XV話【衝撃】
あまりにも、あまりにもあっさりと言われたその言葉に俺の脳はついていかなかった。
「い、今なんて? なんて言ったんだ?」
「聞こえなかったのか? 私がエデン教の教祖だと言ったんだ。確か、あっちではシャドウだったかな?」
「お、おい。冗談ならそろそろやめないと笑えないよ?」
俺は今引きつった笑い顔をしていると思う。それくらい意味がわからない。
父さんが教祖? エデン教の? なんで?
「……そうだな。いきなりそれを教えても混乱するだけだな。ロキ、良いか? まずエデンとはな――」
「――なんでッ! なんでそんな事言うんだよ……! 嘘だって言ってくれよ!」
俺は拳を握りしめ、訳もわからず叫んでいた。
「ふぅ……。ロキ、お前はまだ若いな。アヴィレックスは黙って私の話を聞いていたというのに」
「に、兄さんにも話したのか?」
「ああ数日前にな。あいつは黙って聞いていたよ。まぁ、そんな事はいいんだ。今はお前だ、ロキ。何を言うのも自由だがまずは話を聞け」
父さんは俺の目をじっと見つめてそう言い放つ。
確かに何もわからないなら黙って聞いていた方がいいのかも知れない。そう思った俺は最大限に落ち着くように努力して深呼吸した。
「……わかった。いいよ」
「ふむ。ではまずエデンの話からだ。30年ほど前、私が30代の頃。私はこの城の書庫で偶然この本を見つけた」
そう言いながら父さんは手に持つエデンと書かれた古い本を俺に見せる。
「これは言うなれば日記だ。600年以上前のな。ここにはある一匹のモンスターの名前が書かれていた」
「……」
「それがエデン。エデンとはこのモンスターの名前の事だ」
「ま、待て……エデン教の信者たちによるとエデンエネルギーは教祖、つまり父さんのスキルから生まれるものだと聞いたぞ!?」
「それは嘘だ」
あっさりと父さんは言った。
う、嘘だと?
「ああ、『真実』を教えたらどうなるか私にも予測できなかったからな。それに……私が創り出していると言った方が信者は出来やすい」
「じ、じゃあエデンエネルギーって……いったい……」
「その名の通り、エデンというモンスターの持つエネルギーを抽出したものがエデンエネルギーだ。そのエネルギー効率は化石燃料のおよそ300倍。途轍もないだろう?」
父さんは笑っている。けど、俺は全く笑えない。
300倍だと? それが本当だとしたら、そのエネルギーを生み出している本体はいったいどれほどの……。
「エデンは何者なんだ!? なぜモンスターがそれほどまでの力を!?」
「さぁな。ただモンスターとは言っているが、あれはそんな生易しいものではない。ロキ、お前もエデン教のあの巨大なドームを見ただろう?」
「……ああ」
それがなんだというのか。
「あれは、『地上に露出しているほんの僅かなエデンの表皮』を覆っているものだ。我々はあそこからエネルギーを得ている」
「なっ……!」
あの巨大な建物でほんの僅か、だと!?
「そ、そんなモンスターがいてたまるか!」
「ああ、だから『神の力』なのだよ。そして私はその力を利用する事に決めた。これを使えば我が国が優位に立つ事は造作もない」
「な、なんで父さんは急に国を大きくしようなんて考え始めたんだ。今までそんな事言ってなかったじゃないか」
「エデンの研究をしていくうちにな……神の声を聴くようになった」
「何……?」
「力を手に入れよ、と。私は今まで力などに興味はなかったが神の声を聴いてから考えを改める事にした。力を手に入れなければ何も守る事は出来ない……!」
父さんは至って真面目な顔をしてそう言う。
神の声だと? そんなことあるはずがない。
「この本を読んでいるとエデンがこのガラム地方にいる事がわかった。これは天命だと思った。私は導かれるようにエデンを探す事にした――」
エデンを探すために私財を使い、色々な人物を集めた。地質学者、考古学者、冒険者などなど。その中で大きな働きをしてくれた者は今のエデン教でも重要な役職についている。
そして30年にも及ぶ時を経てエデンを発見、直ちに研究施設を作った。それが今のエデン教の施設そのもの。
父さんが語ったのはこんなところだが、頭の中で反芻させても未だに信じられない。
「信じられない、と言った顔をしているなロキ。だが、これは紛れも無い事実だ」
「……一つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「結局のところ父さんの目的はなんだ? なぜそこまで固執する?」
父さんは一呼吸置き、
「……まぁ目的は有り体に言えばエデンを復活させる事だな。さすれば得られるエネルギーは今の比では無い。そしてこの国は大きな力を持つ事になる。そうすれば、そうすればもう二度とキリのような犠牲は出ない」
そう答えた。目を見ても嘘を言っているようには見えない。そしてやっと父さんの目的がわかった。
父さんが口にしたキリという人物。俺も見た事がないがロルフから聞いた事がある。父さんの幼い時より世話をしていた召使いの女性。俺でいう今のソラのような感じだ。
彼女は大変美しい女性だったらしい。そして父さんは彼女の事をとても信頼していた、もしかしたらそれ以上も。しかし彼女は30年以上前にあっさりと亡くなった。戦争に巻き込まれて。今こそアヴァロンは反戦国家だが当時は国同士の戦争に加わっていた。
「父さんはキリさんのような犠牲を出さない為に反戦国家にしたんじゃなかったのか? なのに力なんか手に入れたら逆戻りじゃないか」
「反戦国家になったからと言って戦争がなくなったわけではない。今でも国同士の争いのせいで我が国にも多大な被害が起きている。これを収めるためには圧倒的な力が必要なのだ」
「……つまり父さんは暴力としてエデンを使うわけではなく牽制する為の材料として持つという事?」
「そういう事だ。私は侵略するために使う気などない」
俺は考えていた。これがいい事なのか悪い事なのか判断ができなかったからだ。要は父さんは力を見せる事で戦争を終わらせる気だという事だ。
だがそんな事が可能なのか? 力を持ったものがそれを使わずにいられる保証はあるのか?
「俺は父さんを信じて良いのか……?」
俺は疑問に思いながら父さんを見つめ、そう語る。すると父さんも俺を見据え、
「もちろんだ。私に任せなさい」
力強い目をしてそう言った。そして俺はそれを信じる事にした。
「わかった、じゃあ俺から言うことは何も無い。けど俺はエデン教に入るつもりはないよ」
「良いだろう、それもまた一つの選択肢だ」
「そういえば兄さんはなんて?」
「私が決めた事ならそれに従うと。道を間違えたら自分が止めると、そう言っていた」
「兄さんらしいぜ」
「ああ、自慢の息子達だ」
そう言うと父さんはニコリと笑った。
そんな父さんの笑顔を久しぶりに見た気がして、俺は少し安心した。最近の父さんは人が変わったかなような行動が多かったからだ。
「ロキ……お前は優しい子だ。こっちに来なさい」
「なに?」
俺は父さんの元へと歩く。
そして父さんは俺の頭に手のひらを乗せると、
「使う日が来ない事を願うが……発動、虚数支配」
何か発動したようだけど特に変化はない。
「なにそのスキル?」
「秘密だ」
そうしてこの日の会話は終わった。




