40話 謎の城
チュンチュンと、小鳥が囀る音が聞こえる
朝だ、俺はそう思い、ベットから起き上がった
今日はそう、国運天秤裁判、第二審が執り行われる日…俺が証拠として提示したいくつかが使用される日だ
試験の合否判定を祈るかのように、頭でずっと、ノア様達の勝利を祈り続けている
街の人たちもそれは同じなようで、アイラの無罪を訴えるデモ活動を行う国民と、それを軽く遇らう国民達で街は侵食されていた
今日もどうせ任務だとは思うが、俺としてはノア様達が勝つという可能性を少しでも信じている限り、なにも苦痛だとは思わなかった
家には俺以外、人の気配が全くしない、妹はやはりまだ帰ってきていないらしい…
国民ではなく戦士側の意見の大半は、「裁判なんてどうでもいいから早くこの凶暴化騒動を終わらせてくれ」というものなのに、そんな文句を一つも言っている所を見せない妹は、本当に強いんだなと今更ながらに認識する
………他人の事を考えられるほど、今俺の心には余裕があった
希望を持つというのはこれほど大切な事なんだなと、改めて気づかされた
ありがとうございます、ノア様。
そんな事を考えながら朝食を作って食べていると、突然俺の連絡用の端末から叫ばれたような音が鳴り響いた
センターからの任務の招集だ、だが端末から直接連絡されるという事は…これは緊急の任務
なにやら面倒くさい事になりそうだ
連絡を聞いたアレスは、なるべく急いでセンターへと向かっていった
そこにはアレスとギルベルトの他にもう2人、エルナと、そしてノアがいた
「え!?ノア様!?どうしてここに…」
「へー、私の事は無視するんだーふ〜ん、私だってここにいるのにね」
ノア様に聞いたはずなのに、何故かエルナがでしゃばってきた、しかも全然答えになっていない
「そう言えばお前もいたか、お前出るのめっちゃ久しぶりじゃね?出番大丈夫?読者に忘れられてない?」
少し煽るような口調で話すアレス
「マイロよりはマシよ」
「それもそうか」
エルナはそれを冷静に返した、2人がしれっとメタ的な会話をしている隙をついて、ギルベルトが状況を説明し始めた
「今回皆様にお集まりいただいたのた理由は、先日発見された所有者不明の建物を調査していただくためです」
建物?そんな話は初耳だ
「一つ、質問よろしいでしょうか?それ…私ならともかく、アレスやノア様まで動員させる必要あります?」
何故俺とノア様がさも同格かのような言い回しをしたのかは謎だが、確かにその通りだ
それを調査するだけでわざわざ王国最強の戦士を動員させるのは不自然すぎる
それに、モンスターの凶暴化が相次いでいる今のこの状態、不審な建物一つくらい無視してもおかしくはない気もするのだが……嫌な予感がしてきた
「これはまだ世間には公開していない情報なのですが…この国に悪魔が発見されました」
ちらりと一瞬俺の方を見た後、この場にいる3人にそう言った
「え?悪魔!?なに、どういうこと?」
「言葉の通りです」
「そんな…」
それを知って、エルナは声を少しだけ震わせながら、両手を口元に近づけた
隠してはいるが、間違いなく怯えている
当然の反応だ、悪魔は、人間のDNAに敵対心と同時に、恐怖心も生まれつき植え付けられている
俺はノア様に諭される前から、この悪魔がアイラを無罪に出来る証拠になるのではないかと内心少し期待していたから、それが防護服のように働いて恐怖を感じなかっただけで、これが本来、悪魔が現れたと知った人間の反応なのだ
「その悪魔は、今生きているのか?」
ノアが質問する、迫真の演技だ
「いえ、既に発見した戦士が倒したようです」
「なるほど、つまり発見された建物にその悪魔の残党が潜んでいる可能性があるから、我々でそれを調査してこい…いや、万が一悪魔と遭遇した場合、その場で倒せ…というのが任務と?」
「呑み込みが早くて助かります」
「悪魔…か」
ノア様が俊敏に会話を進めている中、エルナが不安そうにそう呟いた
実際俺も不安だ、実際にバイアと戦ったからわかる、悪魔の力は、俺が想像していたより遥かに強い
あれは幹部レベルだからというのもあるだろうが、逆に言えば幹部レベルであれなのだ
幹部は同じ位でも、実力に相当のバラつきがあるという…それにその建物に悪魔がいたとして、それが何体いるのかも分からない
もしかすると四天王レベルもいるかもしれない。考えれば考えるだけ不安な要素が思い浮かんできて、その度にまた不安になっていっている
そんな中ノア様は淡々と、俺たちにこの場で簡単に確認を取った後、この任務を請け負ってくれた
そんな姿を見ていると、何故だか途端に安心できてくる
この人がいてくれるなら、何者にも安心して生き残れるような、そんな言葉のない説得力が、ノア様という存在自体にはあった
いつの間にか、アレスにもエルナにも、不安は少しずつ微かな希望に置き換えられていた
次回以降、向かっていきます。評価:・ブクマ、よろしくお願いします!