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伝説の聖骸布を布おむつにしたら、勇者の隠し子が《聖王》になった  作者: あゆと


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10/10

《聖王》様はオムライスが食べたい

アレンの叫び声が遠ざかり、大聖堂にようやく静けさが戻った。


セイルは腕の中のルウを見下ろした。泣き腫らした目、血で汚れた小さな手。それでもルウはセイルの服を握ったまま、絶対に離れようとしない。


「ルウ。手、洗おうか」

「……とうちゃんのち?」

「ああ。でも、もう傷はないからな。ほら」


セイルが裂けた服を少しずらして肩を見せると、そこには傷跡すら残っていなかった。ルウは恐る恐る指で触れ、それから何度もぺたぺたと確かめる。


「いたくない?」

「痛くないよ」

「ほんとに?」

「本当に」


ようやく納得したのか、ルウは大きく息を吐いた。それでも手についた血を見るとまた目が潤み、セイルの胸へ顔を押しつける。


「もう、きられちゃだめだよ」

「ああ。気をつける」

「ぜったいだよ」

「約束する」


その様子を、王は少し離れたところから黙って見ていた。


やがて司教が近づき、声を落として告げる。


「陛下。《聖王》の御身についてですが、今後は大聖堂でお預かりし、最高の教育と護衛を――」

「やだ」


即答だった。


司教が固まる。


「……はい?」

「ルウ、とうちゃんとおうちかえる」


ルウはさらにセイルへ抱きついた。司教が困ったように王を見ると、王は小さく息を吐く。


「セイル。そなたはどう考える?」

「俺も、ルウと一緒に帰りたいと思っています」


セイルは少し迷ってから続けた。


「この子に特別な力があることは分かりました。でも、今日だけでかなり怖い思いをしています。今すぐ住む場所まで変えて、知らない大人に囲まれるのは……」


ルウの頭を撫でる。


「この子は、まず五歳の子どもです」


王はしばらくルウを見た。伝説の《聖王》は、その視線に気づくこともなくセイルの胸へくっついている。


「……もっともだ」


「陛下?」


「聖王だからといって、五歳児であることまで消えるわけではあるまい。ましてや先ほど、子どもを戦場へ連れていこうとした男を連行させたばかりだ。我らまで同じことをしては笑い話にもならぬ」


司教は何か言いかけたが、結局「おっしゃる通りでございます」と頭を下げた。


王はセイルへ向き直る。


「これまで通り、そなたがこの子を育てよ。ただし護衛は付けさせてもらう。《聖王》と判明した以上、何もなかった頃とまったく同じというわけにはいかぬ」

「それは……助かります」


「それから、何か望みはあるか。五年間この子を育て、今日も命を懸けて守った。褒賞を求める権利は十分にある」


爵位、領地、金。


何を望んでもおかしくない話だった。


セイルは少し考えた。


「では、ルウが普通に遊んで、普通に町を歩いて、今まで通り暮らせるようにしていただけませんか」


王が目を瞬く。


「それだけか?」

「はい。本人がもう少し大きくなって、自分で《聖王》について考えられるようになるまでは、できるだけ普通の子どもでいさせてやりたいんです」


「とうちゃん」


ルウが服を引っ張った。


「ん?」

「おなかすいた」


セイルは思わず笑った。


「……だそうです」

「うむ。五歳児だな」


王まで少しだけ笑う。


「何食べたい?」

「オムライス!」

「じゃあ帰ったら作ろうか」

「やった!」


さっきまで泣いていた顔が、一瞬で明るくなる。


「ちゃんと人参も入れるぞ」

「……にんじんはいらない」

「入れる」

「ちょっとだけ?」

「ちゃんと食べられる量」

「じゃあ、ちっちゃくして」

「交渉成立だな」


国の命運を左右する《聖王》と、その養父が人参の量を交渉している。


司教は何とも言えない顔をしていた。


「それでは、今日はもう帰らせてもらっても?」

「構わぬ。こちらのことは余と司教で処理する。護衛についても明日以降、改めて話をしよう」

「ありがとうございます」


セイルが頭を下げると、ルウも真似してぺこりと頭を下げた。


「ありがとーございます!」


「うむ」


王が頷いたところで、司教が「あの」と遠慮がちに手を上げた。


「もう一つだけ、よろしいでしょうか」

「はい?」

「その……《聖骸布》のことでございます」


ルウが抱えている白い布へ、司教の視線が吸い寄せられる。


数百年間失われていた最高位聖遺物。初代《聖王》にまつわり、今日の覚醒によって真の力まで示した、歴史上でも最高峰の宝だ。


「可能であれば、大聖堂にて厳重に保管させていただけないかと……」


ルウは《聖骸布》をぎゅっと抱いた。


「だめ」

「即答!?」


「これ、ルウのぴかぴかだもん。ねるときつかうの」

「ですから、それは寝具ではなく最高位の聖遺物でして!」

「でも、やわらかいよ?」


司教が頭を抱える。


セイルは白布を触りながら、つい普段通りに答えた。


「実際、かなり寝心地はいいみたいですよ。丈夫ですし、汚れても勝手にきれいになりますし」

「最高位聖遺物を生活用品として評価しないでください!」


「でも便利なんですよね」

「便利とかそういう話ではございません!」


ルウが首を傾げた。


「ルウ、あかちゃんのとき、おむつだったよ?」

「存じております! できれば忘れたい事実ですが!」


司教の叫びが大聖堂に響いた。


王が額を押さえ、周囲の神官たちは何とも言えない顔で《聖骸布》を見つめている。三年近く布おむつとして酷使されていた伝説の聖遺物は、今日も新品同様に白く輝いていた。


ルウは少し考えたあと、いいことを思いついたように顔を上げた。


「じゃあ、つぎのあかちゃん聖王がきたら、おむつでかしてあげる?」


「絶対にやめてください!!」


「でも、やわらかいよ?」

「そういう問題ではありません!」


ルウはまた考え込む。


そして、セイルを見上げた。


「じゃあ、とうちゃんのパンツにする?」


「もっと駄目です!!」


「俺も嫌だよ!」


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― 新着の感想 ―
ルウくん可愛い! 王様が真っ当な判断できる人で良かった。これも元屑勇者が散々煮え湯を飲ませてくれたおかげ?(でなければ安易に聖王に依存してたかもですね) とりあえずルウくんの当面の敵はお豆と人参ですね…
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