11話【太陽】
「ん、んんーっ」
おはようございます。俺の名前はシオン、よし記憶は無くなってないな。よく寝たぜ。さて、今日は剣を受け取りに行く午後まで暇だな。
「ん?」
何やら肌がベタベタするな……。それになんか服がはだけてるし。汗か? そんなに暑くはなかったけどな……。そういえば昨日の夜何か見たような……
「まぁいいか! シャワーでも浴びよっと」
俺は風呂でシャワーを軽く浴びて体をさっぱりさせた。その後服を着て、声がする方へ行くと、ソラとマルロはすでに起きていた。
「おっ、早いな。おはよう」
「……おはよう」
「おっ、おはようござい、ます……!」
何故かソラは顔をそらし、頬を赤らめている。なんだ?
「どうしたソラ? ん? お前……クマがひどいぞ? 寝れなかったのか?」
ソラの目の下にクマがあったので俺が顔をズイッと近づけると、ソラはザザッと後ずさりしてしまった。なんだ?
「へっ? あっ、ハイ! その夢中になってしまったというかやめどきがわからなかったというか……」
「はぁ? なんの話してんだお前」
「ま、まぁいいじゃないですかそんな事! それより今日は午後まで暇ですけどどうしますか?」
ソラが明らかな話題そらしをした。うん? どうしたんだソラのやつは……まぁ良いか。
「そうだなぁ、この前の戦闘でレベル上がったかどうかも見たいし、なんか簡単なクエストあるかも見たいからギルド行くか」
「い、良いですねー! 行きましょう行きましょう!」
なんか、アレだな……
「……なんか、今日のソラ、変……」
マルロが言いたいことを言ってくれた。そうなのだ、今日のソラはどこかおかしいぞ。
「ギクッ。い、いやぁなんでもないですよ。ははは」
「……ふーん。まぁそれじゃギルドに行くか」
俺たちは家を出て、ギルドへと向かい、まずレベルの確認をするためにレベル測定の受付のところへと行った。
「はーい、おはようございま〜す」
「あっ、ミランダさん……じゃない!」
そこにいたのはミランダさんではなく、髪をおさげにして、眼鏡をきっちりした女性だった。どことなく、ミランダさんに少し似ている。
「あら、はじめまして。私はロベルタと申します」
「はじめまして、俺はシオン。こっちの二人はソラとマルロと言います。レベル測定をしにきました」
「シオン……なるほど、あなたが……ふふふ。妹から話は聞いていますよ。わかりました、ではギルドカードをお預かりします。」
ミランダさん、いったいどんな話をしてるんだ……
俺たちはギルドカードを渡し、いつもどおりレベルを測定した。
「はい、出来ましたよ。」
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ソラ
レベル: 4
スキル:永遠の忠誠2
①上昇:自分もしくは想い人の身体能力を少し上昇させる。
②燃える想い:想い人への想いが強ければ強いほど炎の威力が上がる。想いが普通の状態で放った場合ただのファイアと同等の威力。
スキル:剣術1
①剣士見習い★:剣を扱う時の体さばきや剣の使い方が少しだけ上手くなる。
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「剣術……ですか。」
「剣術スキルが現れたって事はソラさんは剣を使ったんですね。このまま剣を使い続ければもっとスキルレベルは上がっていきますよ」
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シオン
レベル: 2
スキル:支配2
①信用支配★:人から好かれやすい
②部分支配:身体の一部分に力を溜める事ができる。
スキル:剣術1
①地獄の裁き:剣に地獄より呼び寄せし炎を宿らせる。この剣で何かを切ったならば、対象物は地獄の炎に灼かれることになる。
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マルロ
レベル: 2
スキル:研究3
①調合★:薬品の目分量が自分の思う量と一致する。
②溶解:両手から溶解性のある粘液を放てる。
③実験失敗:薬品と薬品を混ぜ合わせると何故か爆発する。
スキル:揺れ動く心
①種★:精神汚染系のスキルへの耐性が強くなる。
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「や、やった! レベルが2になった……!」
俺がそんな風に喜ぶ一方で、マルロとロベルタさんは驚きの表情をしていた。
「……早すぎる……!」
「こ、こんな速度でレベルが上がるなんて……聞いた事ありません……!」
俺とソラはその凄さがいまいちわからないのでポカンとしていた。ソラは気になったらしく、ロベルタさんに質問する。
「凄い事なんですか?」
「凄いなんてもんじゃありません。普通早くても半年はかかるはず……」
「半年……? まだ1ヶ月も経ってませんが……」
「……だから、おかしい」
よくわからんがレベルが2になったぜ! 実感はわかないがこれで身体能力も上がってるハズだ!
「そういえば、俺とソラの剣術ってスキル、名前は同じなのに中身は違うんだな」
「そういえばそうですね」
「あぁそれは別に珍しい事じゃないですよ? 人によってスキルの中身は変わってくるんです。……それにしたって地獄の裁きなんて聞いた事ないですけどね……。」
まぁ俺もニヴルヘイムについてはよくわかってないしな……。てか俺のスキル未だに誰も見た事無いって大丈夫かよ。
「……私のスキル、これは……」
「ふふ、マルロならこのスキルの意味、わかるでしょ? 頑張ってくださいね」
「……うん」
ロベルタさんは何やらニヤニヤしながらマルロを見ていた。マルロは顔をうつむかせて、頬を赤らめながら、時折こちらをチラチラと見てくる。なんだ、どうしたんだ?
「まっなんでも良いや、それよりクエスト行こうぜ」
「……そうですね、簡単なクエスト探しましょ」
「あら。もう行くんですか。じゃあ、せっかくだしこれ貰ってってください。」
ロベルタさんが小さな小袋を渡してくれた。中身を開けてみると、そこにはお菓子が入っていた。
「これは、クッキー?」
「ええ、私、お菓子作るの好きなの」
「なるほど」
俺は試しに1つ取って食べてみた。サクサクとほんのり甘い味が口の中に広がる。
「う、美味い」
「なら良かった、それじゃまた来てくださいねー」
「はい、また今度!」
俺たちはロベルタさんに挨拶をして、クエスト掲示板の方へと向かった。
「さて、短期間で終わりそうなものは……。」
キョロキョロと掲示板を見渡してみると、簡単なおつかいのクエストが結構ある。報酬も似たり寄ったりなので、俺は目をつぶり、適当に選ぶ事にした。
「これだあっ!!!」
ビシっと指をさしたが紙に書かれた内容はこうだった。
――――――――――――――――――――――――
・迷子の竜を探しています。
依頼主:ターキン
報酬金:3000ゴールド
参加条件:なし
依頼内容:息子が可愛がってたちっちゃい子どもの竜がどっか逃げちまった。探してくれ!
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「ちっちゃい竜ってこれ大丈夫なのか……? 子どもでも竜だろ?」
「……そもそも……基本的に竜の子どもは珍しいと言われている……というか普通見れない」
「ちょっと見てみたいですね」
「じゃあこれにするか」
俺はクエストを受付の人に渡し、依頼人と仲介してもらった。
椅子で待つ事5分、豪快に笑いそうなおっさんがやってきた。
「ダハハハハハハ! すまねぇな、こんな依頼でよ! あんまり懐いてなかったんだけどよ、息子がどうしても見つけて欲しいって言うからよ! あ、息子は5歳なんだけどよ! 写真みるか!? それじゃ頼んだぜあんちゃん!」
ま、マジで豪快に笑いやがった……。
「わ、わかりました。それで、その竜の子どもはどこらへんで迷子になったんですか?」
「昨日の事なんだが、息子は首輪みたいなのは付けないで街の中を散歩してたみたいなんだ。それで、どっかで急に見失っちまったらしい」
「それってもうこの街にはいないんじゃないすか?」
「いや、あの竜の子どもはまだ長距離は飛べないからよ、まだいるはずなんだよ!」
「わかりました。探してみましょう」
俺たちはターキンのおっさんと別れ、3人別行動で捜索を始めた。
「くるるるる……くわっ、くわっ!」
「うーん、これは確実に竜の子どもだよな。」
割と長期戦になると予想していたが、竜の子どもはあっさりと見つかった。公園の木に登っていたところを発見した。少しすると、ソラとマルロも合流してきた。
「か、可愛いです。」
「……珍しい。」
大きさは俺の顔より少し小さいくらいで、色は主に赤、体の所々に対照的な黒の模様が入っている。
「さて、じゃあ持って帰るか。ほらっ、こい。」
「くわっ!」
俺が体をつかもうとすると驚く事に竜の子どもは火を吐き出してきた。
「あっちいいいいい!!」
「……クスッ……。」
「ふふっシオン、それじゃファイアヘッドですね」
「あちち……なにを上手い事言ってんだソラ! お前やってみろよ!」
「言われなくてもやりますよ〜だ。」
俺は後ろへ下り、ソラと位置を交代した。
「まあ、見ていてください。……はーい、私と一緒に帰りましょう? ほおら、怖くないで――」
「くわっ!!」
ボッと火がソラの頭を焦がした。
「……殺します」
「アホかっ!」
「……私が近づいても威嚇してくる……あの竜の子は中々心を開きそうにないわ……違うアプローチを考えないと……。」
「んな事言ったってな……あ!」
俺はさっきロベルタさんから貰ったクッキーの袋を取り出した。
「竜ってクッキー食える?」
「……竜は基本的になんでも食べるわ。」
「そうか、じゃあほらっ、やるよ。めちゃくちゃ美味かったから竜の口にも合うだろ。」
俺は手で渡しても威嚇しそうなので、竜の近くにクッキーを投げた。
最初は警戒していたが、徐々にクッキーに近づき、最終的にはガツガツ食べ始めた。
「んー美味いか? 昨日から迷子って事は昨日からなんも食べてないだろうからな。いくら雑食といえどもお前はまだ子どもだし、自分でエサも獲れねえだろ。」
「くえっ♪ くえっ♪」
「くえっ、って食ってんのはお前なのにややこしい鳴き方する奴だな。ん?」
竜はクッキーを食べ終わるとトコトコと俺の足元まで歩いてくると、唐突に翼を広げ必死に飛ぶと、俺の肩の上に乗っかった。
「あっ……竜が、シオンに懐いた?」
「……竜は基本的に他種族に懐かない。これは本当に珍しい。……」
「信用支配のスキルのおかげかな? まぁなんにせよこれでクエストクリアだ。」
俺たちは竜の子どもを引き連れて、ギルドに戻りターキンのおっさんを呼んだ。しかしそこで俺たちは予想外の言葉を聞く。
「ええっ!? 竜の子どもはもういらないっ!?」
「ああ、息子がよ、懐かない竜なんてもういらないって言うもんだからよ!」
「そんな、無責任な!」
飼育放棄なんて大人のする事じゃねーぞ!
「すまねぇな! 子供って飽きっぽいだろ!? そもそも、その竜も偶然おれんちの庭にいたのを息子が1週間前くらいに見つけただけなんだ! たぶん他に飼い主がいる! みたところその竜あんたに懐いてるみたいだし、あんた旅人だろ? 旅のついでに飼い主探してやれや!」
「ちょ、ちょちょちょ――」
「そんじゃあこれ報酬、1万ゴールドにしといたからよ! ありがとよ! じゃあ息子が待ってるから帰るぜ! ダハハハハハハ!」
「お、おい、ちょっとま、待ってくれ!」
ターキンのおっさんは走りながら行ってしまった。
「お、おいおい。こいつどうするの?」
「くえっくえっ!」
「仕方ないです。飼い主が見つかるまでは世話するしかないでしょう。」
「ま、マジか……。」
「……まぁそれがこの子のため。」
「うーん。まぁ飼い主が見つかるまでなら良いか。」
「それじゃあ名前をつけてあげましょう。」
名前ねぇ、俺とソラはどちらも名前がなかったからな。名前の有り難みはよくわかる。
「そうだなー竜だし、ドラゴ丸とかどうよ」
「相変わらずダサい、却下です。花子ちゃんにしましょう」
「こいつはオスだぞ、さっき見たからわかる。却下。ドラドラはどうだ」
「名付けのセンスがない。却下。」
「なんだとこの野郎! お前の名前だって俺がつけたんだぞ? センスないと思ってたのか!」
「ソラだけはまぁ許せるレベルです。」
「コンニャロー!」
俺とソラがあーでもない、こーでもないと言っている時、マルロがボソっと発言した。
「……アポロン……」
「え?」
「……始祖たる竜の名前よ。……その竜は太陽にも劣らない炎を吐いたそうよ……だから太陽という意味を持つアポロンという名をその竜は授けられたの。」
始祖たる竜……やっぱり凄かったんだろうな。
「アポロン、かぁ……うん、良いじゃないか? よしっ、お前の名前はアポロンだ! 立派になれよ!」
「くえっ♪ くえっ♪」
こうして、俺たちに新たな仲間(仮)が加わった!