激昂する影
見渡す限りの大地は、屍で埋まっている。
『はっはっはっはっ!!
他愛もない、手応えなど微塵もない。
このような世界のものなど滅んで当然。
この世界は俺様が制圧した。
悔しいか、女神よ!
どうせそこから見ているのだろう。
また次の世界も同じように滅ぼしてやる!
楽しみにしているがいい!』
黒く染まった空を見上げ、
黒いローブ姿の邪神は
大口を開けて笑い飛ばしていた。
「いやいや、もう次はないっていうか、
あんたがここで滅ぶんだけど。」
邪神は今まで暴れ回っていた大地が
足元から消え去り、空中で透明な床の上に
立っていることに気が付いた。
『おのれ、人間!
貴様、この俺様を謀ったなっ!!』
「謀るとかではなく、あんたが見たい夢を
勝手に見ていただけですよ。
じゃあ、まともに斬り合うつもりはないんで、
ここでサクッと滅んじゃってください。」
俺は黒い邪神にそう言い放つと、
不可視の聖域を狭めていく。
かなり抵抗されている。
神狼達を傷つけられて
気が少し立っているのか、
イライラした俺は、
聖域の外に時の牢獄を張って、
聖域を解放した。
同時に内部に亜空間収納を繋いで、
中に収納していたオリハルコンの鱗を
隙間なく詰め込んでやった。
さらにその鱗の隙間に
聖水をひたひたに満たして、
時限発火の魔石が入っている玉を投げ込んで、
時の牢獄の外側にもう一度
不可視の聖域を張ると同時に牢獄を解放した。
ボンッ!!
という音と共に、聖域を目一杯圧縮してやった。
・・・少し待ってもいつもの討伐のメッセージが
聞こえてこない。
嫌な予感がした俺は、
浮かんでいた場所を急いで離れた。
悪い予想通り、俺の影のあった辺りから
黒い剣が飛び出してきて
そのまま黒いフードの邪神もついて出てきた。
今頃気がついたけど、
空中に浮かんでいる俺の影が
何もないはずの空中に落ちていた。
そして、今俺の目の前に黒いフードの邪神が
無傷で剣を構えている。
その足元にも俺の足元にも影が落ちている。。。
あり得ないな。
俺はふと思いついて、
自分の影の脇腹をさしてみた。
グァッ!
俺の体に激痛が走った。見ると脇腹が切れている。
どうやらあいつの世界の理に嵌っているようだ。
黒いフードの邪神が大声を放った。
『あの程度でやれると思うなよ、人間!
貴様はこの俺様を謀ってくれたのだ。
たっぷり礼をさせてもらうぞ。
簡単に死ねると思うな!!』
俺の影が八方に拡散したと思ったら、
その影から黒い剣が突き出てきた。
思わず飛び上がったけど、剣先が伸びてきて、
俺の両足に刺さっていた。
飛び上がった位置でさらに俺の影が広がって、
また黒い剣が飛び出してくる。
流石にマズいと思った時、どこからか飛来した
光の矢が剣を打ち据えた。
俺は黒い邪神から距離を取ってから、
矢の来た方向を振り向いた。
「英雄様!
あの地上の方へ向かってください!」
緑色のマントを翻した一団がその声と同時に
黒い邪神に光の矢を一斉に放った。
声を放った戦士が指差している地上の方へ
俺は降下することにした。
降下途中も横に投影された影から
剣が突き出てきたりしたが、
ひたすらに躱しながら
降下速度を上げていった。
足の傷は地上に降り立つ頃には
自動回復のスキルのお陰で治っていた。
地上に落ちた俺の影から黒い剣と一緒に
黒い邪神が飛び出してきた。
「英雄様、御免!!」
野太い声が俺に向けて放たれると同時に
凄まじい閃光が俺の周りを飲み込んだ。
目眩しで目がやられたけど、
あいつに効果があるかどうか分からない。
俺は高速でジグザグに地上を移動し続けた。
視界が取り戻せた時、黒いフードの奥から
黒い靄を撒き散らしている邪神の姿が映った。
『おのれ、人間ども!!
聖光拘束陣とは姑息な手を!!』
邪神の周りには確かに光の網が
張り巡らされていて、黒い邪神の
動きが封じられているようだ。
そこに先ほどの光の矢が
無数に打ち込まれていく。
俺が斬り込む隙間がないくらいの矢が
射掛けられている。
あー、これで終わるかな、と思っていると、
「英雄様、これをお使いいただけませぬか?」
背後から野太い声がかけられた。
振り返るとギルドマスターに似た
褐色の髪の小柄なヒゲモジャの男の人が
ほとんど反りのない剣を捧げ持っていた。
折角なので使わせてもらおうと思った。
「有り難く、使わせて頂きます。」
俺は剣を受け取ると、
邪神の方へ駆け出そうとしたら、
嫌な気配が大きく膨らむ感じがした。
『おのれ、おのれ、人間どもっ!!
調子に乗るなーーーっ!!!』
頭の中が割れそうなくらいの大声が
響いてくると同時に、
光の網と射掛けられた光の矢を
引きちぎりながら、黒い影が壁のように
大きく膨れがっていった。
ついに邪神がブチギレたみたいだ。
駆け出していく俺に並走する人達がいた。
「「英雄様、共に戦わせて頂きます!」」
「よろしくお願いします!!」
20mくらいの大きさに膨れ上がった邪神相手だと
一人だと心細かった。
共闘の声は俺の心に大きなゆとりを産んでくれた。
凄い早さで振り下ろされてくる黒い剣が数十本もあった。
受けられるだけ受けようと構えた時、
横合いから飛び出してきた2m近い巨躯の戦士達が
手にした大剣で受け止めてくれた。
その黒い剣を持つ腕のようなところ目掛けて、
ケモミミの戦士達が咆哮を上げて飛びかかり、
カギ爪のような武器で斬りつけていた。
『邪魔だてするなぁーーーっ!!!』
絶叫が頭の中に響いてくると、
黒い壁の中から無数の黒い剣が飛び出してきた。




