11−6 サーヴァント川渡河
恐れを知らぬ者だけ続け、その言葉に奮い立つ者が続出した。騎士団など脳筋の集まりだから仕方がない。夜目が効く者も多かった。そういう訳で、夜の内に選抜された脳筋集団が明朝未明にサーバント川南岸に集まった。
夜目が効く人間などものともしない暗視能力を持つヘカトンケイルのブリアレオスの騎獣の先導でボートは進んだ。騎獣はなるほど水陸両用だ。オオトカゲの腹にもう一組の足を付けた様な六本足で泳いている。
「100本の腕の代わりに49の従魔がいると言っていたが、あの場合何本が腕扱いだ?」
馬鹿な事をヨハンが言い出した。知らんがな。
「前二本が腕扱いなんじゃない?」
「すると、鳥型ゴーレムも余計な腕が二本付いているんだな?」
知らんがな。
「嘴の両側に小さい腕が付いているとか?」
「虫かよ」
ヨハンは緊張感が無いが、警備の都合上ついて来ているヒルデガルドはぶるぶる震えていた。毒ナイフを平気で投げるが、自分が危険地帯に入るのは恐いらしい。人を殺していいのは殺される覚悟がある奴だけじゃないのか。
ブリアレオスの騎獣はそのまま陸上を少し歩いて、後続の下船を待っていた。私と同じボートに乗るものは、私が作った氷の上を歩いて下船した。後続は足元を濡らしながら川の浅い部分を歩いて川岸に着いた。その後、ボートは向こう岸に戻って行った。
川原で騎獣から降りたブリアレオスは私の方を向いていた。暗いけどこんな水蒸気の多いところなら水蒸気の流れで形状が分かる。
「騎獣も土手の向こうに連れて行って」
私は真北を指差して言った。六本足のゴーレムは意外と足音が小さい。抜き足差し足が出来るらしいんだ。器用な奴。
土手の向こう側は南北50ft程の野原が広がっていた。空はそろそろ白み始め、野原の向こう側に木々が散らばり、その向こう側に建物が幾つか見えた。その建物の方から松明を持った男達が小走りでぞろぞろと現れた。
一人だけ20ft程こちらに近づいて来る。その男が大声で叫んだ。
「腐敗した王家の走狗共よ!どうやらそちらに偽聖女テティス・カーライルと隣国の出来損ない王子のヨハンが到着した様だが、この無謀な侵略に加わっているのか!?」
ここは公人たる聖女の出番だろう。私は二歩程前に出た。
「ラッセルとその部下は記憶力に問題がある様ね。何時も嘘ばかり付いているから物を覚える能力が無くなったのかしら?テティス・カーライルはファインズ家の養女になって、その養女を魔獣で暗殺しようとしたからラッセルとファインズ候が喧嘩している事はもう忘れたの?聖女テティス・ファインズも、ヨハン殿下もこちらに渡河済みよ。もしラッセルが聖女の調停を欲しがっているなら、いつでも断罪してあげるから申し出なさい」
ハハハッと男は乾いた笑いを発した。
「偽聖女と話す事など無い。ここで偽聖女が死んだ事を確かめたかっただけだ。我々が魔獣というお前等には無い力を持っている事は知っている筈なのに、愚かにも川を渡って来た事をあの世で後悔するが良い」
その言葉の後に数本の矢を射る音がした。矢はこちらの15ft先に落ち、結び付けられていた包みが地面に叩きつけられて粘着質の何かをばらまいた。多分、魔獣討伐演習の時に私の背嚢に擦り付けられた物だろう。本当に魔獣を引き寄せる効果があるんだ…
そう、そこらに散らばる建物の中には魔獣が入れられており、この時扉が開かれたのだ。50ft以上向こうに見える魔獣は角が生えた大柄の人型魔獣と、馬の胴体の上に腕が生えた上半身を持つ魔獣だった。
建物の向こう側では、オオトカゲが重そうな足音を立てていた。人の目ではまだ見えないと思うけど。ブリアレオスが呟いた。
「ミノタウロス10、ケンタウロス14、オオトカゲ6だ。テティス?」
「分かってるでしょ?もう準備は済んでいるから」
そう、どうして土手を越えて対峙したか。私の準備を相手に見せない為だ。
土手を越えて私達の両側を水流が魔獣に向けて流れて行った。双方の人間達が騒ぎ出す。大丈夫だよ。魔獣だけ選んで鉄砲水で葬ってあげるから。ラッセル派のクリフォード男爵の家臣と思われる男達の目の前で水は迂回し、魔獣達を飲み込んで渦を巻いた。なにせ水量がある。ミノタウロスもケンタウロスも水に飲まれてあっぷあっぷしている。
「がうっ」
「ごはっ」
この子達、牛や馬として喋るのかなぁ、と我ながら呑気な事を考えながら、水柱として上空に巻き上げて行く。
「ちょっと、ヨハン殿下!いくら何でも規模が大きすぎるわ!」
ヒルデガルドの悲鳴にヨハンが呑気に答える。
「ああ、あいつの場合は扱える水魔法の規模はそこにある水分に制限される。だからこんな大きな川の近くであいつを怒らせるなんて自殺行為だ。お前もシュバルツバッサの大河を渡る前後でテティスと喧嘩するなよ?巻き添えで溺死なんて間抜けな死に方をしたくない」
「いや、いくらなんでもシュバルツバッサは動かせないでしょ?」
「だから、そういうあいつに喧嘩を売る発言を止めろ。ここにはどんどん水が流れ込むんだぞ?」
うん、ヨハン君、あなた本当に呑気ね?いつかあなたが夜に便所に行く時、うしろから気付かれないくらい小さいウォーターボールをぶつけてあげるから待っててね。
ミノタウロスは随分頑丈だった。ケンタウロスも皮が厚そうだ。念には念で100ftまで巻き上げたところで水を蒸発させた。24の大柄の生き物が地面に叩きつけられ、どすんどすんと重たい音を立てた。一体あたり3本ほど丸太ランス…じゃなくてセクシーランスを叩きつけてあげた。
「ぶもぉ~」
「ぎゃあ~」
…ケンタウロスは割と人間臭い悲鳴を上げている様だ。ごめん。天国に行ける様にちょっとだけ祈ってあげる。
そうして24の魔獣が息の根を止めた。オオトカゲはまだ建物からこっちに向かってくる途中だった。足が遅いからねぇ…この重そうなのを水で持ち上げるのは面倒だなぁ…そのまま凍らせるか。そうしてオオトカゲの氷漬けが6個出来上がった。
「どうする?あなた達も溺れて地面に叩きつけられたい?それとも氷漬けが良い?」
私の言葉に、立ちすくんでいた男達は我に返った。端の男達がくるっと背を向けて逃げていく。
「ま、待て!」
先頭に立っていた男が声をかけるが、一人が逃げ出すともう止まらない。それが群集心理と言う奴だ。結局先頭で口上を述べていた男も走り去った。
私は騎士達に指示を出した。
「ここでヨハン殿下達を守って待機してください。後、水を元に戻しますから、連絡係は川原に戻って向こう岸に声をかけてください」
私は土手を乗り越えて水を川本来の流れに戻そうとしたが、水の中から大きな魚型の魔獣が顔を出した。水面を撥ねて怒りを現している。
「ごめん、ごめん。すぐ戻すから待っててね」
魚型魔獣はまだ水面から顔を出して口をぱくぱくして怒りを表している。仕方なく聖魔法を水に流して鎮静化する。魔獣はきらきらする水面から背びれを出してまだ怒りを示している。怒りっぽいなぁ…
土手を上がって来たヨハンが声をかけてくる。
「お前、魚型魔獣までお友達扱いなのか…」
「だって、向こうから襲ってこないじゃない。平和的に付き合いたいわ」
「シュバルツバッサではな、時々小舟がひっくり返されるんだよ。あいつらの仲間の仕業だろ」
「あの子にとっては大事な縄張り争いなんだから許してあげて」
あの子扱いかよ、とまだヨハンはぶつぶつ言っている。しつこい男は嫌われるぞ。
本日、もう一回更新します。23時過ぎそうだなぁ…




