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私と店長の他愛もない話。  作者: 仮『どん』
私と店長のニセコイ計画。
20/41

#19 決戦当日。(3)

決戦当日は、この回で終わりです。

次回からは6月に入ります。

またのんびりと日常に戻っていきたいと思いますので、良ければ暇潰しにでも読んで頂けるとありがたいです。


ではまた!

「はい、2人共おまたせー」


 私は店長が作ったモーニングを、カウンター席に並んで座る2人のもとへと届けた。


「あ、ありがとう。鷲宮さん」


「どうもですよ!彩音ちゃん」


 2人の前に食器を並べる私。


 こうしていると、私は喫茶店のバイトをしてるんだなぁ、と改めて実感する。


「ほら、はやく食べたら? 店長の作るモーニング、本当美味しいんだから」


 この喫茶店で働く者の気持ちとしては、少しでも早く、このモーニングの良さを、美味しさを知ってほしい限りである。


 そして、そんな私の催促に応じる様に、2人はホットサンドを口に運んだ。



 ――パクっ!


 その可愛らしい顔からは想像もつかない大きな一口で、ホットサンドを口いっぱいに頬張った莉那ちゃんは、もの凄い速さでそれを飲み込み、言った。


「このホットサンド、どけんしちこげにうまかと?!!」


 ……どこの方言だか知らないけど、とにかく好評価を頂いたのは確かだろう。


 志村くんもひそかにおいしいおいしい連呼してるし、ちょっぴり嬉しい気分。

 そしてやっぱり、少しばかりの優越感。


 私は毎朝、このモーニングを食べてるんだ。

 この静かな喫茶店でのひとときを、味わっているんだ。


 そんな日々何気なく享受している自分の幸せを再確認して、私はカウンターの奥へと戻ったのだった。




 ◇◆◇◆◇◆




「ねぇねぇ、彩音ちゃん。店長さんとはどこまで進んでるんですか?」


 どストレートで不謹慎で超不謹慎な質問が、キッチンの奥で食器を洗う私の背中に飛んできた。


 モーニングを食べ終えた後、店長と志村くんの2人は何故かいきなり将棋を始め、『気が散るから』という理不尽極まりない理由だけで、私と莉那ちゃんはこのキッチンへと追いやられた訳である。


 ――さて。


 恋人同士って思わせる為には、この質問にどう応えたらいいんでしょうか。


「ど、どこまでって……?」


 苦し紛れにひとまず誤魔化してみる作戦。

 まさかこんな質問が来るなんて考えてもいなかったのだ。

 ……浅はかなり、私。


「またまたぁ。純粋ぶっちゃって彩音ちゃんはー。 本当はもうあんなことやこんなこと、そんなことまでしちゃってるんじゃないんですかぁー?」


 変態だ、ここに変態がいる。

 私はまたもやこの妄想ハンターの餌食になってしまうのか。


 自分の運命を悲観してしばらく身震いをしていると、ふと莉那ちゃんの声のトーンが変わった。


「……彩音ちゃんはさ、店長さんとそんなに仲良くなって、いつか離れちゃうのが恐くないんですか?」


 ほんのついさっきまでとは全然違う、消え入りそうな、か細い声。

 表情はなんとか明るさを保っているものの、どこか無理をしているのが見て取れる。


 こんな表情をする莉那ちゃんを、私は最近確かに見ていた。


「慧のことだって、気付いてない訳じゃないんだ」


 いまにも消え入りそうな声で、いつもとは似ても似つかない震えるか細い声で。

 莉那ちゃんはさらに言葉を紡ぎ出す。


「でもさ、人はいつか別れちゃうんだし。私は慧のことが好きだから、それが、恐い。近づいて、もっと仲良くなって、離れるのが恐い。だから、このままずっと、"ご近所さん"でいたいんだ」


 そう、だったのか。

 莉那ちゃんの両親は離婚している。

 私が莉那ちゃんのこんな表情を見たのは、最近彼女から“その話”を聞いたときだ。


 そして、“そのこと”が原因で、莉那ちゃんは大切に思っている人に近づくのが恐い。

 だから、志村くんの告白に、ずっと気付かない振りをしてきたのか。


『近づいた上で、いつか離れることが恐いなら、いっそ近づかない方がいい』


 これまで大事な人を失ったことのない私には、その考えが解らない。


 当事者じゃないと解らないことなのかもしれないし、当事者じゃない者が口出しをしていい話ではないのかもしれない。


 それでも――――



「――どうして、どうしてそれを最初から言ってくれなかったんだよ」


 振り向くと、俯く莉那ちゃんの後ろに、いつの間にか志村くんが立っていた。


「な、将棋してたんじゃなかったの? いきなりガールズトークに入ってこないでよ!」


「店長さんが弱すぎるから将棋はもう終わったんだ。……あのさ、俺は莉那から離れたりしないよ? 俺が勝手に、ずっと好きだったんだし」


 志村くんは莉那ちゃんの目を真っ直ぐ捉えて、離さない。

 それでも、莉那ちゃんは僅かに顔を上げ、強張った作り笑顔で首を横に振るだけだった。


 当事者じゃない私には、ここでどう声をかけたらいいのか分からない。

 慰めるべきなのか、励ますべきなのか。

 それとも、他の言葉をかけるべきなのか。


 こんなにも莉那ちゃんが悩んでいて、考えていたなんて。思いもよらなかった私には、何が正解なのか分からない。


 こんなとき、店長ならどうするんだろう――



「――莉那さん、だっけ。君の言う通りだよ。人はいつか別れる。絶対に」


「店長?」


 私がそう思った矢先。

 志村くんの後ろで、近くの100均で売っているマグネット式の将棋盤を抱えながら。

 店長は言ったのだった。


「だからさ、いつか別れがやって来ることが、離れることが恐いからって中途半端な距離のままでいても、それは永遠にはならないよ? 本当にその大切な人と別れちゃったとき、そんな自分に残るのは、ただの後悔と消えない苦しみだけなんだ」



 ぼさぼさの髪が顔を隠し、その表情までは分からない。

 無機質な声が感情を殺し、その想いまでは分からない。


 それでも、店長の言葉には有無を言わせぬずっしりとした説得力が含まれていた。


 そう。当事者でないと重みを持たないはずの言葉の中に、しっかりとした重みがあったのだ。


「だから、大切な人が隣にいる今を大切にした方が、僕はいいと思うよ」


 そう言い残すと店長は、眠たそうにその切れ長の目をさらに細め、無造作に伸ばした髪をクシャクシャと掻きむしりながら、いつも通り自分の部屋へと戻っていった。




 まだ何かを決めるのには幼すぎる私達は、静かな喫茶店の店内に取り残され、店の隅に取り付けられたアンティークな時計の針が、ただただ時が進んでいくのを知らせていた。

ここまで読んで下さった方。

待っていて下さった方。


さあ、第20話となりました。更新も遅く、だらだらとした拙作ですが、ここまで続いているのはお気に入り登録をして下さった方を始めとする、読者様のお陰です。


本当にありがとうございます。


次回からの予定としては、テスト後の6月の話に、決戦を終えた後の彼と彼女の関係も少し交えつつ、やっぱりのんびりとした話にしていくつもりです。


長くなりました。

良ければこれからも宜しくお願い致します。


ではまた!

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