15話【謎解きは宿屋の中で】
俺たちはアルキードから出ると、1番近くにあったダママ街の宿屋に泊まり、状況を整理することにした。
「くるるる」
「さて、なにやらいろいろとあったが……とりあえず1番謎なのはアルキード王の日記だな。」
「……これね……」
マルロが懐から日記を取り出した。
「そうですね、でも中身は抽象的すぎてよくわかりませんよ。最後にだけちょろっとゴスペルだのアナザーだの出てきますが、その内容はどこにも書いてありません。不親切過ぎます、これで取り返せという方がどうかしてますよ。」
「うーん、確かに。まぁ別に今のところ取り返す気なんてないけどな、関係ねーし。他になんかなかったっけ?」
「……あとはこれ……」
マルロはページをめくり、あるページのところで手を止めた。ここは……
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国内の調査をするのも大変だというのに、またガラムのアヴァロン王国から使者がやってきた、またアレの件だ。アヴァロン王国は以前とは別物のようになってしまった。平和主義だったのが今では一転軍事国家だ。ガイスト、君に一体何があったんだ。
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「ガラム大陸の使者が来たって話か。確かに国の日常を書き連ねてる日に比べて、この日は変化があったみたいだが……」
「……これの注目すべきところは、このガイストという人物……。」
「こいつがどうかしたのか?」
「……ガイストは、今となってはガラム大陸をアヴァロン王国を柱として事実上牛耳っている独裁者……」
独裁者、か。ガラムは確か世界地図では真ん中にあって他の四大国に比べると小さかったな。
「ですがこの文面だと、アルキードの王はガイストが変わってしまったことを嘆いているみたいですが。」
「……ええ。ガラムは元々軍事国家などではない、貧しくて、物資も少ない大陸……そして書いてある通り平和主義だった。国王のガイストも道徳者として知れていたわ……」
ガラム大陸に、ガイストになにがあったんだ……?
「ガラムに何があったんですか……?」
「……詳しい事は分からない、けどガラムの今の軍事産業を支えている資源は、膨大な新エネルギーと言われているわ……」
「新エネルギー?」
「……ええ。火などよりもエネルギーがあり、尽きることの無いエネルギーだと言っているわ……」
そ、そんな都合のいいエネルギーが存在するのか?
「そのエネルギーはガラムの独占状態って事ですか?」
「……ええ、ガラムは完全に情報をシャットアウトしてるみたいで、誰も詳しい事は分からないの。ただガラムの人々は【エデンエネルギー】と呼んでいるらしいけど……」
エデンエネルギー……。尽きる事無い永遠のエネルギーか……。
「まぁだとしたら、単純に考えればそのガイストがエデンエネルギーってのを見つけて、金が手に入ったから軍事産業に手を出したって感じか?」
「でも、それだと平和国家からいきなり軍事国家に変えた事の理由が微妙ですよ?」
「だれかに操られてんじゃねえの?」
「……あり得る……」
平和国家を軍事国家にする事でメリットを得る事ができるやつって、誰だ?
「やっぱり軍事産業のやつとかかな?」
「まぁその線が妥当でしょうね、しかしこの話はこれ以上はいくら考えたところで憶測の域を抜けません。それに私の記憶に関係なさそうですし。」
「確かに、じゃあ神の福音と訪問者について考えるか。」
まぁこの話も情報が少なすぎるんだが……。
「この神の福音ってのはなんだか知らんがアルキード王が大切に守ってたんだろ? 有名なものではないのか?」
「……聞いた事がない。私が知らないとなると、普通の書籍に情報は載ってないから、一般的ではない……。」
「うーん、そうか。じゃあ訪問者は?」
「……それも知らないわ……。」
うーむ。知識人のマルロが知らないとなるとお手上げだな。ソラが言うようにアルキードの王は本当に俺たちに取り返してもらう気あんのか? これじゃ誰もわかんねーだろ。
「手詰まりになってしまいましたね。」
「そうだな。世界の命運とかは置いとくとして、記憶を探す手がかりとしては役に立たなそうな情報ばっかりだぞ。ソラは何か感じるところはないのか?」
「いや、それがさっぱり。城に入った時も特に懐かしいという気分にはなりませんでしたし。」
「そうかー。これからどこに行きゃいいんだろ……」
困ったな。まぁ別に今まで通りいろんな街を回って情報を集めていく、ってのでもいいんだが……いかんせん時間がかかりすぎるからな。
「……ミラボレア王国に行ってみる、とか……?」
「その国は何か関係あるのか?」
「……ミラボレア王国は、アルキードと親交のあった国、ここからも近い。もしかしたらアルキード滅亡の事について何か知っているかもしれない……。」
「なるほど。」
まぁしかし、今の俺の懸念は、そのアルキードの滅亡とソラの記憶が本当に関係してるのかどうかが怪しいところ、なんだよな。
ソラのスキルがアルキードの一部の者が使えるスキルだからと言って、別にアルキードの滅亡とは何ら関係ない可能性の方が高いしな。
「ソラはどう思うんだ?」
「私は記憶の手がかりになりそうな事なら、今はなんでもウェルカムなので、行ってみる価値はあると思いますが。」
「くえっ!」
「……どうやらアポロンも乗り気。」
他に情報がないってのも事実だしな。今は情報をもっと集めるか。
「よし、なら明日からミラボレア王国に向かおう。」
という事でその日は休息をとり次の日にミラボレアに出発する事となった。
そして次の日。おれたちはミラボレア目指しのんびりと歩いていた。
「そういえばミラボレアって何があんの?」
「……ミラボレアは確か、化物を集めるのが好きな王様が有名。」
「モンスター好きとは……変わった人もいるものですね。」
「んな事言ってもアポロンもモンスターだろ? まぁこいつみたいなのなら俺は大丈夫だけどな。」
「くえっくえっ♪」
「……アポロンはまだ子ども。けどこれが大人になったらS級は当たり前のモンスターになる……」
「えっ! お前そんな凄かったの!?」
「くえっ!」
アポロンがここぞとばかりに胸を張っている。こんな愛くるしいのに本当にSランクなんかになるんだろうか……?
「まぁでも確かに成長したモンスターが大好きってんなら変な王様かもしれないな。」
「でも私たちって王様に会わせて貰えるんですかね?」
「……無理。」
「ですよね。なら地道に聞き込みしかないですね。」
「まぁじっくり行こう。そのうち記憶がパッと蘇るかもしれないし。」
「そうですね。あ! あれがミラボレア王国じゃないですか?」
目の前には街を囲うレンガが積まれた壁が見えてきた。俺たちは中に入るために門兵がいる門の元へ歩いて行った。
「身分証明が出来るものを出してください。」
「ギルドカードでいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
門を潜り中へ入ると奥に城があり、その手前に巨大な円状の施設があった。そしてその施設を囲い外壁に沿うように様々な店が並んでいた。
「ありゃ……なんだ?」
「おうにいちゃん、デケェ剣持ってんな! ここは初めてか?」
ボーッと突っ立って巨大な施設を眺めていたら近くにいた武器屋のおっちゃんが話しかけてきた。
「え、ええ、まぁ。あのー、あのデッカい施設はなんです?」
「ああ、あれか。あれは闘技場だよ」
「コロシアム?」
「ああ、うちの王様が趣味でちょっと前に作ったんだ。そのためにわざわざ俺たちの家とかもこうやって作り直したんだぜ? 全く困った王様だよ。」
「あのコロシアムは何のために?」
「モンスターと人間を戦わせたり、モンスター同士で戦わせたりするためさ。」
「なるほどね……。」
悪趣味な王様だな。まぁでもこのおっちゃんの悪態つきながらもそこまで不満に思ってない口ぶりから考えるに、人気なんだろうな。
そんな事を考えていた時だった――
「モンスターが逃げたぞおおおお!!!」
どこからかそんな声が聞こえた。それに合わせるようにコロシアムの近くから悲鳴が聞こえる。
どうやら厄介な事が起きたみたいだな。
「おい、こっちに来てるみたいだぞ!!」
「なんだって!?」
近くにいた街人たちがそんな事を言い始める。そして、その言葉通りにモンスターはこちら目掛けて突進してきていた。
4足歩行で突進さてくるそいつは牛のような見た目に黒い毛、頭の両脇から生える獲物を刺し殺すための角を持っていた。
モンスターは門を目指して走っているようで、このまま行くと俺にちょうどぶつかるといった感じだ。
「ありゃあDランクモンスター、闘牛だ!」
「なるほど。」
「お、おい。にいちゃん! おめえ死にてえのか!? そこにいるとぶつかるぞ!!」
「……まぁ大丈夫……。」
「は?」
「シオンなら平気ですよ。」
「はぁ?」
よし、あれならスキルはいらないかな。
俺は迫り来る闘牛を見て、大剣を引き抜いた。
「おお……! な、なんだあの大剣は。」
「アレを振るうのか? あの少年が?」
「ま、まずいぞ。もうヤツが来る!」
「おい、少年! やめとけ! 危険だぞ!」
「ブオオオオオオ!!!」
「…………」
俺は敵が来るのに備え、大剣を正面に構えた。そして俺は――
「おい、あいつ目を閉じてんぞ!」
「なっ、本当だ!」
「何考えんてんだ!!」
「ああ、もうダメだ……」
「…………」
目を瞑ったのは、気配を強く感じるためだ。突進系で単調な動きをするような奴にはこの方が良い。とは言ったものの、本当に出来るかな……。
さて……来たな……。
「ブオオオオオオ!!!」
ココだ!!!
ザンッ!!!
「ブ、ブオオ、オ、オオ……」
モンスターは頭から一刀両断され、少し唸ったかと思うと地面に倒れ、事切れた。
「嘘だろ……?」
「あ、あり得ねえ……!」
「Dランクをスキルも使わずに一撃……。」
「しかも、目を瞑ってたぞ!」
「何者だ……あの少年は?」
周りの人たちがざわつき始めた。
やべえ。ちょっと目立ちすぎたか。
と、焦っていたら、俺に対するどよめきとは別のどよめきが起こり、周りにいた野次馬の道が開けた。そこから現れたのは――
「王様!!」
「おお! 王様!」
「王様だっ!」
わかりやすい冠に良い物を食べたせいであろう贅肉に溢れた腹。両隣に兵士をつけ、王は俺の眼の前まで歩いてきた。
「貴様がこれをやったのか?」
「ええ、まぁ。」
「このモンスターを余の我の大切な所有物であると知ってのことか?」
あー! しまった! 忘れてた!
「王様! そいつは俺たちを助けてくれたんですぜ! どうか許してやってくだせえ!」
おお、武器屋のおっちゃん! 良い人だなぁ。
「わかっておる。そもそもモンスターを逃したのはこちらの不手際だ。しかし我の持ち物を壊されて、ただで済ましても示しがつかん。そこで、貴様には闘技場への参加を命じる!」
「闘技場……ですか。」
なるほど、見世物にするってことか。
「うむ。貴様には壊したモンスター分ほどの利益は取り戻せるポテンシャルはあるとみた。剣闘者として闘い、我を楽しませてくれ。」
「良いでしょう。やってやりますよ!」
こうして俺は剣闘者として闘技場に参加することになった。