ヤメテ、いじめダメ、絶対」
空を覆っていた雲は綺麗に消えて、もうすぐ空は茜色から濃い紫へと色を変える。
私と店長は行きも通った長い坂道を、海に背を向けるようにして登っている。
「にしてもよくあんな演技が出来るよね、彩音ちゃんは」
「幼い頃母に教わったので。 社会で生き抜くにはコレが必要だと」
「どんな母だ……」
店長はまだ少し湿った服に残る砂を手で払い、何か言いたげにして、やめた。
多分、『あのこと』だろう。
「………………」
「………………」
やっぱり無言はしんどい。
たまに真面目な話をするときも、どこかふざけ合っている。店長とはそんな感じで居たいんだけど。
「着いたよ」
店長の声で私は顔をあげた。
気づけば、そこは山の頂上だった。
そして、店長にうながされるままさっきまでいた海を見下ろせば、まさに夕日が水平線に飲み込まれるところだった。
「冬だったら見れるんだけどなぁ、だるま夕日」
「だるま夕日、ですか?」
「寒い日は夕日がだるまみたいに見えるんだ。 たしか水蒸気が……って理屈はいいか」
笑う店長は、そう言って私の方に体を向ける。
店長越しに見える夕日は、絵の具で塗られたように濃く淡く揺らいでいた。
「さっきはありがとう。 僕はこれまで、ずっと自分しか見てなかったみたいだ。 僕が辛かったから、あの人もそうだろうと決めつけていた。 僕があの人の幸せを信じなくて他に誰が信じるんだ。 まったく」
「そうですよ店長。 やっと分かってくれましたね? ネッシーなんて始めからいなかったんですよ」
何故上から目線なんだ、と呟いた後。 店長はふうっと息を吐いてこんなことを言う。
「彩音ちゃんは、大人だね」
「ええっ? それを言うなら店長の方が大人ですよ。 私なら一人で背負いきれませんもん、あんなことがあって……」
唐突に言われて驚いたが、これは謙遜でもなんでもない。 本音である。
私は何かに悩んだり迷ったりしたら、割と早い段階で他人に助けを求める性格だ。
だから、店長のことも結局あの二人を巻き込んでしまった。
「全然背負いきれてないよ。 僕は心のどこかで君に知って欲しかったんだ。 だからこれまで妙な態度をたくさんとってしまった。 少女漫画も店の二階にあった服も、全部あの人に関係するものだ。 それに結局君も巻き込んじゃって、ごめんね」
いつになく、真剣な顔で。
店長は一つ一つの言葉を噛みしめるように紡ぎ出す。 彼はまだ色々と悩んでいるみたいだ。
それなら私は、シンプルに返そう。
当事者じゃないなら。 全部を解決することが出来ないなら。
どこまでも浅く、薄く。 そんな答えがあってもいいと思うのです。
生きている限り溢れ出る悩みに、全部綺麗な回答で返せるならそれは超人だ。
それで私はただの一般人。
「店長は、私を頼ってください。 その代わり、見返りはきっちり貰いますけどね」
「見返りとはなんだい?」
「モーニング無料券とかどうでしょう?」
「……彩音ちゃんは相変わらずだね。 まあそれがいいんだけど」
さあ帰るよー、と付け加えた店長の顔はいつもの眠そうな顔に戻っていて。
振り返って見た水平線は、紫混じりに輝く夕日が飲み込まれるところだった。
ここまで読んで下さった方。
更新を待っていて下さった方。
本っ当にありがとうございます。
いや、ケータイが壊れたり色々ありましてようやく投稿できましたが、時間空いた上に4話一気に投下ですからね。
申し訳ありませんでした。
さて、終わる終わると言いつつ中々終わらなかった本編ですが、あと2、3話で終わる予定です。(結局まだ終わらない汗
やっとそこまで来ました。
最後までだらだらした速度ですが、お付き合い頂けると嬉しいです。
ではまた。




