#20 梅雨とテストと、彼と彼女と店長と。
お久しぶりです。
仮『どん』です。
待って下さっていた方、初めましての方。
ありがとうございます。
良ければこれからもよろしくお願いいたします。
ではまたです!
――6月。
テストも終わり、ある種の解放感に満ち溢れる私の心とは正反対に、窓ガラスの向こうに見える街はどんよりとした厚い雲に覆われていた。
志村くんと莉那ちゃんが私のバイト先である喫茶店へとやって来たあの日。
店長は『あれっきり』、自分の部屋から出てくることはなかった。
「はい、成績表返すぞー」
聞き慣れたはずの担任の声が、遥か遠くに聞こえる。
どうしてだろう。
こうして中間テストも終わり、志村くん達の問題も一件落着といったところなのに。
私は窓の向こうを見つめたまま、例の喫茶店に思いを馳せる。
店長が何を抱えていようと、何に苦しんでいようとも。
眠たくなったら、退屈になったら喫茶店の仕事をすっぽかして。
そんなふざけた日常を、そんな馬鹿げた日常を求める心は傲慢なんだろうかと思う、今日この頃の私なのです。
◇◆◇◆
「高橋莉那ー、貴様は補習だからなぁ」
「なっ?! いやぁぁぁぁー!!」
勉強不足の断末魔の叫び声が響き渡り、私は一度思考を停止させた。
答えの出ない問題をいつまでも考えたって意味はない。
こういう時こそプラス思考でいかないと。
「彩音ちゃん、私まさかの赤点でしたよ……」
そういって数学32点、英語25点の解答用紙を見せてくる断末魔莉那ちゃんさん。
この学校では35点未満の生徒を対象に、長期休みの間地獄の補習が行われる。
つまり、2教科も赤点をとってしまった彼女に夏休みの自由はほぼ残されていないということで。
「なぜだ、なぜ努力が報われなかった……」
「いやいや、莉那ちゃん全然勉強してなかったよね?」
このテスト期間中に長編マンガを読破したとか言ってた人が、どうして真っ赤な成績表を不思議そうに眺めているのか。
それはプラス思考が過ぎるでしょ。
「私だって仲間と協力して、ちゃんと勉強したんですよー? 」
最近CMでよく聞く無料携帯RPGのキャッチコピーみたいなことを言う莉那ちゃん。
「……いやいや、俺の邪魔しかしてなかったよね?」
そこに、怒りに肩を震わせる志村くんが登場。
またこのお転婆娘莉那ちゃんさんに良からぬことをされたのだろうか。
こんな幼馴染を持って志村くんも大変だ。
「何かされたの?」
「いやさ、一緒に図書館行ったのまでは良かったんだけど。 コイツずっと隣で『北の拳』読んでてさ。 1人でぶつぶつ決め台詞言ってるし、気味悪くて勉強どころじゃなかったんだよ」
「我が生涯に一片の悔いなし!」
「「黙れ」」
これでもこの2人、実は両想いというのだから人間不思議なものである。 まずは『今よりもっと仲のいい友達』という関係から始めるらしい。
私にはよく解らないが。
ともかく、店長の一言で莉那ちゃんの閉ざされた心(?)もほんの少しだけ動かされたということで。
2人とも頑張ってください。 お幸せに。
◇◆◇◆◇◆
――6月の雨はキライだ。
強弱がつかない、しとしとと延々降り注ぐ雨は、見ていて面白味が無い。
どうせならば台風8号くらいにもっとはっちゃけて欲しいものです。……いや、それはダメか。
さっきより少しだけ薄れた灰色の空の下、私はいつも通り喫茶店へと下校する。
今日は何の話をしようか。
テストの点数が結構良かったこと。
6月の雨はあまり好きじゃないってこと。
莉那ちゃんが店長のあの一言に、今更ながら感謝してたってこと。
それともあの店長のことだから、私が帰ってくるなり自分の部屋で爆睡しちゃうかもしれないんだけど。
そんな心配をしつつ、私は今日も喫茶店のドアを開ける。
〜カランカラン
変わらない軽やかな鈴の音と、少し変わってしまった店長の態度。
カウンターで1人ぼーっとしている彼は、私に気付いて『おかえり』とだけ、素っ気なく言うのだった。
「ただいまです! あの、莉那ちゃんが店長に感謝してましたよ。 あの2人、実はいまいい感じになってるんです」
極力、明るく元気に振る舞ってみる。
それでも、店長の表情は晴れない。
別に暗い訳じゃないけれど、前みたいに余裕綽々な表情には決してならない。
そして――
「彩音ちゃん。僕は、君が思ってる程に“いい人”じゃないかもしれないよ?」
目の前の店長は、私の知る限りの店長とは不釣り合いすぎる真剣な表情で、またこんな真面目腐ったことを言う。
私が好きな店長は、もっと意地悪な悪い人で、人の困った顔が大好物な困った人で、それでいてどこか温かみがある訳の分からない人だったはずだ。
だから私はこう返す。
それはいつかの店長みたいに。
どこまでも意地悪に、へそ曲がりに。 かと言って相手を傷つける訳ではなく。
退屈な日常にちょっぴり刺激を与えるスパイスの様に。
「そんなの別にどうだっていいですよ。 まず私、店長のことそんなに“いい人”だとも思ってないですし」
信頼出来る人じゃないと、こんなことは言えない。
仲が良すぎる人じゃないと、こんなことは言えない。
私に関してそんな人が出来たのは、恐らく店長が初めてだと思う。 (今ではクラスに1人いるんですけどね。 莉那ちゃんとか莉那ちゃんとか莉那ちゃんとか)
そしてその店長さんは、その細い目を少しだけ開いた後、負け惜しみの様に苦い声でこう言った。
「……もしかして、慰めのつもりかい?」
「これが私の全力です」
「どうもありがとう。 じゃあ慰めついでに、今日は店を頼んだよ」
そう言って店長は、自分の部屋へのそのそと歩く。
まったく、私に店番をさせるのはいつものことじゃないか。
外から聴こえる雨の音に、柱時計の揺れる音が混ざり合う。
梅雨とテストと、彼と彼女と店長と。
皆それぞれに物語があって、皆それぞれに、何かを思っているらしい。
ここまで読んで下さった方。
待っていて下さった方。
本当にありがとうございます。
だらだらとしたペースの仮『どん』ですが、のんびりとお付き合い頂ければ幸いです。
では今回はこの辺りで。
ではまた!




