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XII話【不穏】


 太陽暦:660年


 汗が滲み出る。大剣を握っているその手のひらはべとべとだ。


「グオオオオ!」

「お、おお……なんだよ! かかってこいよ!」


 目の前にいるのはあの時俺とソラがボコボコにされたあのライオンのようなモンスター。嫌でも体が震える。


「なんだロキ。ビビってるのか?」

「ビビってねーよ!」


 兄さんが俺を煽ってくる。

 とは言ったものの、体が動いてくれない。思った矢先、モンスターはいきなり攻撃してきた。


「あぶねっ!」


 俺はそれを簡単に避ける事ができた。相手の動きが鈍っている? いや違う、俺が強くなったんだ。

 ようやく震えが治ってくれた。


部分支配チャージ

「グルル……」


 そして奴はその鋭い爪で俺に襲いかかってきた。俺はそれを持っていた大剣を盾にして防御する。爪は俺の剣を破壊する事などなく、奴の攻撃は完全に勢いが消えていた。


「こっちの番だ!」


 俺は大剣を振り回し奴を振り払うと、そのまま追跡して奴をぶった切った。

 驚くほどあっさりと奴を倒してしまった……。


「俺、強くなったんだな……」

「まだまだだけどね」

「そりゃ兄さんが強すぎるんだよ」

「ま、これでトラウマは克服できたでしょ」


 そう言うと兄さんは微笑む。そう今回は俺のトラウマ克服のためにわざわざこのモンスターを探しにきたのだ。

 まぁおかげで克服できたけど。


「じゃ、帰ろうか」

「腹減った」


 そう言って俺たちは城へと戻る。城の料理室では既に昼食の準備が進められていた。

 美味しそうな匂いを堪能していると、メイドたちが現れ、俺たちの服の着替えを持ってきてくれる。ちなみに今日のメイドはレイだ。


「ご主人様。お二人ともお風呂の準備ができております」

「ああ。わかった。レイも入る? なーんて――」

「いいんですか?」


 思ったよりレイが食いついてきた。俺は必死で否定して風呂へと入る。ちなみにお風呂はめちゃめちゃでかいので俺と兄さん2人入っても何ら問題はない。


「いい湯だな〜」

「そうだね。そういえば兄さん、さっきレイ見てて思ったんだけどさ」

「なんだ?」

「メイドさんたち、移り変わり激しくない? 数ヶ月に何人かは変わってる気がするんだけど」

「そう言われれば……辞める人最近多いような」

「だってさ、レイがうちに来たのが6年前だろ? その時父さん結構多くの奴隷連れて来て召使いにしてたけど、その人たちもう1人も残ってないぜ?」

「……そうだっけ? うちは召使いが数えきれないほどいっぱいいるからな……」


 兄さんはそう言うが俺は確信を持っている。と、言うのもレイをかけた試合をしたあの時、大男に言われたあのセリフ――


『あの小娘だけが可哀想だとか抜かすつもりはないよなぁ?』


 あのセリフを受けてから、俺は家にいるメイドを含めた召使いみんなを覚える事にした。

 だからこそ、俺にはわかる。最近、消えていく人があまりに多い。しかし誰に聞いてもちゃんとした回答は返ってこない。


「事件の匂いがする……」

「はは、ロキ。探偵にでもなったつもりか?」

「いや絶対怪しいんだって!」

「わかったわかった。それより今日、うちにハイレベルな冒険者がくるらしいぞ」

「え? ほんと? 何しに?」


 うちに冒険者がくるなんて珍しい。というのもうちは冒険者に頼むようなことは身内で解決してしまうからだ。

 冒険者になるメリットは色々とあるが、王族である俺たちはそれを易々と超える権利を持っているためわざわざなる必要がないのだと言う。


「いやなんかな、その人。凄腕の冒険者であるのと同時に、凄腕の鍛治職人でもあるらしいんだ。今日は鍛治職人としてくるらしい」

「へぇ……て事は父さんが剣を作ってもらうのか。なんでだろ?」

「さぁな。最近の父さんは何考えてるかわからない時があるからな」

「だよね」


 どうやら兄さんも同意見のようだ。最近の父さんは何かおかしい。しかしいつも変というわけでもないのであまり気にしてはないが。


「そろそろあがるぞ」


 俺たちは風呂から上がった。そして着替えていつもご飯を食べる大きな広間に行くと、既に料理が並べられていた。

 そしていつもは見ない顔が1人。その男は目立つ白い髪を後ろで束ねている。彼は俺たちに気がつくとお辞儀をした。俺と兄さんも合わせてお辞儀をする。


「あんたらがここの王子か? 俺は鍛治職人のエドガーってもんだ」


 エドガーとやらは俺たちの方へと歩いてくると手を差し出して来た。まずは兄さんが握手に応え、次は俺も応じる。


「よろしく。僕はアヴィレックスだ」

「お、俺はロキですっ!」

「そうかよろしく」


 そして俺たちは席に着き、料理を食べ始める。兄さんは早速エドガーさんに質問する。


「エドガーはなんで鍛治職人に?」

「まぁ言ってしまえば自分に合った剣を作るためだな」

「市販のじゃ駄目って事か?」

「そうだな。あまり手に馴染まないんだ。これは作るしかないと思ってね」


 それで作ろうと思うのも凄いな。というかエドガーさん、服の上からでも凄い筋肉があることがわかる。おそらく相当強いな。


「なるほど。どうやら相当やるみたいだね。冒険者のレベルはいくつ?」

「レベル? 最後に測った時は7だったかな」

「7? にしては名が知られていない気がするが……」

「まぁ俺は割と非合法な剣の生成もしてたりするからな。能力を測る時は大体裏ルートさ」

「へぇ……非合法ね。ところでエドガー、君は今回、父さんにどんな剣を依頼されたんだ?」


 兄さんはさも自然に聞いているように見えるが俺にはわかる。あの兄さんの目は本当に知りたい事を聞く時の目だ。

 兄さん、どうやら父さんの事を知りたがってるみたいだな。


「あれ、お前ら聞いてないのか? いやぁ俺も今回はなかなか骨が折れたぜ。なんてったって『エネルギーを増幅させてそれを拡散させる』なんていう能力を持った剣だぞ? もはや剣じゃねーだろそれ、みたいなね。まぁパンシアの技術を使ってやったけども」

「エネルギーを増幅……拡散……」


 兄さんは何やら1人でぶつぶつと言っている。それにしても凄いな。パンシア大陸は技術力があるのはもちろん知ってるけど……それを剣のサイズに収めることができるなんて。


 その後、俺たちは他愛ない会話をして、軽く剣を見てもらったりした。兄さんは終始何かを考えているようだった。


 エドガーさんはその日のうちに去った。また仕事が入ったのだという。できれば剣術とかも教えて欲しかったがそんな暇もないようだ。ただ、


「この世に平和なんて訪れる日はないのかもなぁ」


 エドガーさんが去る祭、そんな風に言ったことだけは強く俺の耳に残っている。

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