10話【ソラの欲求不満とその解消】
俺たちはエドガーさんの手を借り、なんとかマルロの家まで戻ってきた。
「や、やっと着いた」
「……じ、自分の家がこんなに遠いと思ったのは初めて……」
「こ、今回はやばかったですね」
「ああ、お疲れさん。でも素晴らしい戦いだったな」
俺たちはソファーに座り、テーブルに獲得素材であるケルベロスの尻尾を置いて話を始めた。
「倒した後に言うのもなんですけど、ケルベロスって俺たちのレベルで戦うべき相手じゃないですよね……」
いや、まぁ最初からやばい相手だとは思ってはいたけど……想像より遥かに強かった。
「まぁな! 俺もシオンの隠れた実力を信用してなかったらクエストを受けさせてなかったよ」
「俺の、隠れた実力……?」
そういえば初めにもそんな事言ってたな……人のこと見る目はどうのこうのとか。
「ああ、俺は割と人を見る目は持ってると自負しててね。それをお前には感じたんだ」
「そ、それだけで俺たちにあんな危険なモンスターと……!?」
「最後にやると決めたのはお前だろ? それに何故かお前は信用しちまうんだよな」
信用……信用支配のスキルが効いてるのか……? いやそれにしたって今回はギリギリだったぞ……。
「まぁちょっとヤバかったですけどね……シオンのあの新技が無かったら私たち死んでましたよ」
うんうん、ソラの言う通りだ。全く……死んでた可能性の方が高かったぞ。
「まぁ、生きてたんだから良いじゃねえか。もちろん武器作りは喜んでやらしてもらうぜ。その素材全部使ってな!」
「素材全部!? 嬉しいですけど、そしたらエドガーさんの分が無くなっちゃいますよ!」
「良いんだ。むしろ俺は嬉しい、久々に武器を扱うに相応しい人物に逢えてな。」
「……?」
そう言うとエドガーさんは俺とソラが借りて使った剣を机の上に置いた。
「この剣……使ってみてどうだった?」
「どうって……軽くて振り抜きやすいし、それでいて切れ味は鋭い。凄い使いやすい剣でした」
そう、俺は戦っていて何度もこの剣の凄さに驚いて助けられた。
「私も似たような印象を受けました」
「これは、俺が腕のリハビリの為に打った剣だが、これでさえ使いこなせる者はそういない。だが見てみろ、お前たちの使ったこの剣は的確に刃で敵を捉えているにも関わらず、剣がボロボロだ。シオンのに関してはもう折れる寸前。つまり、お前たちにはもっとレベルの高い剣が必要なんだ」
「レベルの高い……剣」
確かに、この剣を使った時、今までにないような攻撃の感覚を得た。エドガーさんがリハビリで打った剣でこれだとすると、本気で打ったら一体どうなるんだ……?
「そうだ、俺がお前たちの為に打ってやる。安心しろ、これでも昔は王国の為に剣を納品してたくらいの腕前だ、品質は保証してやる。どうだ?」
エドガーさんがそう言うなら、断る理由はないよな!
「こちらこそ是非お願いしますっ!! ソラも良いよな!?」
「ええ、もちろんです。よろしくお願いします」
「よし、承った! なら俺は家に帰って早速剣を打つ準備をする。明日の午後くらいには終わると思うから来てくれ、住所はここだ」
エドガーさんが紙に自分の家の地図を軽く描いてくれた。まぁ歩けばすぐ着く距離だ。
あ……そうだ、この機会にあれも使ってもらおう。
「はい。あとケルベロスの尻尾ともう1つ、これも一緒に使ってもらって良いですか?」
「これは……ビッグベアの毛皮か。わかった、使わせてもらう。ではまたな。」
エドガーさんは素材を持つと、自分の家へと帰って行った。俺たちは疲れた体を癒すため、お風呂に入らせてもらう事になった。
「……シオン、先入っていいよ……」
マルロが、何やらジーッと俺の身体を見つめながらそう言う。も、もしかしてめっちゃ匂うのか? 俺の身体。
「え、いいのか? も、もしかして匂う?」
「…………別にそういうわけでもない。私を助けてくれたささやかな恩返し……私も後で入るから気にしなくて良い……」
「そっか。なら先入らせて貰うわ」
俺はマルロの言葉に甘えて、先に入る事にした。俺はてっきり、マルロの家の様子からして風呂もビーカーでお湯の色が緑色とかかと思っていたが、普通のお風呂だった。俺は身体を洗い、湯へと浸かった。
「あぁあ……身体にしみるぅ……。」
それにしてもケルベロス、強かったなぁ。霊化してからのあいつの攻撃は驚いたな。
そういえば、途中で聞こえたあの声、いったいなんだったんだろう……。
「つーかあの技も、唐突に使えてビックリしたし……なんだっけ名前」
「……地獄の裁き、あれは素晴らしかった……」
「そうそう、それそれ。なかなか凄い威力だったよなぁあれ……」
「……やはり私の勘は間違ってなかった……シオン、貴方は面白い……」
「ははっ。お前も十分面白いけどなぁマルロ。……マルロ、マル、ロ? ……えっ!!?」
「……ん?」
「な、なんでお前ここにいんのおおお!?」
俺は咄嗟に叫んだ。マルロがあまりにも自然に身体を洗っていたから気づかなかった! こ、こいつ、後で入るってそういう後かよ! 俺の入り終わった後じゃないのか!
「……何故って、ここは私の家」
「いや、そりゃそうだけど!! お、男と女が一緒に風呂入ってたらまずいだろ!!」
「……確かに今私は、何故か心臓の鼓動が早くなっている……このままではまずいかもしれない……」
「いやそういうまずいじゃなくて!」
マルロはシャワーを止めると、立ち上がりこちらへ歩いてきた。マルロの白く美しい肢体が俺の眼に入ったが、俺は向きを変えマルロに背中を向けた。
「……なぜ、後ろを向くの? ……私の心臓の鼓動、早いの……聞いて?」
ピトッと俺の背中に何かが付いた。それは小さいながら確かに感じる膨らみ。
こ、ここここれはまさか、まさか……!
マルロの心臓の鼓動なんかより俺の心臓の鼓動がマシンガンのように早く打ち始める。と、その時扉が開いた。
ガラガラ
「ど、どこに行ったかと思いきや、やっぱり……! な、ななななにやってんですか!?」
振り向くとそこには顔を真っ赤にしながらこっちを向くソラの姿があった。拳を握りしめ、肩を震わせながらこちらにズンズン歩いてくる。
「ソ、ソラ!」
「シ、シオンは早く上がってください! マルロも離れてっ!」
「……あっ……」
ソラが俺たちの方へとくるとマルロを引き剥がす。そして俺の背中に伝わる暖かな肌の感覚は消えた。
そして脱衣所にマルロを放り投げると、ソラはこちらをジト目で見つめる。
「……シオン……私は知りませんでした……貴方がこういうプレイが好みなんて……」
「い、いやっ違うんだ! これはマルロが勝手に!」
「……へぇ……勝手にやられてた割には嬉しそうな顔でしたが……?」
ソラの冷ややかな目が俺に突き刺さる。うっ、怖えぇ……!
「そ、それは男としては仕方ない反応でだな……!」
「……そうですか……私が間違えていました……」
少し俯きながらソラはそう言った。表情は見えないが……納得してくれたのかな?
「な、ならよかっ――」
「ふふふ……私が間違えていました……! 自分の欲求を抑える必要なんてないんですね……!?」
「へっ?」
「……一晩中……堪能してやります……!」
「えっ? ちょ、なんの話……っ!?」
するとソラは不気味にニヤリと笑うと悪魔のような顔をしながら去り際にそう言って扉を閉めた。
「……出るか。」
俺は身体を拭き、服を着てソラたちのいる部屋へと戻った。するとマルロとソラが入れ違いで2人一緒に風呂へと入り、部屋は俺1人になった。
俺はマルロに寝る場所を教えてもらったので、その部屋に行き、先に布団へと入った。もちろんあいつらとは別の部屋だ。布団に入ると疲れがドッときて、すぐに寝てしまった。
深夜、何か違和感を感じ、少しだけ目が覚めた。しかし頭はボーッとしていてこれが現実なのか夢なのかよくわからない。
「ふーっ、ふーっ。スンスン、はぁはぁ。シオン……シオン……!!」
何かが俺のベッドにいる……? いや気のせいか? 頭が夢と現実の狭間のような感じでよくわからん……。
なんだか柔らかいものが俺の身体中に押し付けられているような気がするけど……それに太ももにもなんか擦り付けられてるような……俺は少しだけ太ももを動かしみた。
「んんっ……! ぁあっ……! ふふっ……急に動かしたりしたら……ダメ、ですよ……?」
なんだか身体中が濡れてるような気がする……汗かな?
少しだけ気になって、自分の布団を寝ぼけながらめくってみる。そこには全裸で俺の身体に自分の体を擦り付けながら俺の匂いを嗅ぐソラの姿があった。
「…………そ、ら………?」
「……!!……シ、シオン? ち、違うんですよこれはちょっと抑えきれない欲求から嗅ぎたくなっちゃったというかなんというか――」
……そんなわけないか。あいつは別の部屋にいるはずなんだし……マルロの裸なんて見たせいで意識しちゃってんのかな…………寝よ。
「ぐぅぐぅ」
「……ね、寝言ですか。危ない危ない。ふ、ふふふ……駄目ですよ、マルロに裸なんて見せちゃ……はぁはぁ……!」
ソラの夜は長い。




