第2話 雑すぎる物語、わたくしが正しますわ
第2話です。
ついに悪役令嬢が作者に反撃を開始します。
「雑な物語は許さない」
そんな彼女が、自分の結末を書き換えていくお話です。
※メタ要素を含みます。
――――どうして、わたくしを殺したの?
鏡越しに問いかけた瞬間、女――ハナの顔色が変わった。
「……え、ちょ、待って。いや、殺したっていうか、それは物語で――」
「答えになっていませんわ」
言い訳など聞く価値もない。あの時、あの場で――確かに私は死ぬはずだった。恐怖も屈辱も、すべて現実だった。それを“都合”で片付けるつもり?
ハナは言葉に詰まる。その様子を見て、私は小さく息を吐いた。
(この女、まだ自分が何をしたのか、わかっていない)
「まあいいわ。今はそれどころではないもの」
「え?」
鏡から離れる。話しても埒が明かない。
「ちょっと、無視!? ねえ、無視しないでよ!」
背後から騒がしい声。うるさい。
「静かになさい。耳障りですわ」
「うわ、性格きつ……!」
「当然でしょう? わたくしは悪役令嬢ですもの」
言い切ると、ハナは絶句したらしい。
改めて部屋を見渡す。品はない。しかし――興味深いものが多い。
机の上には黒い板。淡く光り、意味ありげに待っている。
「それ触っちゃだめ――!」
ハナの制止を無視し、私は手を伸ばす。
ぱち――画面が切り替わった。文字、画像、見慣れぬ記号。光る板の中の世界。
「……ほう?」
「ちょ、待って! タブレット壊したらマジでアウトだから!」
「あら、これがタブレット……ですの?」
「そうよ、高いんだから。触らないで」
「ふふ、動きましたわ、こうかしら?」
指を滑らせ、画面を操作する。便利な世界ね――即座に理解できた。
机の上の紙にも目を通す。書きかけの筆記具。
――処刑の場面。
断罪、糾弾、涙する主人公、歓声を上げる民衆――そして、誇張され、歪められた“わたくし”。
「……なるほど」
紙を置き、鏡越しのハナを見据える。
「三流ね」
「は?」
「構成も動機も浅い。登場人物の感情も薄い。特にここ――処刑理由のくだり。証拠も曖昧、状況証言だけで有罪? 笑わせないで」
「いや、それは物語的に――」
「“物語的に”便利だから?」
言葉を重ねる。ハナは黙り込む。
「くだらない」
吐き捨てるように言い、鏡に一歩近づく。
「そんな粗雑な筋書きで、人一人を殺そうとしておいて…満足していたの?」
ハナが俯く。沈黙。肩をすくめる。
「まあいいわ。どうせ最初から期待なんてしていない」
ならば、私が直してあげる。
「この物語――」
机の上の原稿を見下ろす。
「気に入らない。雑すぎるし、醜すぎる」
視線を上げ、鏡の中のハナを射抜く。
「この結末は認めない」
静かに、しかし確実に宣言する。
「書き換えるわ」
「は……?」
「あなたが書き、わたくしが正す」
言葉を遮る。扇でも持つように、優雅に手を掲げる。
「やるのです」
お読みいただきましたわね。
……まったく、三流の筋書きを押し付ける作者には困ったものですわ。
ですが、わたくしが少し手を入れたので、これからは見られる物語になるはずです。
続きも、きちんと見届けてくださいまし。




