22話【ドキドキ温泉覗きクライミング】
俺たちは王に別れを告げ、城から出た。そして向かった先は冒険者ギルドである。目的は俺のスキルの変化を見るためだ。
ギルドに着きレベル測定所に向かうと、受付で待っていたのは幼い顔で髪を二つ横に縛った少女であった。
「くえっ!」
「いらっしゃいませ。レベルを測るんですかっ?」
「ええ、よろしくお願いします。」
俺がギルドカードを彼女に渡すと、カードを見たあと何かに気づいたようで俺の方を向いてきた。
「あなたがシオンさんですか! ミランダ姉様に話は聞いていますっ。ロベルタ姉様とも会われたそうですね! 私はキャロットと申しますっ! 敬語いらないですよっ。」
「お、おう。よろしく、シオンだ。」
ず、ずいぶんキャピキャピした子だな。あの2人の姉とは真逆の雰囲気を出してるぜ……。
「それじゃ早速測っちゃいますねっ。」
キャロットは俺にいつもの測定器を渡し、俺はそれを被った。少しすると、スキルの書かれた紙が排出された。
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シオン
レベル: 2
スキル:支配2
①信用支配★:人から好かれやすい
②部分支配:身体の一部分に力を溜める事ができる。
スキル:剣術2
①地獄の裁き:剣に地獄より呼び寄せし炎を宿らせる。この剣で何かを切ったならば、対象物は地獄の炎に灼かれることになる
②適応★:敵の斬撃を見るほど、その速度、攻撃に目が追いつき、身体もそれに対応する。
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スキルの書かれた紙を覗き込み、俺が1番に思った事は、自然なものだった。
「なんで、あの時発動したスキルが書かれてないの?」
そう、あのロズモンドを倒した時に発動した強力なスキルの数々が一つも書かれてないのだ。これはつまり……?
「シオンはまだあのスキルを使いこなせるレベルでは無いという事ですね。」
まぁそういう事だよな……。そうなるとなんであの時スキルを発動出来たのかって話になるけど、たぶんアレは過去の記憶と何か関係してるんだろう。
「しかし私は聞いた事無いぞ、己で使ったスキルが再び使えないなどと。シオン、貴様は本当に不思議なやつだな。」
「私もここに勤めて結構経ちますが、初めて聞きましたっ。そもそもこの紙に書かれているからスキルの名前がわかるわけで、普通それが逆転する事などはあり得ませんっ。」
「そんな事言われてもなぁ……」
実際使えてたし、今は使えないし……
「……シオンに常識は当てはまらない……」
「マルロ、それって褒めてるのか?」
まぁ何はともあれやる事は決まったし、準備が出来次第裁きの大穴とやらに行った方がいいな。
あ、そうだ。エリアに気になった事聞いておくか。
「そういえばエリア。お前、アルフレッド達とはどうしたんだ? てっきり遅れてくるのかと思ってたのに来ないみたいだし。」
「ああ、奴らなら今頃クエストを受けているはずだ。私も共に受ける予定だったが、この国の噂を聞いたからな、少し外させてもらった。」
「え、それなのに勝手にこの国から出て良いのか?」
「通信機器があるだろう?」
「ああ、そっか。」
そういえば通信機器があったな。これがあれば遠くの仲間とも連絡できるんだから凄いよな。
「さて、準備を整えて出発と行きたいですか、日が暮れてきました。出発は明日にしましょう。」
「それもそうだな。また来るよ、キャロット!」
「お待ちしてますっ! シオンさんっ!」
という事で、俺たちはギルドを出て、街にある1番大きい宿屋に泊まる事になった。しかも貸切である。コロシアムでのあの活躍により、王様がお礼をくれたのだ。
良いとこあるな。
もちろん部屋は男女別。男が俺1人とアポロンのみのためあまりにも広いが、まぁこんな機会めったにないし楽しんでおこう。
「さーて、そろそろ風呂入るか! アポロン!」
「くえっ!!」
ちなみにここの大浴場はモンスターも入浴可である。もちろん人に傷をつけるような凶悪モンスターは不可だけど。
そして何と言っても驚くのが、ここのお風呂は天然温泉であるというところだろう。割と近くから天然のお湯を汲み上げてるらしいけど、めちゃめちゃ楽しみだ。
俺は部屋を出て、大浴場へと向かった。男湯と女湯は隣同士のため、ちょうど同じタイミングで風呂に入ろうとするソラ達と会った。
「くえっ!」
「おっソラ! お前達も風呂か!」
「あ、シオン、貴方もですか。貸切で他の人の目がないからといって覗かないでくださいね。」
「だ、誰が覗くかっ!」
「……私は除くかも……」
「いや駄目だろ。」
「シオン、わかっているだろうが覗きなどしたら貴様の明日はない。」
「お、おう……」
エリアの目が本気で怖かったが俺はソラ達と別れウキウキで脱衣所に入って服を脱ぎ、そして大浴場へと歩を進めた。
「まずはアポロンの事洗ってやるよ」
「くわっ♪」
俺はアポロンを膝に乗せ、手で優しく洗おうと思ったが、鱗が硬いので止む無くスポンジで洗う事にした。
「くえっ♪ くえっ♪」
「お、気持ち良いか?」
「くぇえ……♪」
どうやらお気に召したようだ。俺はその後もアポロンの体を拭いてお湯で流すと、自分の身体も拭き、そして流し終えて温泉に浸かった。
「うぁぁあああ……気持ちいいぃ……!」
「くぇえぇえぇ……!」
お湯は適温で身体に染み込むように俺を包み込む。ちなみにアポロンは俺のあぐらをかいた膝に乗っている。
「このお湯と一体化する感じ、もしかして人間は太古の昔はお湯そのものだったのでは!?」
「くえ……?」
アポロンが何言ってんだコイツ、的な目で俺を見ている。やめて! そんな目で俺を見ないで!
「アポローン? お前の本当の飼い主はどこにいるんだ? てかお前はどこから来たんだよ?」
「くえっ? くえっ! くえっ!」
「あっ、おいっ! そっち登っちゃ駄目だぞ!」
俺がアポロンの頭を撫でながらそう聞くと、アポロンは遊んでくれていると勘違いしたのか羽を広げ、あろう事か男風呂と女風呂を隔てる岩壁を登り始めた。
ちなみに空調の関係上壁の上の方は隙間が空いており、人1人程度なら横になれば女風呂に侵入できそうなのである。
「くえっ! くえっ!」
「あーくそっ、しゃあねぇ!」
飛べるとはいえ、フラフラしてるアポロンがあんなところから落ちたら危ないし、ロッククライミングに自信はないが……登るしかないか。
……別に、あわよくば女風呂が覗けるかも、とか思ってないぞ! 本当に思ってないから。マジだから、本気と書いてマジだから!
「俺は誰に言い訳してるんだ……?」
そんな事を言いながら、俺のドキドキ温泉覗きクライミングが幕を開けた。