第六話 戦う人
「向こうの林の中に板東さんの連れがいるみたいだから……この死骸は放っておいたらいい、すぐ朽ち果てて消える」
サキにケガがないことを確認したルイが立ち去ろうとする。
「待って」
「ああ、これがアンブラカナムだ。危ないってわかったろ? もうオレの心を読んで居場所がわかっても近づかない方がいい」
「怒らないの?」
サキの感じ取ったルイの感情は怒りだった。サキの行動に腹をたてているのである。そして、話すのも億劫だと会話を拒否している。
いや、この拒否反応はサキに対してだけではない。むしろ、苛立っているにも関わらず、他に燻る正体不明の憎悪や嫌悪よりもサキに対するルイの感情はまだまともなのだ。
「どうしてこんなことを?」
少しだけ遠慮がちにルイが聞く。
「どうしても知りたかったの。ワタシの能力って曖昧だから、細かいところまではわからないの。だから……」
「じゃあこれで満足しただろ、もうしない方がいいって」
「ねえ、どこ行くの?」
「どこも。おかげさまで仕事がはやく済んだしな」
「じゃあ少しだけ話さない?」
「ごめんだね、連れが待ってるよ」
「別にどうでもいいよあんな人」
「オレも別にどうでもいいよ、板東さんの超能力とか」
「……」
サキは無言でルイの後を着いていく。どうやらルイは帰るつもりらしく、道端にぽつりと置いてあった原付に向かっていった。
「ZXだっけ、これ」
「……よくそんな呼び方知ってるな」
ふとルイが笑った。サキのイメージに合わない言葉が出てきたからのようだ。
「2ケツしようよ」
「捕まっても知らんぞ」
「大丈夫大丈夫、裏の方通れば」
「ああ、優秀なセンサーがついてるんだったっけ」
「そ、全部お見通しなんだから」
走り去る原付を一人の男が見送っていた。先に逃げたサキの連れである。男はしばらくボーッとしていたが、少ししてトボトボと明るく人が賑わう大通りの方へと歩いていった。
* * *
サキとルイは廃墟のような倉庫のような場所にいた。
サキを送ろうと思ったのだが、どうしても話を聞かせてほしいとせがんだのである。そして、特に行く宛てものないルイはしぶしぶここに連れてきたのだった。
「ここって秘密基地?」
「みたいなもん。オレの持ち物じゃないけど」
「……へー、能力の先輩がいたんだ。その人のものなんだね」
「あぁ、話が省けるな」
「なに? その人が師匠みたいな感じ? 他に仲間は?」
「確かに先生的な存在だったけど、仲間はいないよ」
「一人でカナムと戦ってるの?」
「ああ」
「他にそのプロジェクション能力を持ってる人はいないの?」
「わからないけど、いるんじゃない? 先輩は何人か知ってたらしいけど」
「あ、その人たちは別の場所で戦ってるってやつ?」
「いや、多分戦ってない。っていうかプロジェクターでカナムと戦ってるのはこの辺じゃオレだけだと思うけど」
「どうして?」
「なにが?」
「他の人はどうして戦わないの?」
「あん? なんで戦わなきゃいけないんだ?」
「え? だって能力があるんだし」
「このプロジェクション能力は生まれつきで、別に選ばれた者が持つようなもんじゃないんだよ、強さもまちまちだし」
「でも、潜んでるカナムがわかるんでしょ?」
「だから、普通はその能力でカナムを避けるんだって。戦わないよ、わざわざ」
「避ける、だけ?」
「板東さんがプロジェクターならわざわざカナムと戦いたい? もっともっとでかくて強いのがわんさといるけど。場合によっては群れでいるし」
「そりゃあ嫌だけど……でもさ、じゃあなんで三木君はカナムと戦ってるの?」
「……言いたくない」
「黙っても無駄だけど」
「……」
「んーと」
「……」
「逃げる、ため?」
「ハァ……」
「逃げる? なにかを嫌がってる?」
「もうわかってるんだろ」
「逃げたいのは、現実から、かな?」
ルイが顔を地面に落とした。




