第一話 はじまりの夜のはじまり
クリスマス・イブはクリスマスの前夜ではなくクリスマスそのものを指すらしい、つまり12月24日の夜はもうクリスマスなのである。
なぜそんな話をするかといえば、今日がそのイブだからである。
ただ、ルイのような人間にとってはイブだろうがクリスマスだろうが肩身の狭い鬱屈した時間でしかなく、はやく嵐が去ってくれることを願うばかりである。
それでも12月に入ってから続いてきた聖夜に関する過剰なコマーシャルがようやく終わることを思うとせいせいする。そんなことを考えながら電車から降り、赤と緑の補色が彩る町に出たときだ。
「ねえ、三木君」
自分を呼ぶ声に少し驚いて振り替えると、そこには見たことのある顔があった。
「あー……」
クラスメイトの女子である。名前は板東沙紀。
「おつかれ」
「おつかれさま」
とりあえずの挨拶は交わしたものの、どんな話をすればいいかわからない。話題がない。サキとはクラスメイトである以外の繋がりが特にないのである。
まして、サキは美少女であった。常に男子から憧れの目で見られており、女の子の話をするときは必ず名前があがるような女子だ。ルイの苦手なタイプである。
「今帰り?」
サキからの問いかけに内心まいったと思った。話が続くのは困る。
「うん」
「遅いね、なにしてたの?」
「え?」
「バイト?」
「いや、ただの寄り道……」
もう放課後やら帰宅時間やら呼ぶには遅い時間で、現にサキは私服である。
しかし、そんなことを聞かれるとは思っていなかった。聞かれておかしい質問ではないのだが、自分の行動のようなサキにとって興味のないことを挙げてまで話を続けられるとはルイは思っていなかったのである。
「誰かと会ってたの?」
「クリスマスだからってみんながみんな誰かと会うわけじゃないよ」
少しの皮肉だ。自分のキャラクター的こういうことを言っておけばいいのである。
「ふーん、予定はないんだ?」
やけに食い下がるなと思った。
「ないよ」
「まったく?」
「ないない」
バカにされてる気がして内心少し苛立った。冗談ではなく本気で聞いているようだったからだ。
以前からルイはサキが少し苦手だった。話したこともろくにないがときどき目が合うのだ。
はじめこそ気のせいだと思ったり、もしかして……という淡い期待を持つこともあったが、冷静に考えるとどうも違う。サキはルイを微妙に観察しているフシがある。
「あのさ、少し時間ある? 少しだけ」
「……どこか行くんじゃないの?」
駅のすぐ外でたまたま会ったのだからサキには予定があると見るのが普通だ。その予定を変えてまでの話となるとあまりいい予感はしない。つまり、なにか文句を言われるのではないかということだ。
ときどき目が合うのが偶然だったとして、それがもしルイがサキを見ていると勘違いされていたら? それを気持ち悪がられていたら?
「ううん。いや、行くけどまだ後だし」
「ん? ああ、うん。じゃあ、わかった」
よくわからないが逃げられないらしい。覚悟を決めて近くの公園に移動する。
まぁ文句を言われるというのは酷すぎる予想だとして、なんの話なのか気になりはする。ルイはサキだけだはなく女子と話すことがほとんどないのだ。警戒心とほんの少しの好奇心からサキに付き合うことにした。
「ワタシね、少しだけど心が読めるんだ」
しかし、その好奇心はルイの予想を超えた聖夜をもたらすことになるのだった。




