17話【コロシアム無双】
会場は度重なる激戦により大きな熱気に包まれていた。そしてその熱気はさらに高まる事になる。
「さて、お待たせしました! 次に現れますモンスターは、Dランク、氷鳥でございます!」
「ヒュルルルルル。」
「うおおおおお!」
モンスター側の入場口からは俺の頭を潰せそうな手足を持つ鳥が出てきて、会場を沸かせた。
「それを迎え撃つは、突如現れた謎の男。その実力は闘牛を一撃で仕留めることからも文句なし! 旅人シオン!」
「うおおおおお!」
よし、行ってくるか。と思っていたら控え室にいたオッサンが話しかけてきた。こんなところまで応援に来てくれたのか。
「おうボーズ。氷鳥……あいつは手強いぞ。飛べるタイプだから闘牛とも違うしな。」
「ええ、油断せずに戦いますよ。ありがとうございます!」
そして俺は入場口を潜り、闘技場へと足を踏み入れた。
「くえっ!」
「……シオンがでてきた。」
「シオンの間抜けヅラがいろんな人に知れわたってしまいますね。」
さて、飛ぶタイプはまだ戦ったことないな……
「時間は無制限、試合が続行不可能な状態になったらそこで試合は終了です! では、始め!」
試合開始と共に、俺は大剣を引き抜いた。
「おおおお……。」
「本当にあの少年があんな大剣を使いこなせるのか? 信じられないな。」
「んな事言ったって俺は見たぜ。」
「何にせよこの試合でハッキリするさ。」
大剣を引き抜くと、モンスターは警戒し、そして飛んだ。
「ヒュルルルルル」
これじゃ剣が届かないな……。まぁ相手の出方を見てみるか。
俺はその場で静止し、氷鳥の様子を伺った。すると、奴は口を開け、吹雪のような息を吐き始めた。
「ヒュオオオ!」
「ちっ!」
広範囲に向けられたその息は避ける事が出来ず、俺の身体を凍らせようとしている。
「おお、あの少年ピンチだぞ!」
「あの攻撃は避けらんねえな。」
「さて、どうするんだ?」
「このまま終わりじゃねーの?」
さて、このままだと本当に手が動かなくなっちゃうな。この闘技場を動き回ったところであいつの息は追いかけてくる。って事は……
「発動! 部分支配!」
俺は大剣を地面に突き刺し、持ち手の部分を踏み台にし、チャージにより力を溜めた足により高く跳んだ。
「おお……!!」
「素晴らしい跳躍だ!」
俺は氷鳥よりも高い空中から冷静に奴の背中を確認し、自然落下に従って狙いを定めた。
「 ふっ! 」
「ヒュルッ!?」
急な跳躍に驚いた氷鳥の隙をつき、俺は奴の頭上から思い切り両手を合わせ固めた拳を振り下ろした。
「ギギャア!!」
直撃した俺の拳によって氷鳥は闘技場地面に叩き伏せられた。
「発動! 地獄の裁き!」
俺は奴に立ち上がる暇を持たせぬまま、落下と共に受け身を取り、大剣を引き抜くとスキルを発動させ、奴の首目掛けて大剣を振るった。
「ギ、ギギ……ヒュ……。」
首を切断すると奴の身体は赤黒い炎に包まれ、やがて燃え尽きた。素材がドロップしたが、審判が取ってしまった。これは貰えないらしい。
「そこまで! 勝者、シオン!」
「うおおおお!!」
「スゲェ! 見たか今の!!」
「ああ! 一瞬だった……!!」
審判の掛け声と共に大きな歓声が聞こえてきた。うーむ、ちょっと恥ずかしいな。
「シオンが人気になっていますね。このままでは調子に乗ってしまいます。」
「……でも実際、シオンの成長は凄い……!」
「くえっ!」
敵を倒して疲れたので、少し休憩でもしようかと思ったが、どうやらそうもいかないらしい。
「さぁ驚愕の勝利を収めてくれたシオン選手ですが、次のモンスターには流石に手こずるでしょう! その鋭い鎌は並の刃物を凌駕する! Cランク、スラッシュカマキリ!」
キィンッ! キィンッ!
自分の鎌をこすり合わせるようにして音を立てながら登場してきたのは、俺の身の丈ほどはある二足歩行のカマキリだ。
「ありゃあ、やばいぜ。スラッシュカマキリに出くわして、まともにやりあおうとしたら腕の一本は持って行かれるからな。」
「さて、あのにいちゃんの大剣でどんな剣戟が行われるか……。」
あの鎌……やばそうだな。めちゃめちゃ切れ味良さそうだ……。
「それでは……試合開始!!」
「キシャア!!」
「くっ!」
いきなり来たかっ!
俺は右鎌を振り下ろしてきたカマキリに対して剣を下から切り上げて弾いた。
ギィンッ!!
「ちっ、本当に剣と戦ってるのと変わんねーじゃねえか!」
俺の切り上げにも動じずに、カマキリは怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
「キシッ!」
再び繰り出してきた右鎌に対して俺は同じように剣で切り上げて返し、その隙を見計らって繰り出された左鎌を持ち手の部分で一瞬ガードして、すかさず相手の腹に蹴りを入れた。
「ギシャアッ!」
「鎌以外の強度は並くらいか。」
だが俺の蹴りでは大したダメージは与えられない。そして、今の蹴りを食らう間に奴は俺の頬を鎌で切りやがった……頬が少し裂け、鮮血が垂れる。
それに手応えを感じたのか、カマキリはさらに速度を上げて斬撃を繰り出してきた。
「キシッ!!」
そっちがその気なら……やってやるよ!!
俺はスキルを発動する暇さえないその斬撃に剣で真っ向勝負する事にした。
「な、なんだこの戦いは……!」
「スラッシュカマキリの攻撃スピードにまさか剣で追いつくとは……」
「なぜあのシオンとかいう男は名が知られてないんだ……?」
「この大陸の者ではないのだろうな。」
耐える事のない敵の攻撃を受けながら俺は、感覚が極限まで研ぎ澄まされていくのを感じた。
「うおおおお!!」
「ギ……ギシ!」
見える! 奴の攻撃の筋が! 身体が反応する。ここに攻撃を放てと!
「マ、マルロッ!!」
「……ええ。シオンはこの戦いの中ですら攻撃のスピードが上がっているわ……。」
「くえっ!」
そして、遂に奴の攻撃の穴を見つけた俺はそれをつき、奴の胴体を切り上げた。
「ギシャア!!」
奴の傷口からは紫色の液体がにじみ出る。それでも奴は再び攻撃をしようとしていた。
だが……もう遅い。
「発動、地獄の裁き。」
あんだけ血を流していれば攻撃スピードは鈍る。それによって躊躇していた大振りでのスキル発動も可能だ。
「ギ……ギシャア!!」
よろけながらも全力で鎌を振り下ろしてきた奴に対し俺もそれに応えて全力で剣を振るった。
「ふっ!!」
俺と奴の鎌はぶつかり合い、凄まじい衝撃音が鳴り響く。
だが――
「勝ったのは俺だ。」
静寂の後、奴の鎌にはヒビが入り、ボロボロと崩れ始めると、やがて発火し、奴を燃やし尽くした。
「ギ、ギ、ギ……。」
燃え尽きると奴の鎌の部分が素材としてドロップしたがまたもや審判が即座に回収した。
こいつ、本当はパクってるんじゃねーだろうな。
「そこまで! 勝者、シオン!」
こ、今回の敵は中々強かったな……。ビッグベアと同じランクのはずなのに、スラッシュカマキリの方が強く感じたぞ……。
「おおおおおおおお!!」
「スゲェ戦いだった!!」
「シオンくーん! こっち向いてぇ!」
「最後の戦いも期待してるぞーー!!」
おお……さっきよりもさらにいろんな人から歓声が……。
「私も思わず興奮してしまうような試合でしたね! さて、次が最後の試合です! 次はどんな激戦を繰り広げてくれるのでしょうか! 実はまだ私も最後の試合の相手を知りません! この封筒にその答えが書かれています! では開けてみましょう!」
皆も静かになり、審判の封筒を開ける動作を見守った。そして、封筒を開け中身を見た審判の顔は、さっきまでのような気合の入ったものではなく、青ざめていた。
「こ、これ本当ですか…………?」
手が震えながら無線で上に確認をしているようだが、何があったのだろうか……。
「はい……はい。わ、わかりました。」
無線を切ると、審判は震えながらも息を吸い、封筒の中身に書かれたその名を読み上げようとしている。
「ふふふ、遂に我の1番楽しみにしていた戦いが始まるぞ……。」
「王様、一体どんなモンスターを用意したので?」
「モンスターではない。ふ、まぁ見ていろ。」
何回か深呼吸をした後、遂にその名は読まれた。
「さ、最終戦の相手は……アミリア監獄からのさ、参加です……。ロ、ロ……」
ロ?
「ロズモンド……!!」
その言葉と共に、会場は一気にざわめいた。
な、なんだ? 一体誰なんだ?
「マルロ……ロズモンドとは?」
「……奴は、アミリア大陸史上においてもかなり有名な犯罪者……。」
ざわついた会場の中、その男は無造作に伸ばされた長い金髪を揺らし、対面の入場口から現れた。手錠と足かせをはめられ、おそらくアミリア監獄の使いの者であろう2人に連れられていた。
あいつが……ロズモンド……。
「おい、手錠と足かせを外すが、貴様には自由を与えたわけではない。わかっているな。」
「ああ、わかってるよ。早く外してくれ。」
ロズモンドは顔を伏せたまま、手錠と足かせを外されていく。
「く、くえぇ……。」
「アポロンが震えてますね。かなり有名な犯罪者って何をしたんですか?」
「……殺人。」
「殺人? 言い方は悪いですけど殺人だけなら別にそこまで有名にはならないのでは?」
「違う……」
「え?」
そして、ロズモンドの束縛は全て外された。
「これが最低限の武器と防具だ。」
「ありがとう……………」
剣と防具が渡され、身につけ終わったその瞬間だった――
「――じゃあね。」
「えっ?」
使いの者たち2人は一瞬のうちにロズモンドに切り刻まれ、肉塊と化した。
「き、きゃああああああ!!」
「うわぁぁぁああああ!!」
会場から悲鳴が上がる。
な、なんて事を……。
「……違う。あいつはただの殺人者じゃない……奴を有名にさせた特徴は……その異常なまでの圧倒的な殺人欲求……!!」