⑥
そこからの記憶は覚えていない。気が付いてたら、私は琉人の手を握って家の外にいた。近所の人に毛布を掛けられて何かいろいろと話しかけられていた。
琉人は話しかけらえた人に何か答えていた。私はと言うと何か何だか分かんなかった。だけど深夜と言うのに妙に明るくて、何だか背中が熱くて後ろに振り向いてみた。
家があった場所が、真っ赤な炎に包まれていた。微かに肉の焼ける嫌な臭いがしたのは私の気のせいだろうか。
後で琉人に訪ねたり、当時の新聞などで分かった事だけど、琉人が寝ていたら物音が下から聞こえて降りてみると、リビングで両親と私が血塗れで倒れていた。琉人は先に両親の方に急いで駆け寄って声を掛けてみた。身体を揺すったり、大声で身体を叩いたりしたが両親は起きなかった。(後日両親は即死だったらしい)琉人は反応のない二人の事を諦めて私の方を起こしてみた。幸い、私は気絶しただけで(パジャマは両親の血が服に付いていただけで怪我一つなかった)少し揺すっただけで意識を取り戻した。
意識があった私にほっとした琉人だったが、廊下から物音がした。
音がした方に振り向いたら、マスクに目だし帽を被った中年の男がいた。手には普段物置に置いていた灯油タンクを持っていた。
突然現れた男に怖気づいていた琉人の顔に何か水しぶきが顔に掛かった。男が灯油を顔に掛けたのだ。
そしてポケットからマッチを取り出して―――――
まだ意識が朦朧としていた私の手を引っ張って琉人はベランダから脱出した。
これが当時の状況。結果、私と琉人は火に囲まれる前に逃げた為無事だった。
琉人に後で聞いたけど歌子も私が気絶した時から私がしっかり抱きしめていたようだ。
両親を殺した強盗は後日逮捕された。
犯人は同じような犯行で家主とその家族を殺害した後物色し、そして証拠隠滅の為放火をすること五件。筋金入りの犯罪者だった。
琉人の証言が切っ掛けに最初っから警察にマークしていた男を逮捕した。犯人は他の犯行を認めたが、両親の事件だけは否認し続けた。だけど、警察は両親の事件は琉人が偶々殺されずに済んで慌てた犯人が物色しないまま、琉人ごと家族全員を火にかけようとしたがそれも失敗に終わったと判断した。しかも両親の事件が無実だったとしても他に四件の犯行を認めているし、死刑は確定で間違いなかった。
その何年後か定かではないが、男は獄中で亡くなったとニュースに取り上げられていた。 私と琉人はと言うと遠縁の親戚に引き取られ、その親戚はほとんど干将せず高校からは二人でマンション暮らして以降会っていない。此方側にしては仕送りを送ってくれるだけで十分だから対してこの生活に不満はない。
「あの……猫子さん」
「ん?」
「その……火事にで死んだのは……私の、両親です」
「……」
自分で言って何なのだが、私は驚いていた。
両親についてはけして誰にも言わなかった。親しい友人にも近所にも先生にも。(先生の方はもしかしたら事前に知ってるかも知れないけど)この事は当時住んでいた近所の人と私と琉人しか知らない。それを話しかけたのは今回ので初めての猫子さんに、何故私は話したのだろうか?
…………いや分かっている。
彼女になら話しても良いと思っている自分がいる。彼女の話し方、雰囲気がそうしているから。これに黄昏時の二人っきりの教室とゆう何とも言えないこの空間も相まって私はこの大切な秘密を話したのだ。
当の猫子さんは私の衝撃的な話を平然としたまま
「ふ~ん」
この一言で済ませたのだ。(猫子さんのこの時折見せる他人に無関心な所も私が話せる要因だろう)
「……そんなに驚かないですね」
「何となくそうなんじゃないかな~とは思っただけ」
「……凄いですね」
「まあ半分はヤマ勘だけど。大丈夫。このことは誰にも言わないよ。私と青江さんの二人だけの秘密だから」
猫子さんは小指を出した。私はその小指の意味を理解した。
私も小指を出して猫子さんの指に絡めた。
「指切りげんまん~」
「嘘ついたら針千本の~ます」
「「指切った」」
何だか懐かしい。子供時代に戻ったようだ。思わず私は笑ってしまった。
そう言えば指切りは一体いつからしなくなったのだろう。
……確か、八年前の
『―――分かったな?』
『でも、でも』
『お前も分からずやだな。良いか』
『俺が父さん達を殺したんだ。これは誰にも言ってはダメだ』
『……うん』
『良し。じゃあ指切りだ』
差し出された小指に私は恐る恐る自分の小指を絡めた。
『指切りげんまん』
『嘘ついたら針千本の~ます』
『『指切った』
……そんな約束をナイフが身体に刺さっているお母さん越しに結んだ。




