第14章 私は鎧を着ています。[クーデターIII]
014
「信じられない……セングラフがこんなにも凄い感覚を与えてくれるとは……ハハハ……」
ルイスの軍勢が完全に叩きのめされる中……ヘンリー王はその光景を眺めながら、この上ない満足感に浸っていた……
彼は謁見の間の入り口前で気を失って倒れているクロエを見つめる……
そして彼女の方へと歩み寄る……
「それで……次はお前たちだ……」
お前を殺せれば……聖騎士の座は我が息子のものとなる……
そして我が権力を阻む者は誰もいなくなる……
「マジェスティ☆キャノン!!!」
ちょうど二階から降りてきたメグミが、即座に魔力を国王めがけて放った……
メグミの魔力はヘンリー王子の腕の鎧を粉々に打ち砕くほど強力だった……
「!!!」
だが砕け散った鉄片は再び集まり、元通りに癒合していく……
「娘よ……セングラフとは生物や物を蘇らせる禁書だ……いくら撃とうと揺るぎはしない……」
「マジェスティ☆ビーム!!!」
金色の魔法の光が再び放たれる……しかし鉄片はまた元通りに修復されていく……
「ふふ……哀れなものだな、我が娘よ……」
ヘンリー王はゆっくりとメグミ王女に歩み寄る……彼女がどれほど強力な魔法を放とうとも、あの鎧を破壊することはできなかった……
王はメグミの魔法の杖を弾き飛ばした……
王女の表情は今なお平静を保っていたが……その瞳には絶望の色が色濃く滲んでいた……
王は左手でそっと……娘のこめかみを優しく包み込む……
「お前は……決して我に勝てはしない……」
「せめて……母上だけは……逃がして……」
「おお……なんと……可愛い娘だ……血の繋がらぬ母の命を、己の命より大切にするとは……」
ズブッ!!!! 金属が肉を貫く音がメグミ王女の耳に響き渡る……
視線を下に向けると……大剣が自らの腹を貫いているのが見えた……
血……血……血……
刺された腹から……ゆっくりと……流れ出ていく……
「だがお前は我を愛すべきだったのだ、お前の継母と同じように……そして我が殺した実の母親とも同じように……」
彼は剣を引き抜こうとした……だが王女はその手を押さえた……剣が抜ければ、大量の出血を招いてしまうからだ……
しかし王はそんなことなど気にも留めない……
「アアアアッ!!!!!」
魔法に包まれた黒い剣は、今や自らの娘である少女魔導師の血に濡れていた……
素早く引き抜かれ……彼女の体はその場に崩れ落ちた……
血に染まった剣を見た王は……血を振り払う……
「ふん……愚かな娘だ……そのまま死んでしまえ……」
王は剣を振り上げた……そして-----------------
ガシャン!!!!
上方から宮殿の窓ガラスが割れる音が響き……白髪の屈強な青年の姿が現れた……
その姿を見た王は……一瞬、動揺を隠せなかった……
ありえない……そんなはずはない……
幻覚か? メグミが作り出した幻影か? 何かの罠か? それとも我の幻か?
数多くの説明が頭に浮かぶ……そしてすぐに理解できる説明もあった……
「知りすぎた者め……我が命令に背いて何をする気だ……」
王は、二階の天井の穴に横たわるマルガムの遺体を憎悪の眼差しで見つめた…。
その男……つまり上から飛び降りてきたウィリアムは、王側の兵士の顔を掴み、地面へと叩きつけた……
ズブリ!!! 血と頭蓋骨の砕ける感触が手の中に広がった……
「これは……」
彼が腕を振るうと、その一撃が兵士の一人の首を捉え……首の骨が瞬時に粉々に砕け、その兵士の頭は肩から吹き飛んだ……
「………ああ……分かったぞ……」
兵士たちが次々と彼に襲いかかる……しかしウィリアムは一撃ごとに相手を沈黙させていく……
そしてその一撃一撃は……いずれも人を一撃で死に至らしめるものだった……
宮殿の床は、ウィリアムに処理された兵士たちの血で染まっていった……
「分かったぞ……我が洗脳されていた間……この体は人や動物を殺さぬよう、ずっと力を抑え続けていたのだ……」
セングラフは単に生物や物を蘇生させるだけではない……その人間、あるいはその動物の身体能力を、元の十倍にまで引き上げる力を持っていた……
そしてウィリアムは、生前すでに常人以上の頑強な肉体を持つ騎士として死んだのだから……一撃で人を屠れるのも、何ら不思議なことではなかった……
「ウィリアム!!!!!」
敵の……いや……彼と他の者たちから全てを奪い去った、あの畜生の叫び声……
ウィリアムはヘンリー王めがけて駆け出し……拳を振るう……
王もまた拳を振り返した……
ゴギン!!!!!
両者の拳がぶつかり合う衝撃が辺り一帯を揺るがし……宮殿の窓ガラスが割れた……
「貴様!!……棺の中で眠っているべきだろうが!!!!」
「棺の中にいるべきなのは……お前の方だ……この狂った王め……」
王は剣を掴み、ウィリアムに斬りかかる……彼はすんでのところで跳んでかわした……
ウィリアムは身体の敏捷性を活かし、怒りに任せて王へと突撃する……
彼は鉄の腕を踏み台にし、それから胸を思い切り蹴りつける……そして顔と胸を交互に激しく打ち続ける……
そして王が倒れた瞬間、好機と見た……
同時に飛び込み、王の顔面を何度も連打する……
その拳は王の顔に、幾度も……幾度も打ち込まれた……
一発目、二発目、三発目、四、五、六、七、八、十三、二十四、六十……
怒り……憎しみ……彼の全ての感情がその拳に込められ……解き放たれていった……
夢見ていた全てのもの……だがそれはたった一人の男によって、一瞬にして消え去った……
そしてその男が、今まさに目の前にいる……
ガキン!!! 鎧の前面が砕け散った……ウィリアムがもう一撃を放とうとする……
しかし鎧の破片は瞬時に元通りに融合し直した……
「!!!」
王はその一瞬の隙を突き、ウィリアムの顔面を打ち、彼のバランスを崩させた……
王はセングラフによって強化された、常人離れした速さでウィリアムを壁に叩きつけた……
「これは……あく……」
「兵士たち!!! 大丈夫か!?」
クロエとルイスが意識を取り戻し始めた……二人は謁見の間の状況を確認しようとする……血だまりを目にした二人は、自分たちの兵士の様子を見ようと駆け出した……
そのため、右手側にいる鎧を纏った王の存在に気づくのが遅れてしまった……
「あっ……クロエ!!……危ない!!」
よろめきながらも杖を拾いに行ったメグミが、最後の力を振り絞って二人に警告する……
しかし王の拳と剣先は、既に二人に迫っていた……
だがウィリアムは再び魔法で大きく跳躍し、代わりに王の剣を受け止めた……
「アアアアアッ!!!!!」
「兄貴!!!」
クロエが治療しようとする……しかしウィリアムの傷は瞬時に塞がってしまう……
セングラフの魔法のせいだ……
「ふふ……ウィリアムよ……お前はなんと弱いことか……」
自分がもはや標的ではないと悟ったクロエは、メグミの元へ杖を届けようと走り出す……
「姉様!!! 早く……その傷……」
「ああ……ありがとう……」
「兵士たち!!!!!……」
ルイスが兵士たちの容態を確認しに行くと……何人かは気を失っているだけだったが……
一部は既に、あの黒い剣によって命を奪われていた……
「貴様……何をした……」
ルイスは怒りを込めて王子を睨みつけた……この兵士たちは共に血と汗を流してきた戦友だったからだ……
それがこうも無残に王に殺されるとは……あまりにも……
忌まわしいことこの上ない……
ルイスは再び剣を抜き……王の方へと歩み寄る……
「ハハ……死んだ仲間のために怒るのか?……滑稽極まりないな……」
「この下衆め……」
ウィリアムは再び顔面を殴りつけようと駆け出す……しかしまた弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた……
「さあ……死にたいなら来るがいい……聖騎士殿……」
車の中で……
「よし……準備はいいか……」
リボンが車を運転していた……二人の少女は頷き……車を発進させた……
そして車が謁見の間のある一帯に到着すると……
「撃て!!!!」
少女たちは所持していた全ての銃器で宮殿に一斉射撃を浴びせ、瞬く間に煉瓦の壁を穴だらけにした……
「ルイス!! 伏せて!!」
クロエがそう叫ぶと、ルイスはすぐさま地面に伏せた……
パンパンパン……
自動機関銃の弾丸が宮殿の壁を撃ち抜き……その威力の粒子は建物を貫通し……少女たちには即座に標的が見えた……
「あそこだ!! あの黒い鎧に集中砲火を浴びせろ……」
銃声は五分ほど鳴り響いた……
「効いてる?」
ゴゴゴ……宮殿からコンクリートの塊が浮かび上がる……
「外に出ろ!!!!!」
ドスン! ヘンリー王が引き剥がしたコンクリートの塊が車めがけて投げつけられ……車体と武器の一部が損傷した……
今や宮殿の入り口では、銃声によってさらに激しい戦闘が繰り広げられていた……
「大丈夫か……」
「うん……」
「小娘どもめ……生意気な……」
王は命を奪おうと三人の少女の方へ歩み出す……だがウィリアムが再び王に飛びかかった……
「ウィリアムさん!!!」
「お前たち!! 逃げろ!!!!」
王はすぐにウィリアムを掴み、背中をV字に折り曲げると……そのまま自らの玉座へと投げつけた……
「所詮お前は下級兵士に過ぎん……」
王はそう言い放った……
「我に立ち向かったところで、お前の妻が戻ってくるわけでもあるまい……ハハハハ」
そして再び剣を取りに歩み出す……
メグミは再び魔法を放とうと構える……
「素手で我と戦いに来るか……それとも我を倒そうとでも思っているのか?」
三人の少女は宮殿の中へと駆け込んだ……
「ウィリアムさん!!!!! 起きてください!!!」
「ウィリアムさん!! 早く起きて!!!」
「起きて!!! パパ!!!!」
「鎧がなければお前に何ができる!」
〔ウィリアム……これから先……お前は何をするつもりだ?〕
〔そうだな……俺は身を引くつもりだ……誰かと一緒に……いや……お前たち全員と……穏やかに暮らしたい……〕
〔うふふ……キャサリンがすごく暴れてるわ……このパパのことが本当に大好きなのね……〕
〔当然だろう……俺はただの騎士ナンバーワンじゃない……父親ナンバーワンでもあるんだからな……〕
〔よく言うわね……あなたって……いつも子供を泣かせてばかりじゃない……〕
〔ふん!……でもキャサリンは泣き虫じゃないよな! なあ!!!!〕
〔ハハ……でもさ……キャサリン一人だけでいいのか? 寂しいかもしれないぞ。あと二人くらい弟妹がいた方がいいんじゃないか……〕
〔あなたってベッドの話が好きよね……〕
〔黙れこの馬鹿……〕
〔頼む……彼女を放してくれ……お願いだ……俺を殺してもいい……ただ彼女だけは放してくれ……〕
〔助けて!! うぅ……お願い……私にひどいことしないで……〕
〔ケイティ!!! ケイティ!!!〕
俺は……こんなにも弱いのか……
妻一人すら……守れなかった……
俺は弱い……ずっと弱いままだった……
いや……違う……
〔だって私たち子供って、みんな英雄の話が聞きたいものでしょう……〕
ヒメコ……
〔あら……仲良しすぎて親子みたいね……〕
マベル……
〔親子?……おじいちゃんと孫かと思ってたわ……〕
リボン……
{ウィリアムさん!!!!! 起きてください!!!}
そうだ……今は居眠りしている場合じゃない……
{ウィリアムさん!! 早く起きて!!!}
起きろ、俺自身!!!
{起きて!!! パパ!!!!}
今すぐお前たちを助けに行く!!!
「鎧がなければお前に何ができる!!!」
「あるさ……」
ウィリアムは再び立ち上がった……
それを見た王は、怒りが頂点に達していた……
「なぜ死なぬ……一体!!!」
「鎧がなければ何もできぬと言ったな……ならば……来るがいい!!!!」
ウィリアムは空中へと手を伸ばした……
王はその様子に思わず困惑の表情を浮かべた……
「一体何のつもりだ-------------」
ガシャン!!!!!
いくつものガラスが連続して割れる音が響き……ウィリアムが鍛え上げた鎧の破片が次々と彼の元へと飛来する……
「うおおお!!!! これアイアンスーツ・マーク42じゃないか!!」
クロエがその光景に目を輝かせる……
「え?……アイアンスーツって何……いや、うおおおおお!!!!!」
三人の少女はクロエと共に歓声を上げた……
「貴様は……我が妻とこの俺を殺した……」
ガチャッ!!!……カチッ……カチッ……カチッ……
右腕の鎧がウィリアムの体に装着される……
「貴様は……三人の王女を拐って凌辱した……」
ガチャッ!!!……カチッ……カチッ……カチッ……
左脚の鎧がウィリアムの体に装着される……
「貴様は……彼女たちを苦しめた……」
ガチャッ!!!……カチッ……カチッ……カチッ……
背部の鎧がウィリアムの体に装着される……
「貴様は……彼女たちを犯して身籠らせ……そしてこの子らを、いや……この三人の子の母親たちを殺すよう命じた……」
「な……なんだと……」
その場にいた全員が、この衝撃の真実を耳にした……三人の少女はただ呆然と立ち尽くし……事情を多少知っていたメグミでさえ、もう一人と共に言葉を失っていた……
ガチャッ!!!……カチッ……カチッ……カチッ……
腰と胸の鎧がウィリアムの体に装着される……
「貴様は……メグミ王女の姉を、彼女から奪い去った……姉の名はヒメコというな……」
「………姉様……ヒメコ……」
「王女は……私の妹だったということか……」
ガチャッ!!!……カチッ……カチッ……カチッ……
左腕の鎧がウィリアムの体に装着される……
「貴様は……ロイヤル・リボンの宝石を盗んだ……我が妻の形見であり……我とダリアスとの友情の絆を結ぶものだったというのに」
「先祖代々受け継がれてきた宝石……ということは……」
ガチャッ!!!……カチッ……カチッ……カチッ……
右脚の鎧がウィリアムの体に装着される……
「そして貴様は……その全ての罪を償わねばならぬ……」
ガチャッ!!!……カチッ……カチッ……カチッ……
そして頭部の鎧がウィリアムの体に装着された……
「貴様を裁くのは……この俺だ……」
カチッ……カチッ……カチッ……
巨大な鉄の塊が、美しくも堅牢な銀色の剣へと姿を変えた……
「ウィリアム……お前……」
「だから今度は……俺の番だ……」
ガチャン!!! フェイスマスクが閉じられた……
それが意味するものはただ一つ……
すなわち、準備は万端ということだ……




