終
――――後日、青江兄妹の姿を見た者はいない。
この街で起きた連続殺人事件の主犯、青江結子(十六歳)と共犯者の双子の兄、青江琉人(十六歳)は結局警察には捕まらなかった。
調査は困難を極めたが、警察は微少ながら証拠を集め続けた。そして捜査上に浮かび上がったのは先程の双子だった。
警察はこの双子の身辺を徹底的に調査した。そしたら彼らの身辺に三人ものクラスメイトが惨殺された事件で青江結子はその事件の容疑者とされていたのだ。青江結子は殺された三人に陰湿な虐めを受けていた。そしてオレが担当している事件の被害者は彼女の担任で虐めを黙認していた人物だと判明したのだ。
ならば動機があるのに何故逮捕されなかったのか?
主犯達の事件も捜査上に青江結子が容疑者として確かに挙げられた。しかし直ぐに取り下げられた。
青江結子にアリバイがあったのだ。不自然に思える位の完璧なアリバイが。
あらゆる手段でアリバイ崩しを目論んだが、結局はアリバイが崩せなかった。
結局事件は犯人不明のまま未解決事件となった。
しかし、それは当時の調査では犯人が単独犯と考えていたからだ。
彼女の二卵性双生児の兄、青江琉人は顔や性格が全く似てなかったが、背格好と金色の瞳は似ていた。
改めて当時のアリバイを洗い出すと、『青江結子』とされていた人物はコートに、マスクと眼鏡を掛けて人相が分からない様にしていた。が、何故証人はコートの人物を『青江結子』と答えたのか。
答えは簡単。彼女のアリバイを証言した人物は皆、眼鏡の中の『金色の瞳』でコートの人物が青江結子と証言した事と、彼女の双子の兄の顔を見た事もない人達だったのだ。
警察は兄の方を探ってみた。すると兄の方のアリバイはなく、そして兄を知っている人物達に二件目のアリバイである『コンビニで買い物をしていた時の防犯カメラの写真』を見せると写真の人物は妹でなく、兄の方だと証言したのだ。背格好は何とか誤魔化せたが体格や顔つきは誤魔化せなかった。
そして件の教師殺しも兄がどぶ川に何かを捨てる姿をみたと証言が出た。どぶ川を探すと凶器とされてある鉄パイプが発見された。そしてばっちりと青江結子と青江琉人の指紋が付いていた。
警察はすぐに逮捕状を請求して容疑者を確保しようとした。
しかし二人を取り押さえる事が出来なかった。
二人は正門や裏門から出て来なかった。裏道を使って逃げられたのだ。
やむなく公開捜査に踏み切ったが二度と捕まる事がなかった。
街から遠く離れた崖に二人の靴が発見された。傍には遺書があった。
遺書には両親の事件、虐めっこ達の事件、教師の事件、そして隣町で自殺した大学生の殺害した事を告白する内容だった。そして罪の大きさに耐ええきれなくなり自殺する選択を取ったずるい自分達を許して欲しいとの事だ。
警察は海を必死に捜したが二人の遺体は見つからなかった。
結局警察は被疑者死亡のまま事件は幕を閉じた。
マスコミも未成年者の犯罪、それも親殺しをやっている訳でそのニュースだけで何週間も続いたが今は見る影もない。
たが、本当に二人は死んだのだろうか?
元々は靴と遺書しか用意しただけではないか? 青江琉人はそこら辺の隠蔽は得意なはずだ。それに彼女達の遠縁で保護者だった夫婦の預金から多額のお金が引き出されていた。
そして空港に継ぎ接ぎだらけの熊のぬいぐるみを持っているカップルが渡米している履歴がある。そしてその二人のその後が不明だ。
私はこの事件の裏には私の実妹、伊神真魚が絡んでいると睨んでいる。いや絶対あいつが関わってる。
妹の真魚は良く言えば猫の様な性格、悪く言えば何を考えてるのか分からない奴だ。
悪い奴ではない。本当に悪い奴ではないのだ。それは兄である私が保証する。
ただ、自分や自分の身内以外の他人に興味がない。流石に助けを求められてら助けるが、なければそのままにするような事をする。
小さい頃はその性格のせいで孤立していたが、真魚はそんな事気にしてなかった。
真魚は猫と会話が出来たのだから。
別にこの家では珍しくないのだ。伊神家に生まれる人間は何らかの特定の動物と会話が出来るのだ。、私も名前の通り犬と多少ながら会話が出来る。ただ単語でしか言葉が理解できないのだが。
妹は一人でいる時間を猫達と会話していた。ただ身内ならまだ良いが他人から見て不気味に見える。猫と会話できると言ったら頭が可笑しいと言う人だって言う。
結果、真魚は虐められるようになってしまった。父母は真魚の虐めに心を痛めたが、本人はどこ吹く風。全く気にしなかった。
私も真魚の虐めには何とかしたかった。だから一日晴れだった日に全身びしょ濡れで帰った時は学校に抗議をしに行こうとした。しかしそれを真魚は止めた。
『どうして止める!? ここまでされて我慢するって言うのか!』
私はそんな事を怒鳴った記憶がある。しかし真魚は平然として一言言ったのだ。
『だって私、そこまで興味ないから』
私は驚いた。『お前は人間全体が嫌いなのか?』咄嗟に返した。
『ううん。お父さんやお母さん、お祖父さんやお祖母ちゃん勿論お兄ちゃんも大好き。近所のおばちゃんたちも好きよ。でも、学校の先生や友達になると……どうでも良くなる。何されてもあたしが嫌な事されなきゃ別に良い』
真魚は人間に興味がないのは生まれつきだろう。その証拠に真魚は猫達といる時の方が家族といる時より楽しそうにしていた。
でも、たとえ興味がなくても誰かが助けて欲しいと言われたら助ける正義感のある妹だった。ただ、どんなに頑張ってもどうにも出来ないことがある。真魚はソレを何度も味わった。
私も刑事になってからそれは同じように何度も味わった。しかし割り切らなければ刑事には、社会では生きていけない。
だけど真魚はそうじゃなかった。出来なかったのだ。
どんなに頑張っても出来ないのなら。人間では解決出来ないのなら。
伊神真魚は屋上から飛び降りた。享年十六歳だった。
遺書には『人間にあきあきしたので幽霊になります』それだけしか書いていなかった。 真魚らしいがせめて両親に一言書いて欲しかった。死んだ時の両親の嘆き様は目にも当てられなかった。
私は当初からこんな事は予想できだが、幽霊何てそんな非科学的な事を言うのか半端呆れていた。
しかし、真魚が学校の自分の席に猫が集まる様になった。
どんなに追い払っても何度も集まって来た。それなのに突然ぱっと出ていってしまう。
そして放課後、窓際にいないはずの少女と猫達の姿が何人も目撃されているのだ。
その光景は生前の真魚と猫達の姿そっくりだった。
学校は何時しかそれを黙るようになった。生徒が何か聞く度に適当な言葉でかわしていった。
生徒はいつの間にか真魚の事を『猫子さん』と呼び、『猫子さん』に呼びかけられたらその人の悩みを解決すると言う七不思議が出来た。
真魚は本当に幽霊いや、『神様』になってしまった。
青江兄妹の遺書に書いてあった通り『猫神様』に。
真魚は猫達を使って問題を解決したり、猫達が持ってきた依頼を解決させたりしてるだろう。(これは予想だろう)
たとえ人間では解決できない事を、社会の常識では理解できない方法で解決してるだろう。
某漫画のセリフを借りると『おれは人間をやめるぞ! ジョジョ――ッ!』を現実にやって人間を辞めたお蔭で人間では出来ない事が出来る。何とも皮肉な話だ。
ただ、それでも両親も祖父母も親戚も近所もそして私も真魚には生きて欲しかった。
願わくば、真魚が助けた青江兄妹が平穏でこれ以上罪を重ねない事と、いつか私の目の前で最愛の妹の姿見れる事を願う。
○月○日天気晴れ、伊神犬太の日記より




