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エピローグ

本日は2話同時投稿しております。こちらは2話目になります。

最新話からいらした方はこの前にもう1話ございますのでご注意ください。

 店長は実は人との距離を測るのがそれほど得意ではないのだろう。

 私の気持ちを聞いてしまっていたとはいえ、ぐいぐい来すぎである。お互いの気持ちが通じ合って以来、ちょっと過干渉気味なのではないだろうかと思うくらいだ。


 さすがに仕事中は今まで通りの距離を保てているが、私が在庫補充に倉庫へ行っている時に追いかけてきてハグしようとしたり、帰り道送ってくれるのはいいけれど、駐車場まで手をつなぎたがったり(まだ店のメンバー見てますよ!)と無駄にべたべたしたがる。帰りはともかく、仕事中に私を構おうとすると皆川さんがどこからともなく現れて引きはがしてくれるので、とりあえず体裁は保たれている(ホントか?)。皆川さんが「最近ちょっと余計な仕事が増えましてねえ」って店長に黒いオーラをガンガン浴びせていたので、それ以来はさすがに控えるようになった。


「いや、あのお兄さんがねえ。変われば変わるものだわ」


 夏世さんが私の話を聞いてほへーって顔で驚いている。今日は夏世さんと約束していたんだけど、連れてこられたのがなぜか夏世さんの婚約者さんのおうちで。私は頭の上に?をたくさん飛ばしている状態だ。

 紹介された婚約者さんはやっぱりこの間の外人さん。ただしやっぱり只者じゃなかった。古川蘇芳さんというこの婚約者さんは、何と今をときめく巨大企業グループ「昴グループ」の会長さんだという。ローズヤード化粧品も大企業だけど、昴グループはローズヤード化粧品みたいな企業をたくさん束ねている。超超大企業グループなのだ。まあそれはともかく、傍で見ていてもそのラブラブっぷりがよくわかる二人は、何と来週が挙式なのだそう。本当におめでたいけど、こんな忙しい時期に私なんか招いていていいわけですか?


「いいのよ、もうほとんど支度は終わっててね。後は当日を待つだけ。まあフェイシャルエステくらいは行くけど」

「あはは、そしたら店長にブライダルメイクもしてもらいますか?」

「ふふ、実はお願いしてるの」


 どうやら店長と夏世さんの仲も順調に近づいて行っているらしい。私は嬉しくてにっこり笑った。

 夏世さんは、あの後どうなったのかが気になっていたらしい。結婚式を目前にして、後顧の憂いを取り払っておきたかった、なんて戦場に出ていく武士のようなお言葉。


「本当はどこかで待ち合わせしてランチでも、って思ってたんだけど、ちょっと今蘇芳が過保護で」

「そりゃあ可愛い嫁さんのことは心配でしょう」

「ああ、うん、そうじゃなくてね、実は」

「え! おめでた!」


 どうやら夏世さんはおめでたらしい。今はまだおなかは目立っていないが、少し前まで軽いつわりが出ていて、体調がイマイチだったんだって。そんな中でご心配をおかけして申し訳ありません。


「だから呼びたてちゃって申し訳ないんだけど、どうしても直接会ってお礼が言いたかったの。ありがとう、瑠璃ちゃん。いつも難しい顔しかしていなかったお兄さんを変えてくれて。そしてこれからもお兄さんをよろしくね」

「とっ、とんでもない! こんな子どもですけど、精いっぱいがんばります!」

「やだ、まるでお兄さんをお嫁に出すみたい」


 夏世さんの一言に、二人で顔を見合わせて大笑いしてしまった。そこへ店長と蘇芳さんが入っていた。


「何をそんなに大声で笑ってるんだ」

「あら、何でもないわよ。女には女の秘密の話ってものがあるのよ、お兄さん」

「うがったことを言ってるんじゃない」


 そこから兄妹二人の言い合いが始まってしまった。

 こうして言い合いが出来るようになっただけ、お互い気を許し始めてるって夏世さんが言っていた。

 結構仲いいよな、と思ってその様子を眺めていると、蘇芳さんがすすすっと近寄って話しかけてきた。


「久保川さん、あのね、史孝さんから聞かれたことでちょっと伝えておこうかなと思って」

「はい? 何でしょう」


 すると蘇芳さんはちょっと言いにくそうに口を開いた。


「史孝さん、どうも久保川さんにプレゼントをしたいみたいで。いい店がないかって聞かれたんだけど、そのプレゼントしたいものっていうのが」

「――まさか」


 いつかのデパートで一生懸命選んでいた店長の姿が蘇る。あれか? 青と赤のどっちがいいか聞かれたあれか?

 無情にも蘇芳さんが首を縦にふった。


「大学生の女の子でパーティーに着ていくようなロングドレスは特に目的がないならちょっと難しいんじゃないか、ってやんわり止めておいたんだけど、どうも突っ走りそうな雰囲気だったから、一応久保川さんに伝えとこうと思って」

「ありがとうございます――店長? ちょっとお話が」





 メイクを通して出会えた店長と私。いろいろあったけど、最終的にこんな幸せな気持ちと出会えた。幸せの、魔法のメイクだ。

 メイク・イン・ハッピー、「幸せにするよ」っていう意味。

 店長にはメイクで幸せな気持ちにしてもらえたから、私も店長を幸せにするんだ。

 ちょっと不器用な、この人を、精いっぱい。





「わかったわかった、じゃあドレスは今は諦める」

「今は、じゃなくてずっと、ですよ!」

「でもいずれ結婚したら必要になると思うがな」

「けっ……! て、て、店長、気が早いです! そりゃ嫌じゃないけど」

「それが聞ければ十分だ。けどな、瑠璃」


 ――いつになったら名前で呼んでくれるんだ?


 耳元で囁かれて、腰から崩れ落ちた私は多分、きっと悪くない。



<Fin>


全17話、おつきあいいただきありがとうございました!

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