モブNo.216∶「有機質の摂取……食事は複数の方が楽しいからな」
☆ ☆ ☆
【サイド∶スクーナ・ノスワイル】
私は今、プラネットレースチーム『クリスタルヴィード』所有のコンテナ船『シード1』の船内にあるミーティングルームにいる。
パイロット・メカニック・各種サポートメンバーといったクルーの全員があつまり、このプラネットレースチーム『クリスタルウィード』のオーナーであり、レーシングチームのリーダーであり、反帝国主義者民主化派のチーフの1人であるグニル・カーラッドの登場を待っていた。
彼がミーティングルームに入ってくると、ざわついていた室内が静かになる。
そしてカーラッドがマイクをとると、
「待たせたな。さてミーティングを始める前に。皆も知っている通り、先日、アルティシュルト・ビンギル・オーヴォールス公爵が亡くなられた。彼の人は、先代が発布し、今代の皇帝も継続している 『帝域改善法』を支持し、民衆や植民地民の味方であった人物だった。だが、そんな人物が亡くなった今!私達は新しく動き出すことになる。といっても、暫くは今まで通り、帝国の物流を阻害する通商破壊任務だ。異論はないな?」
と、宣言した。
全員これに異論は無いようで、軽く拍手をして賛成する。
「では解散。通常のレース業務に戻ってくれ」
そういうとマイクを置き、カーラッドはミーティングルームを出ていく。
そして全員がミーティングルームを出るべく動き始めた時、
「おい待てよ。スクーナ・ノスワイル」
と、私に声をかけてきた人物がいた。
「なにかしら?」
声をかけてきたのは、新人の1人であるバンダウス・リジェーロだった。
彼は怒りと嫉妬にまみれた表情で、
「あの古代兵器を俺に寄越せ! アレは俺にこそ相応しい機体だ!」
と、怒鳴りつけてきた。
あの古代兵器とは、帝国貴族の大規模な反乱軍との戦争が起きる前に知り合った、ゲルヒルデという存在のことだ。
彼女と出会ったのは、帝国貴族の大規模な反乱軍との戦争が起きる前だった。
任務の帰り、たまたま遭遇した彼女を敵だと勘違いし、仲間を全員逃がしてから一騎打ちを申し込み、あっさりと負けてしまった。
そして何故か私は彼女に気に入られ、行動を共にすることになったのだ。
「そんなこと言ってもねえ。そういう事は直接本人に言ったらどう?」
「お前からも俺に乗り換えろと進言しろって言ってるんだ!」
ゲルヒルデは、戦闘艇が本体だけど、人間の身体――アバターというらしい――があり、意思の疎通が可能だ。
なので、彼女に要望があるなら、自分で伝えればいい。
「あのさあ。アンタはヒルデ姉さんには選ばれなかったんだから、いい加減あきらめなよ」
アエロが呆れた表情を浮かべながら、リジェーロに進言するが、
「俺はいずれ最強になる男だ! 意志のある古代兵器は俺にこそ相応しいんだ!」
と、謎理論を返してくる。
そこに、話の中心人物? が現れた。
私よりちょっぴり高い身長に、黒目の三白眼で鋭い眼光を放ち、黒い髪を背中まで伸ばしている女性で、服装はうちのチームのメカニック用の作業着を着ている。
「スクーナ。会議とやらは終わったのか」
「ええ」
ゲルヒルデは私をパートナーとして気に入ってくれたらしく、乗らない時にもこうしてよく話しかけてくる。
「やっほーヒルデ姉さん!」
「姉さんと呼ぶな」
「じゃあヒルデちゃん」
「それもやめろ」
アエロは気安い感じで彼女に声をかけ、ゲルヒルデも気を悪くする様子もなく反応している。
キツイ印象のする彼女だけど、私だけでなく、アエロやほかのメンバーとも仲良くやってくれているが、どうしても相いれないメンバーもいる。
「おい古代兵器! そんな女じゃなくて俺を乗せろ! 俺の方がお前に乗るのに相応しいんだ!」
その唯一の人物が、このバンダウス・リジェーロだった。
ゲルヒルデが古代兵器とわかると、『俺が乗るべきだ!』『俺こそがふさわしい!』『お前は俺のものだ!』と言って詰め寄り、ゲルヒルデから拒絶されて顔面に拳をくらったのだ。
「あの第7艦隊とやらへの出向はまたあるのか?」
そんなリジェーロを無視して、ゲルヒルデは今後の予定を尋ねてくる。
「今のところはないわね。ちなみに今は第7艦隊じゃなくて『鬼神艦隊』って名乗ってるらしいわ。軍や政府からは『反逆艦隊』って呼ばれてるらしいけど」
彼女が私のパートナーになったのと同時期に、第7艦隊が私達の協力者と判明した。
それに伴い、第7艦隊の要請で戦闘に参加する事になった。
それにより、彼女(本体)は第7艦隊の所属と思われたため、任務にもレースにも出せなくなった。
そのため、彼女のこの船のなかでの立場は、食客(主人が才能のある人物を客として遇して養う代わりに、主人を助けるために働く人物)が近く、普段は自由にしてもらっている。
しかし、第7艦隊が軍から離反した今なら、任務には参加できるようになった。
その場合私はリモートではなく生身で出撃する事になり、今まで3回出撃した。
3回とも私は乗っているだけだったけど。
「『鬼神艦隊』ってなんか特定の界隈の人達に人気になりそうだなあ」
ちなみに、離脱した第7艦隊の自己呼称については私もアエロと同意見だ。
トーンチード准将のあだ名にちなんだものではあるのだろうけども。
「おい! 聞いてるのか古代兵器! お前に相応しいのは俺だ! 俺こそがお前の御主人様なんだ!」
リジェーロはゲルヒルデに向かって声を荒げる。
それに対してゲルヒルデは、鋭い目をさらに鋭くさせ、
「五月蝿い」
とだけ言い放った。
「くそっ……」
その視線とセリフに怯えた様子で、リジェーロは後ずさりし、
「いずれ俺にひざまずかせてやる!」
そんな捨てゼリフを吐きながら逃げていった。
「懲りないねえ……」
「全く鬱陶しい」
アエロはため息をつき、ゲルヒルデは興味なさそうに言葉を吐き捨てる。
「俺もあんな感じだったんだよな……」
リジェーロの態度と行動を見て落ち込んでいるのは、彼と同期であるジミー・エディードだ。
彼も入ったばかりの時はリジェーロと変わらないぐらいイキり倒していたのだけれど、『土埃』に敗北し、レースでも成績がふるわなくなったとき、気分転換とばかりに整備の手伝いをしているうちに、自分を見直して反省し、イキらなくなり、人間が丸くなっていった。
そして現在、彼はメカニックとして活動している。
「負けたあとに反省しただけジミーくんは偉いんだよ」
同期のへレニー・ブロニアナが、ジミーの肩に手をおいてフォローする。
彼女もジミー達と同期で、任務もレースもそつなくこなす才媛だ。
そうして全員が、自分の部屋に帰るべく散らばり始めると、
「ところで、お前達は有機質……食事はとったのか?」
ゲルヒルデがそう声をかけてきた。
「いや。まだだけど」
「ではちょうどいい。一緒に摂取するか」
「あーーうん。そうね」
「私達ご飯まだだったからね」
彼女からの誘いを了承しながら、私とアエロは思わず顔を見合わせた。
実は、彼女の食事には大きな問題がある。
食パンはトーストせずにそのまま。
生で食べられる野菜はドレッシング無しのそのまま。
茹でただけの鶏肉をそのまま。バターをパンに付けずそのまま。
ヨーグルトは何も混ぜないまま、シェイクして牛乳と一緒に飲む。
という栄養バランスは良くても、ものすごく味気ない食事の仕方をするのだ。
味気ないメニューを出せる船の食堂も良くないが、こんな食べ方は良くないと注意はしているが、なかなか改善はされない。
「有機質の摂取……食事は複数の方が楽しいからな」
そう言って笑う彼女に、私達はなにも言えなかった。
せめて何かのメニューをお勧めしてみよう。
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モブの出番無し
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