31話【空からの使者】
俺たちはルカナ国跡地を目指し歩いていた。
「なぁ、そういえばソーニャって俺たちの時代にはどうやって来たんだ? ルカナ国の奴を使ったのか?」
「ああ……それはですね――」
「作ったんだよ」
ヴァレイアが遮るようにそう言ってきた。今、作ったって言ったか?
「作ったってまさか……時の石板を!?」
「そのまさかさ、失敗だったけどね」
「し、失敗って、でもソーニャは俺たちの時代に飛べたんだろ!?」
「あぁ、けどその代わり実験に使った施設は吹っ飛んだけどね」
「吹っ飛んだ……?」
吹っ飛んだってどういう事だ? するとソーニャとヴァレイアは苦い顔をしながら話し始めた。
「僕たちはまず光速を超える事から目指したんだ。詳しい説明は省くけど、特殊な条件においては光速を超えられれば時間の次元に干渉できる事がわかってる」
「……? それで?」
「まぁ作ろうとしたさ。光速を超える機械をね。幸い先人たちも昔から試みてたおかげでデータと材料はあった。それで一応形にはなった。けど、やはり僕たちの技術は完璧じゃあ無かったんだ」
つーか思い立って作れちゃうところが凄いな。こんな何もなさそうな時代なのに……。
「それで使ってみたんですよ。その機械ヴァレイア1号を」
「おぉ! なかなか良いネーミングセンスしてるなヴァレイア!」
「そう言われたのは初めてだよ」
ヴァレイアはあまり嬉しくなさそうな顔をした。どうやら周りに散々センスがないと馬鹿にされてたらしい。
「それで? どうなったんだ?」
「結果、私は過去に行けました。けれど、行った時に機械の関係上私の質量が無限大に大きくなってしまい、到着と共に私は叩きつけられ大怪我をしました。私はスキルを発動させてたので幸い命はありましたが……」
「大怪我……大丈夫だったのか?」
「いえ、私は3ヶ月もの間傷を癒していました。それに……」
それに? ソーニャはヴァレイアを見る。その視線に気づいたヴァレイアは苦笑いした。
「初めに言ったけど、膨大なエネルギーを使った施設はエラーを起こして爆発しちゃったんだよ。怪我人は出なかったから良かったけどそのおかげで機材もデータもパーさ。もう二度と作れない」
そういう事か……一回きりの時間旅行だったって事だな……
「これが私が初めて過去へ行った経緯です。あーー思い出すだけでも全身が痛くなりますよ」
「ご、ごめんねソーニャ」
ヴァレイアがぺこぺことソーニャに謝る。ソーニャはそんな彼女の様子を見て楽しんでるようだった。
あれ……待てよ?
「そんなに苦労して過去に行けたのに、ソーニャはなんでこっちに戻ってきたんだ?」
「ああ……それは単純に何ヶ月で戻る、と決めていたからです。そうしないと私が生きているかすらわかりませんからね。まさか施設が吹っ飛んだなんて思いませんでしたが」
「なるほど」
ソーニャは恨めしそうにヴァレイアを見る。その視線を感じたヴァレイアは髪の毛を弄り始めた。
「ま、まぁ良いじゃないか。そのために今から僕たちは石板を見つけに行くんだから」
「全くシオン様が来なければどうなってたやら……そういえば、シオン様。ソラ様は?」
「いや……それが一緒に来てたはずなんだが、未だに会えてないんだよな。どうしたんだろ?」
「それは……心配ですね」
「ああ」
そうだよなぁソラたち、どうしたんだろ? あいつら無事なんだろうか……。そもそも同じ時間帯に飛んだのかどうかすら怪しくなってきたけど……。
「シオン様、そろそろ着きますよ」
「え、あ、おう」
メリカル街から歩いて15分程度経ったが、ここまででモンスターに襲われる事は無かった。というかそもそもモンスターに遭遇しなかった。
ソーニャに尋ねたところ、この時代では弱いモンスターはほとんど絶滅してしまっているらしい。
「着いたね。ここがルカナ国跡地」
跡地っていうか……ただの瓦礫の山じゃねーか。
そこにはおそらく昔は何かが立っていたのであろう痕跡があったが、ほとんどが崩れ瓦礫と成り果てていた。
「それで? どこに石板はあるんだ?」
「あそこの中央に巨大なロボットがあるのが見えますか?」
「ん〜?」
ソーニャが指差す方向を確認すると、大量にある瓦礫の中でそれに紛れるように巨大なロボットがピクリともせずに座っていた。
「あれか……で、デカイな」
「立ったら全長5メートルはあるよ」
ヴァレイアが軽いノリでそんな事を言った。ご、5メートル? デカすぎだろ……。
「あのロボットの座る付近には時の石板が保管されている地下に繋がる階段があります」
「階段、ね……」
場所的にあそこは城があった場所だろう。てことはこのルカナ国が所持してたのか。アルキード王国と言い隠し階段好きだねぇ。
しかし、なるほど。話が見えてきたぞ。わざわざあんな所に巨大なロボットを置くってことは……
「あのロボット、石板を守る護衛か」
「凄い! その通りです! あのロボットはルカナ国が滅びてもなお、石板を盗ろうとする敵を排除しろという命令を守り続けています」
「うーん、300年以上もの間、健気なロボットだねぇ」
ヴァレイアがしみじみとした顔でそう言った。いやいや、終わらない命令ほど酷なものはないだろ……
「あのロボット『SH4』は戦闘用に作られていて半径1メートル以内に入ると動きます。私たちと普段過ごしているようなロボットとは格が違いますので、なめてかかっちゃダメですよ?」
「強そうだな……」
見たところ、かなり頑丈に出来てそうな装甲をしている。なかなか骨が折れそうだが……
「まぁやるしかないな。準備は良いか?」
「ええ」
「うん」
2人の準備を確認すると、俺は慎重に歩きながらロボットの半径1メートル以内に踏み込んだ。
その瞬間、ギギギとサビがこすれるような音とともに、ロボットは動き出した。立ち上がり、そして俺たちの方を見る。
「敵、認識シマシタ。戦闘モードニ移行シマス」
「くるぞっ!」
ロボットが腕を上げると、右手首が外れ、中から銃口のようなものが現れる。あそこから攻撃をするつもりなのか?
そう思い、警戒を高めようとしたその時、『そいつ』は空から降ってきた。
「発動! 星を見つめる者!」
瞬間、流れ星のように空からの一閃がロボットを貫き、衝撃とともに轟音が響く。
「な、何が起きたんですか……?」
ソーニャが慌てふためく。ヴァレイアも汗を滲ませながら土ボコリが舞うその現場へと目を集中させていた。
やがて煙が晴れ、胴体を貫かれたロボットの前から、金色の髪をした1人の男が俺たちの歩み寄ってきた。何故こいつがここに!?
「やぁシオン、元気にしてたかい?」
「アルフレッド……!」