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XI話【日常】



「というわけで今日からメイドのレイだ」

「レイです。よろしくお願い致します」


 俺はとりあえずロルフやソラ。そして俺のお世話がかりになっている召使いさん達にレイを紹介した。召使いが増えるのは珍しくないので反応は大して無かったが。


「とりあえず仕事とかはここら辺の人たちにわかると思うから」

「わかりました! 頑張りますね、ご主人様!」

「ロキで良いのに……」


 レイはあれから何回言ってもご主人様と呼んでくる。本人曰くそうやって言う事で自分が主人のものであり、奴隷ではないと強く認識出来るかららしい。まぁ別に本人が良いなら良いんだが。


 この日からレイは俺の家で働くことになるのだが、時が経つにつれて俺が考えても見なかった事態になる。と、いうのも彼女が家に来て数日経ったある日――


「私はソラです。よろしくお願いします」

「レイです。聞きましたよ? あなた、ご主人様に名前をつけてもらったらしいですね」

「……? ええ」

「残念でしたね。今までは唯一の存在だったようですが、レイもご主人様に名付けていただきましたのでもはやあなたは古い存在。ご主人様はレイにだけ愛を注いでくれるでしょう」


 仲良くしてくれるだろうなぁ。なんて考えていた俺が浅はかだった。レイは他の人たちには礼儀正しく振舞っているのに同年代であるソラに対してだけ異常な敵対心を持っていたのだ。


 まぁでもソラはそんな煽りに乗らない奴だから大丈夫だろう。なんて考えていた俺はやっぱり浅はかだった。


「なんですかあなた。ロキは『私の』主人ですが。ロキの愛など知りませんが、彼は私に言ってくれましたよ。『俺がお前の家族になる』って」

「な、な……! 家族……!?」


 レイはこっちを見て目で何かを訴える。いや、なんだよ。

 いつの話を引っ張りだしてんだあいつは。あれって確か、モンスターに襲われた時あたりに言ったんだっけか。よく覚えてんなあいつも。


「ふふ、そうです。どうかしましたか?」

「ま、まぁレイはご主人様に『専属』メイドと言ってくれましたけどね」

「専属ぅ……?」


 ソラはこっちをキッと睨んできた。お前らいちいち俺の方見るのやめろ。

 あー、でも確かに専属メイドって言ったな。あんまり考えてなかったけど。


 それからも2人はガミガミと言い合ってはどうでもいい事で張り合っていた。

 しかもこの言い争い、この日に限ったことではなかったのだ。


【太陽暦:657年】


「ロキ、これあげます。余ったので」

「ご主人様〜。はい! レイからは愛を込めて」


 今日はこの国のちょっとしたイベントごとで、女性が男性にお菓子などをあげる日だ。俺も王子なので結構貰うのだが、この2人は合わせたように同じタイミングで渡してくる。

 ソラのは普通の四角い包みに包まれた箱で、レイのはハート形の箱である。


「ロキ、今食べてください」

「レイのも」

「わ、わかったよ」


 そう、絶対に俺にその場で食べさせるのだ。俺はとりあえず2人の箱を開ける。ソラのは中身も数種類のクッキーが小綺麗に並んでいる。一見市販品に見えるが手作りだ。レイのは箱の形のままのハートのチョコレートが入っていた、こちらも手作り。


 俺はクッキーを一口食べる。サクサクとした表面にしっとりとした中身。わかってはいたがめちゃめちゃ美味い。普通に店に出せるレベルであろう。

 ソラが珍しくそわそわしながらこちらを見て来たので感想を言う。


「すっごい美味しい」

「そ、そうですか」


 ソラはクールな態度をとってはいるが髪を手でくるくるしている。これは照れているのだ。

 続いて俺はチョコレートを一口食べる。ほんのりした苦味と、しかしながら深い味わい。どうやってこの味を出しているのだろう。とても美味しい。


「レイのも美味い」

「良かったー!」

「じゃ、じゃあ俺はこれで――」

「待ってください」


 俺は感想を言ってその場から去ろうとしたが、2人とも俺を行かせてはくれないようだ。


「どっちの方が美味しかったですか」


 そしてお決まりのこのセリフ。どっちも美味しいのでそう言いたいところだが、彼女たちはそれでは納得してくれない。仕方ないので俺は毎年渋々決断している。

 勝った方は凄い勢いで喜ぶんだけど、負けた方はそれはもう2週間くらい落ち込む。というか勝者にバカにされるのだ。

 よって俺の発言は重要。思わず俺も緊張が走る。


「今年は……ソラの方が美味しかったかな。中のしっとり感が良かった」

「よっし!!」

「な……な……!」


 ソラは外見に似つかわしくないほどガッツポーズをとった。それに対しレイは膝から崩れ落ちる。


「ふふ、レイ。あなたの自信はどこへいったのでしょう? ハート形なんて媚びを売っておきながらこのざま。言い訳のしようがありませんよ全く」

「ぐぬぬぬぬ……!」


 というわけで勝者の特権が始まった。見苦しいので俺は去ることにした。

 うーん、なぜ仲良くできないのか。


【太陽暦:659年】


「大事なのは年数じゃなくて想いだと思います。レイのご主人様に対する想いは計り知れません」


 レイがそんな恥ずかしいセリフを廊下でソラに向かって話している。なんでこんな会話になったのかは知らんが、まぁ日常茶飯事なので気にしない。


「へー、そうですか。まぁ私はロキの事なんてなんとも想っていませんが、とりあえずあなたよりは良く知っていると思いますけど」

「ふ、ふーん? 口だけではなんとでも言えると思います」

「例えばロキは寝る時に必ず一回布団を抱きしめてから寝ます」

「なっ、なんであなたがそんな事を……!」


 いや、本当だよ。なんでソラがそんな事知ってんだよ。確かに無意識に抱きしめてから寝るっぽいけど。


「まぁそれは? そういう事じゃないですか?」


 どういう事だよ。


「ま、まさか……あなたたちその歳で……?」

「ふふ……」

「いや、何もないから。つーかなんの話してんだお前らは」

「ロ、ロキ!」

「ご主人様!」

「……ロキ、あなた聞いてたんですか?」

「ああ、ソラ。お前、なんで俺の寝相とか知ってんの」

「ま、まぁそれはあなたの世話をする上での必須情報というか、シーラさんからの助言というか……」


 シーラさん? なんでここでシーラさんが?


「そんな事言ったらご主人様はお風呂で身体を洗う時にまず脇から洗いますけどね!」

「ぐっ……それは知らないです」


 いや当たり前だろ。知ってたら完全に犯罪だよ。そしてなんでレイはそんな事をそんなドヤ顔で言えるんだよ。


「レイ、なんでお前そんな事知ってんの」

「もちろん覗き見しました!」

「覗き見すんなや!」


 こいついつのまに覗き見なんかしてたんだ……? 俺は風呂も気を抜けないのか……。

 その後もわーきゃー言いながら2人は言い争いを続ける。俺は止めるのも疲れたのでその場を後にした。





 その日の深夜。なんだか夜中に目が覚めてしまったのでトイレに行くことにした。トイレを済ませ、部屋に戻ろうとすると、ふと兄さんの部屋の前に誰かがいる事に気づいた。


 侵入者か!? そんな事が頭をよぎるが杞憂だとすぐに気づく。よく見るとシーラさんだった。

 何をしているんだろうか。声をかけようかとも思ったが気になったのでそのまま様子を伺う。するとシーラさんはそのまま兄さんの部屋に入っていった。俺は後をつける。

 部屋を覗くと兄さんがスヤスヤと寝ていた。するとシーラさんはそれを確認した後、何を思ったのか服を脱ぎ始めた。


「……アヴィチャージを開始します」

「っ!?」


 思わず声が出そうになる俺。が、なんとかそれを我慢する。暗がりのせいでいまいちわからないが確実に今彼女は服を着ていない。


 あ、アヴィチャージってなんだ……!?

 俺はドキドキしながら様子を伺う。すると彼女はあろう事か兄さんのベッドに入り込んだ。そしてそのままごそごそ何かしたかと思えばすぐに動きがおさまった。


「すーはーすーはー」

「……」


 どうやらシーラさんは思いっきり何かを嗅いでいるらしい。

 なんか……ちょっと間違えた道を見ている気がするから見るのやめよ。

 俺はそう思い、部屋に戻ってもう一回寝た。

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