29話【世界の終わりの日】
太陽暦666年のアミリア大陸における記録。
一言で言うと、それは『終わり』の襲来だった。
アミリア大陸にある記録の塔と呼ばれる高い塔。
この記録は、その1番上に設置された動画を撮るための機械(カメラと言うらしい)で記録されたものだと言う。
天からは数多の隕石が、雷が、火の粉が雨が降り注ぎ、人々の悲鳴が響き渡る。
「これは……」
――太陽暦666年。『それ』は突然現れた。
ヴァレイアは映像の方を見つつ、何かの本を見ながらそう切り出した。
――奴はガラム大陸の中枢部より現れた。ガラムの人々は神の出現だと囃し立てた。しかしそれは神なんてシロモノではなかった。
むしろ真逆の存在、『破壊』や『絶望』を生業とする『悪魔』に他ならなかった。
いや、その存在そのものが『神』なのか。
我々は対策や対抗なんて考える暇はなかった。奴は数時間としないうちにこの世界のほぼ全てを破壊し尽くしたからだ。
ガラム大陸は吹き飛び、地図から消えた。
世界の人口は1/3以下になった。
空は雲で覆われ、人間以外の生物は死に絶えた。
周りには死の灰が舞い、長時間出歩くことは出来なくなった。
全てを破壊し尽くすと、奴は再び眠りに入っ
た。
我々はあの存在を便宜的に『大破滅』と名付けた。――
「これが昔の人が書いた当時の記録。そしてこの動画の本番はこの後だよ」
記録の塔からの動画はただ淡々と世界の終わる様を移していく。
時が経つにつれ、人々の悲鳴は小さくなり、地面は赤く染まっていく。
そして、少しずつ動いていた定点カメラがガラム大陸の方を映し出した瞬間、『それ』は映った。
ガラム大陸は遥か水平線の向こう。普通なれば大陸の方はぼんやりとしか見えない。
しかし、巨大なそれは確かに映った。
――ギギャグォヲヲオォォオォオオ!!
俺は絶句した。
その声は、鳴き声は人々を絶望へと誘いこむには十分だった。
そして、カメラに映し出された奴の身体は雲や霧がかかってよく見えないが、山より大きなその身体はもはやモンスターと呼べる物ではなかった。
そして――
ドンッ
鳴き声がした後にガラム大陸を中心に、巨大な爆発が起こった。
その爆発の余波でカメラが吹き飛んだようで、記録はそこで途絶えた。
「…………」
「言葉が出ないみたいだね。信じられない? でもそれは真実だよ」
これが俺たちの未来?
しかも2年後だと……?
「いったい何があったんだ……」
「僕たちが知り得る情報はこの映像とこの手記だけ。ガラム大陸とやらで何かがあったのは間違いないけど、消えちゃったからどうしようもないよね」
「……こいつが現れてから今までの歴史は?」
ヴァレイアは周りの人々を見渡した後、俺に歴史を語ってくれた。
曰く、カタストロフィの現れた後、死の灰と呼ばれる人間に悪影響の大気が蔓延し、生き残った人々にも絶滅の危機が訪れたらしい。
そのため、1番工学的発展のあったパンシア大陸による急速な施設建設が始まり、各大陸でこのドーム状の建物が作られた。
ロボットと呼ばれる最初に俺が戦ったあの鉄の機械もパンシア大陸による発明だそうで、こんな状況でも現れる盗賊や暴漢、そしてよくわからんがカタストロフィの一部から生まれると言われる敵から守るためのシステムだそうだ。
その後人々はこのドームでの生活を続け、少しずつ減っていく人口を感じながらもただ過ごすしかないのだという。
「僕たちには未来はない、希望はない、あるのはただ死ぬまで過ごしていくという事だけ」
「まいったな……」
思ったよりも希望がないぞ、この未来。
それによく考えたら俺、元の世界への戻り方がわからねぇ……戻れんのか……? 時の石板があれば……。
それにソラたちはどこいるんだ……。同じ時代に来てるのか?
「なぁ、時の石板って全部壊れちゃったのか?」
「記録では数百年前に壊れたとは言われてる、けどそんな事はないよ、たぶんね。パンシア大陸にはもっと情報があるはず。あそこは今、四大陸で1番力を持ってるから」
まぁ今人類が存続出来てるのがパンシアのおかげだとしたら、まぁそりゃそうなるわな。
「なるほど……パンシア大陸にはどうやって行ける?」
「行く気? 行くなら転送装置を使うのが早いよ」
「転送装置?」
「うん。ここから少し歩いた先にアルキードって呼ばれる地があるんだけどそこに、人を各大陸の同じ転送装置のある場所に送ることができる転送装置があるんだ。もちろんパンシア大陸製。そうやって大陸間で交流して、物資の供給やメンテナンスなんかをして貰ってる」
パンシア大陸、本当に凄いな。確かに俺の時代でも小型通信機とか作ってたけど。
けど、そうなるとパンシア大陸に見返りがないな。
「ふーん、お前らは何を与えてるんだ? パンシア大陸から貰うばっかりで良いのか?」
「まぁ、労働力として人を渡したり、そんなところだね。今の時代人はいくらいても足りないから」
「そうか、なるほどね」
その後も、色々とこの時代について聞いた。
いろいろと俺の時代と変わってるいることはあったが、その変化の節々にカタストロフィの出現が関わっていた。
「じゃあ時間が惜しいし、俺はその転送装置とやらに行ってみるよ。色々サンキュな」
「……僕も行くよ」
「えっ?」
「この時代の案内人が1人は必要でしょ? 僕がその役、買ってあげる」
「本当か? 助かるけど……良いのか?」
「僕もこの退屈な日常にうんざりしてたとこだよ。是非連れってておくれ」
ヴァレイアは周りの人々を見渡しながらそう呟いた。
こいつもいろいろと苦労してるみたいだな。
「……じゃあ行こうか」
「うん。あ、外には死の灰が舞ってるからこの薬を飲んで。体内で死の灰を解毒する効果がある」
「わかった」
俺はヴァレイアから受け取った薬を飲んだ。
そして、俺たちが歩き出して扉から出ても、周りにいた人々はただ見つめるだけで声ひとつ発しなかった。
生きる事も死ぬ事も諦めた、そんな感じだった。
外に出て、しばらくするとかつてアルキード王国があった場所にはその面影は無く、ヴァレイアが言っていた転送装置と呼ばれる物があった。
転送装置は正方形の石の4隅に柱が建てられており、石の真ん中には円状に歪んだ空間が広がっている。
「空間が歪んでる……」
「この空間部分に立つと、パンシア大陸に飛べるよ」
「そうか、じゃあさっさと行こう」
「怖くないの?」
「もうこっちに飛んできた時に空間移動系には慣れたよ……」
あの時は俺が1番ビビったけど一回経験しちゃえばもう慣れっこだぜ。
「じゃっ、行こうぜ!」
「うん!」
そして、石の真ん中へと歩く。
俺たちの身体は光に包まれ、やがて一瞬の暗闇の後、目を開けるとそこはさっきまでの場所とは違っていた。
周りを見渡すと横に同じように並ぶ転送装置が3つ。
そして目の前には多くのロボットがいた。そして彼らを束ねるように真ん中に白衣を着た1人の女がいる。
その人物は俺がよく知った顔だった。
水色の長い髪に豊満な胸。
彼女は頭を下げながら挨拶をした。
「久しぶり? なのでしょうか……? 300年ぶりですね、シオン様。ようこそ未来へ。」
「ソ、ソーニャ……?」




