1-1 ダンジョンライバーに、なりにいこう。①
1999年7月。数多の人々が待つノストラダムスの予言の日、遂に空から恐怖の大王が降りてくることはなかった。しかし一方で、大地には空間の裂け目が現れ、内部調査に向かった者はみな異形の怪物へと成り果てた。ダンジョンに満ちるエーテルと呼ばれるエネルギー。これによって動物も、植物も、更には空間そのものですら侵食されていった。世界は――ダンジョンに包まれた。
しかし、人類が死滅することはなかった。彼らはダンジョンから【魔石】と呼称されることになる鉱石を発見。この【魔石】を所持することによりダンジョンからの侵食が抑えられることが発覚したのである。更に、【魔石】は周囲のエーテルを吸収し貯蓄する、いわば電池のような性質を持つことが判明。【魔石】に蓄えられたエーテル、【魔力】と呼ばれることになるエネルギーが、この時人類の手に渡った。この性質が判明したことで、学者達は【魔力】を行使するための装置、【タンマツ】と呼ばれるデバイスの開発に成功。これによって人類は【魔力】を行使し、ダンジョンへ抗う術を遂に手に入れたのである。
【タンマツ】を携えた探索者達により、ダンジョンのより詳細な性質の調査が行われた。ダンジョン内のエーテルは生物非生物問わずあらゆる物体の『存在のちから』とでも呼ぶべき概念を侵食する。だが一方で、この『存在の力』は他者から認知されることで補強ができることも判明した。つまり、より多くの人々に知られているものは、ダンジョンからの侵食を受けない、ということである。
その性質が判明し、探索者達は己の存在の力を補強すべく、自分の認知度を上げる手段を模索することとなった。そうして彼らがたどり着いた結論が、ダンジョン探索の配信である。彼らはダンジョン攻略の様子を配信することで、ダンジョンの情報共有や状況の周知を行いながら、同時に人々の認知を集めてダンジョンからの侵食をおさえるようになった。配信はいわば、ダンジョン探索者の生命線そのものである。
1999年から25年ほど時は流れ現代になると、人類はダンジョンが存在する世界に順応しきっていた。ダンジョン配信はもはや普遍的な娯楽となり、探索者達がダンジョンから持ち帰る【魔石】をはじめとした多種多様な資源は技術や社会インフラの発展を促した。もはや一大ダンジョン時代と言っても過言ではない。
この物語は、そんなダンジョンに満ち満ちた世界の中、我こそはとダンジョンへ挑む探索者達の物語である。
202X年7月。とある大学にある学生食堂の片隅。一人の学生がテーブルに突っ伏しながらちびちびと無料の茶を飲んでいた。同じテーブルには彼と食事をしている学生が3人。彼らの鞄からはみ出している教科書を見るに、机に突っ伏している学生は1回生、他の3人は2回生であるとわかる。突っ伏している学生はコップに茶が残っていないことに気がつくと、既に空になっている自分の食器の上にそれを起き、今度は椅子に背を預けて大きな伸びをした。彼――藤倉凛太郎は疲労感に満ちた、しかしどこか清々しさも感じるような声を上げた。
「あー疲れた!ようやくテスト期間が終わった……これで待ちに待った夏休みだ!」
藤倉の隣に座っている学生――門楠誠治が藤倉を呆れたように眺めながら、見るからに作りが安い学生食堂のラーメンをすすっている。
「浮かれるのはいいけどな藤倉、ちゃんと単位は取れてるんだろうな?」
「みんなの言う通りの勉強はしてきたし、それなりにはちゃんとテストの問題には答えられてるよ、誠治。でもそれがあってるかどうかはーーーわかんない。だ、大丈夫だよ多分……」
二人の会話を聞きながらハンバーグを食べていた学生――青本翔吾が二人の話に口を挟む。
「藤丸は地頭がいいからな。いきなりあれこれと新しい概念を詰め込まれるダンジョン学ならともかく、これまでの勉強の延長線上にある一般教養課程はオレ達よりも遥かに強い。例えば第2外国語辺りは楽勝だったんじゃないか? それに学部の勉強はオレ達3人全員で面倒を見たんだ、心配ないだろう」
他の3人のことをよそに、一人黙々と爪楊枝を積み上げて塔を作っていた学生――桐谷大智は、その手を止めて3人へと向き直った。
「まあ、過ぎたことの話ばかりしても仕方がないさ。それよりも夏休みの話をしようじゃないか。藤倉クンはもう夏休みに何か予定を入れてたりするのかな?」
「無いんだなぁこれが。せっかくまるまる2ヶ月くらいの休みがあるし、なにかしたいとは思ってるんだけど、具体的に何にも思いつかなくってさぁ」
藤倉のその言葉を聞いて、桐谷は待ってましたとばかりに、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「ああ、それはちょうどよかった。私から一つ、提案があるんだ。この夏は私達4人で、ダンジョンライバーをやってみないか?ダンジョン講習とかの費用くらいは私が出すからさ」
「えっ、いいの? というか学部でやるダンジョン実技って3年からじゃなかったっけ?」
「確かにそうさ。でもそれはそれ、これはこれ。別にバイトとしてライバー活動してる人なんて学部の内外にいっぱいいる。何なら、16歳の高校生からライバー活動を続けている人だって少なくないくらいだ。それに私としてはこの4人でチームを組んでダンジョンに入りたいからね。君達ほど信じられる相手なんて他にはいない、だからこそ誘うんだよ。まあ、せっかくだし講習のついでにどこか近くで美味しいお茶でもシバきに行こうじゃないか!」
「んもーそういうこと恥ずかしげもなく言うんだから……お茶はキリちゃまおごりだよね?」
「もちろんさ、藤倉クン! いやー、本格的な英国式アフタヌーンティーだから一人だと流石にちょっと行き辛かったんだよね」
それを聞いた門楠が呆れたように首を振った。
「やれやれ、おおかたそんなオチだろうと思ってたよ」




