第二話 射抜く影
「えーと、手品とか心理テスト?」
「ううん、超能力」
「あっそう……」
寒空の下どうしてこんな会話をしているんだろう。ルイは馬鹿馬鹿しかったがサキは真剣なようだ。
「どうして信じないの?」
「いや別に」
「信じてよ」
「信じるよ」
「信じてない」
「もう、なんだよ」
「信じてくれないと話が進まないの」
「なんの話だよ」
これもサキによる観察の一環なのだろうか。目的不明の押し問答にやや疲れてきた頃、サキが少しばかり方向を変えてきた。
「じゃあさ、信じなくてもいいけど、もしもで考えてよ。ワタシがエスパーだとしたら困ることない?」
「あるよ、誰だって心読まれたら嫌でしょ」
「そうなんだけど、三木君特に困ることない?」
「オレだけが困ること? 別に、人と同じだよ」
「ふーん……」
不服そうに呟きながら、サキは公園にある照明の下に立った。影が長く伸びてルイのもとにまで届く。
自然に影を目で追っていたのに気づき、内心焦りながらルイは顔を上げた。
「影」
サキが地面を指差す。胸がはねた。
「影がどうしたの?」
サキの問いかけ。鼓動が少し早くなる。
「なにって、なにが? こっちが聞きたいけど」
「三木君って、いつもすごく影を気にしてるよね。なぜ?」
「そう? 自分ではわからないけど」
「そう?」
「ああ。いやさ、なんなの? なにが気になるの? なにが言いたいの? 心が読めるとかいきなり言ったりよくわかんないんだけど」
わざと冷たく言い放つ。エスパーだなんて信じてはいないけど、もしかしたら勘づかれたのかもしれない。下手をすると見られたのかもしれない。
「あくまでしらばっくれるかぁ」
「ごめん、よくわかんないわ。悪いけど他に用がないなら帰っていいかな?」
「あー、じゃあ、いいよ。気をつけてね」
「ああ。そっちこそ女の子の独り歩きは危ないし気をつけろよな」
「ワタシは大丈夫だよ、だってワタシはーー」
「ーー何とも戦わないし」
ルイの心臓が口から飛び出るかと思った。
「はい? なに?」
声が震える。
「なにしてるのか教えてよ」
足が震える。
「なんのこと?」
まずい。あまりにもまずい。
「いつも何と戦ってるの?」
「……なにって、なに? 人間は誰でも毎日なにかと戦ってるよ、仕事とか勉強とか」
「もうっ、まだ誤魔化すの?」
「いや、ごめん、よくわかんない」
「毎日考えてるじゃん、戦い方とか、『敵』のこと警戒したり」
「敵って、そんなこと考えてないよ」
「そう? じゃあ、『アンブラカナム』ってなに?」
「っ……!」
ルイは完全に言葉につまってしまった。それは知られてはならない秘密だったのだ。




